【8年目の3・11】止めなくした被ばく線量下限 渡辺悦司さん(市民と科学者の内部被ばく研究会)インタビュー

「史上最悪」の福島原発事故と健康被害 安倍首相「健康被害は一切ない」発言で

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前号に続き福島原発事故問題を取り上げる。「市民と科学者の内部被ばく研究会」の渡辺悦司さんは先日、「放射線被曝のもたらす健康影響の全体像の把握に向けて」を書き上げた。そこでは、(1)放射線によるがんや心臓病に加え、脳や神経への影響で能力が落ちる症状も含め、人体影響への全体を見るべきだ。(2)政府の「福島事故の被ばく被害ゼロ論」が実行されれば、何度でも原発事故が許容され、自滅的結果になりうることが最大の問題だ。(3)「被害ゼロ論」の目的は、今の原発事故被害や将来の事故被害を隠すためだけではなく、米国をはじめ帝国主義が進める「使える」小型核兵器の戦争において、放射能は安全で被害無しと言うためである。(4)被ばくによる危険性を主張すると、さまざまな批判反論にさらされ、被ばくそのものを言いにくくされているが、堂々と主張して国と明確に対決することが必要であり、それは世界の終わりを世界の変革へ変える道でもある。といったことを、膨大な資料をもとに展開した(全文はhttp://blog.torikaesu.net/?eid=82)。渡辺さんに話を聞いた。2回に分けて掲載する。(編集部・園)

原発事故被害ゼロ論の虚構政府側専門家の「安全・安心」は二枚舌

編‥国は全国のPTA大会や学校現場で『放射線のホント』『放射線副読本』を配り、「福島事故の被害はゼロ」「被ばくは体に悪影響がない」と主張し、問題になっています。
渡辺‥被ばく被害の否定は、チェルノブイリ原発事故以降の国際原子力マフィア=「核帝国主義」の基本路線です。事故直後に山下俊一らが福島に入り、「笑っている人には、放射能の影響は来ません」と講演して回ったのが最初です。これは、「みんな笑って病気になって死んでもらいましょう」という示唆です。

 彼らの「放医研」内部では「これは深刻になるぞ」と言いながら、市民向けには「影響はない」と言い続けました。2枚舌です。彼らは今後何が起きるのかわかっていたのであり、被害ゼロ論は、事故前から決まっていた、国際的な対応策です。

 次の画期は、安倍首相の東京五輪招致時の「過去・現在・未来も福島事故の健康影響は一切ありません」との発言です。実は日本語のテキストでは、原発汚染水の影響について言ったかのように読めて、そう思っている人も多いですが、英語版では「全てに影響がない」と言い切っています。これが本音です。

 そのための方便として、事故当初は「年間100mSv以下の被ばくの健康影響はわからない」と言っていたのを、安倍発言以降は「影響はない」と断定しました。2枚舌を「影響なし」で統一しました。また、被ばくの影響に閾値はなく、なるべく避けるべきだとする「予防原則」を撤廃しました。放射能からの避難の必要性・正当性を無くせるからです。こうして「事故被害ゼロ論」は完成しました。

 『放射線のホント』でも、原爆に関する国側の最近の本でも、放射能による「致死量」には絶対に触れません。原爆被害に言及はありません。これは原爆犠牲者への冒涜でもあり、後述する小型核戦争の狙いと関係してきます。

 年間100mSv以上の被ばく者は居ないと否定していますが、年間20mSvの帰還困難区域に住民を帰していますから、5年間で100mSvに到達します。
 
 ですから、今は下限値を「1Sv」に上げようとしています。原子力規制委員会は、1mSv解釈の変更を進めています。一般住民の年間1mSv/y基準に相当する被ばく線量率を、現行の4倍または7倍に引き上げるのです。これが実施されると、「100mSv」は、国際社会や放医研すら、放射能で人間が死ぬ下限値と認める「1Sv」を超えるのです。

 なお、規制委がこの根拠にした早野龍吾東大教授らによる論文は、論拠となる福島県伊達市の住民の被ばく線量を3分の1に過小評価したことが大問題となっています。それでも規制委は、1mSv解釈の改訂を変わらず進めると言っています。これはいわば、「住民に対する大量虐殺政策」ではないでしょうか。

全省庁を動員した被害隠し「放射能安全キャンペーン」

 どんなに不正が発覚しても突き進む政府の方針は、2017年末に全省庁へ指示した「風評被害払拭のための原子力タスクフォース」です。「被ばくの被害があると思うから病気になる」という「主観主義」が取られ、「取り締まらなければならない」とまで公言しています。

 これにより農水省は「福島県産を食べて応援」宣伝を一層強化。外務省は、海外に放射能安全キャンペーンを大々的に発信し、日本に呼び込もうとしています(日本の海外観光客は過去最高を更新中)。また総務省は、マスコミ対策でしょう。原発被害や避難者の報道をさせず、福島に帰還した人々だけを報道しています。

 昨年の「紅白歌合戦」で、『嵐』の歌唱中に彼らの飯舘村訪問映像を流しました。厚労省は、とにかく東日本の病院の病者・死者データを隠し続けています。そして文科省は、「放射線のホント」で「被ばくしても影響は無い、遺伝的影響も一切無い」と生徒児童を洗脳し続けるのです。

 しかし被害は莫大で、隠しきれずに出てきています。だから、国の主張は暴論化しています。「放射線のホント」「放射線副読本」などは、私たちが被ばくを広く問題化するチャンスにすべきです。

子どもと若者の白血病・がんリスクを高める被ばく

編‥健康被害はどのように増えているのでしょうか。国が一切調査しませんが、若い著名人の大病や急死も目立っています。
渡辺‥脳や臓器への重い病気と、うつやアレルギーなどの疾患が増えます。もちろん被ばくの影響を個々に証明はできませんが、著名人の病態から市民の状態を推察できると思います。

 2月にまだ18歳の水泳の池江璃花子選手が白血病を発症し、国内外に大変なショックを与えました。彼女は3・11当時、10歳です。広島原爆の後に急性白血病で死亡した人は、被爆時の年齢が10歳前後の人が極端に多いことがわかります(表1)。8年後からですが、子ども・若者は放射線感受性が高く、被ばくと白血病の因果関係は明確です。

 彼女の住む江戸川区は、年間1mSv以上の地域に含まれ、東京都でも最も線量の高い地域の一つです。知人は、今でも雨どいから庭石に放射能測定器を落とすあたりで数値が急上昇するといいます。

 また東京東部の亀戸の室内プール(荒川・利根川水系、金町浄水場)が池江選手の本拠地です。金町浄水場は事故直後に高い放射能が検出されました。東京湾など、水自体がひどく汚染されています。病院の統計でも福島・関東の白血病や血液がんは明確に増えています(表2)。

 東京23区で14歳以下の子どもは、約100万人です。この子たちの放射線感受性を、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準によって3倍としましょう。同じくICRPによる白血病発症リスクは、約42~54件/万人・Svです。池江選手の被ばく量を8年間で5mSvと最低値で推計したとしても、100万人の子どもたちに対しては4200~5400人程度の白血病が、発症している可能性があります。

 そしてECRR (欧州放射線防護委員会)によれば、ICRPは約40~50分の1の過小評価ですから、子どもの白血病も、人数が何倍にも増加する可能性があります。池江選手の白血病は氷山の一角でしょう。

福島県の心筋梗塞は全国1位心臓の筋肉を冒すセシウム

編‥他にも、漫画家のさくらももこさんが昨年は乳がんを再発して急死。17年に急死したアナウンサーの小林麻央さんも、乳がんでした。「EXILE」の中尾翔太さんは、22歳で胃がんによって急死しました。
渡辺‥乳がんは、白血病に次いで放射線感受性の高いがんの一つです。1Gyの被ばくで発病リスクが倍になります。中尾さんも、胃がんは発病率が高く、事故当時は10代半ば。育ち盛りで被ばくすると影響が出やすいのです。

 首都圏に集まるスポーツ選手、歌手、声優・俳優により強い被ばく影響があるとしたら、運動や発声で呼吸量が多く、空気中の放射性微粒子を人より多く吸うからだと思います。

 福島県と平野続きの関東や東北南部では、福島原発から出た放射能が微粒子となって空気中を舞い続けています。遠方から東日本に行った人が、咳が止まらなくなったり声が出なくなり、離れたら元に戻ったという報告は、多数あります。

 病気は複合要因です。被ばく以外の原因があっても、被ばくは(1)発病しやすくなり、(2)病気の進行を早め、(3)病気の悪性化を進めるのです。

 心臓では、心筋梗塞と心不全の2つについても、福島県の心筋梗塞は全国1位で、急増し続けています(表3)。また、心不全も増えています。昔は、血管の中にコレステロールがたまり、血栓になって詰まると言われていましたが、最近の医学では、血管が炎症を起こすと、そこに白血球などが染み出して心臓の血管をふさいだり、脳に飛べば脳梗塞になります。動脈では大動脈解離が起きます。全て突然死の要因です。

 放射能は細胞に炎症も起こします。放射能が入ると、活性酸素となり、酸化ストレスを起こし、炎症を起こすのです。突然死の引き金になっていると言えます。

 また、福島原発から多く放出された放射性セシウムは、心臓の筋肉にたまりやすいことを、バンダジェフスキー(チェルノブイリ・解剖学者)が証明しています(表4参照)。

 日本政府と国際原子力マフィアは、全て分かったうえで、「事故の被害は無い。あると言うなら自分の被ばく線量を自分で証明してみろ」と、不可能に近い要求をしてきます。私たちは、この壁の前で被ばくの被害や責任追及を言いづらくさせられています。

 しかし私は、このように集団的に表れた疾患・症状の全体を見た時に、その人たちが被ばくしたかどうかを病理病態学的・症候学的に特定することが可能ではないかと思っています。福島事故の被害者、典型的にはいま賠償裁判が闘われている米軍の『トモダチ作戦』に従事した兵士たちの症状は、被ばく状況は違うのに、チェルノブイリ・広島・長崎・核実験被ばくの症状と酷似しているからです。

生活能力全般が低下する「新ヒバクシャ」の症状

編‥被ばくはうつ病やアレルギーも増加させると言われています。

 東京で4千人もの患者を診てから岡山へ避難した三田茂医師は、「『新ヒバクシャ』に『能力減退症』が始まっている」という論文を出しました。
渡辺‥被ばくは単一の大病だけではなく、複数のがん、脳や神経の異常、アレルギーなど、非定型的な複数の症状を同時に起こします。

 三田医師は「疲れやすさ、眠気、記憶力・集中力・判断力・理解力の低下など、生活能力全般の低下や、化学物質過敏症などが東日本で広範囲に見られる」、「私たちは自身を21世紀の新ヒバクシャだと再認識し、自ら健康を保持しなくてはならない」と言っています。

 首都圏を中心に爆発的に広がっているインフルエンザなどの感染症にも、影響があるかもしれません。
 また3月3日の読売新聞が「避難指示が出された福島県の11市町村で、要介護認定を受ける人が急増。葛尾村は全国1位」と報道しました(ただ常に被ばくの影響は言わず、避難生活が悪い、戻れば良いという論調です)。

 ADHD、自閉症なども増加傾向にあります。福島県が発表した「学校統計要覧17年度版」では、「特別支援」の児童生徒数は10年度と17年度を比較した小学校が2倍近く、中学校が1・52倍に増加しています。うち「知的障害」では小学校が約1・5倍に、さらに「自閉症・情緒障害」は2・61倍に増加しています。政府・行政は、被ばくの影響も含めて系統的調査を行うべきです。

 脳にトリチウムが入って血管が炎症を起こしたり、コルチゾールが不足して精神に影響することが考えられます。

 そうしたことについての被ばくの影響への理解がないと、子どもの不可思議な行動ややる気のなさを、親や教師が暴力的に「しつけ」たりすることも増えます。これは家庭、教育、ひいては社会の崩壊を引き起こすでしょう。

 影響を理解し、本人の責任ではないとしなければならない。あらゆる病気・症状に被ばくの影響を考え、問題を見つめ、告発する勇気を持つことが必要です。(次号に続く)

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