2018年上半期、韓国社会最大の論争点はミートゥー運動だった。
2018年1月29日、現職検事のソ・ジヒョンがJTBC放送のニュースルームという番組で、検察内の性暴力を告発した。検事という地位にいる人でも「女」という理由により職場で性暴力の対象になり、これまでまともに告発・処理できなかったという点は、全国民に大きな衝撃を与えた。最も視聴率の高いニュース番組に直接出演し告発したという点も、大きな話題になった。これに続き、演劇界、映画界、文学界、政治界、学会など社会各界各層の内部で、ミートゥー運動がはじまった。
2月14日、劇団ヨニダン・コリぺの芸術監督、李ユンテクのセクハラがSNSに暴露された。これに対し数多くの俳優たちが「自分も性暴行をされた」と次々に暴露した。李ユンテクは韓国演劇界を代表する劇団の実質的なリーダーである自分の権力を利用して、相対的に弱い立場にいる俳優たちに常習的に性暴行をしたことが明らかになった。
その後、ヴェニス国際映画祭で受賞した映画監督・金ギドクと、ノーベル文学賞候補になったことのある詩人・高銀も、文学界で自分の権力を利用し、俳優たちや出版社職員、文人たちに常習的に性暴力を加えた事実が暴露された。
これによって、性暴力が個人の道徳的問題ではなく、主に権力によって強者が弱者に対して行う暴力であり、社会的問題だという認識が強まった。
ミートゥー運動は政界にまで影響を与えた。3月5日、JTBCニュースルームで、安ヒジョン忠清南道知事が、自分の随行秘書に8カ月にわたり性暴行およびセクハラをしたという内容が報道された。安ヒジョンは、文在寅が当選した第19代大統領選挙において、支持率が第2位にまでなったことがあり、次期大統領として有力視されるほどの人物であっただけに、世間の衝撃は大きかった。彼は2018年8月2日現在、非拘束で起訴されており、第一審の裁判中だ。
同一犯罪同一処罰訴え6万人集会へ
5月1日、弘益大学のヌード・クロッキーの授業中、ある学生が男性モデルの顔と性器が写りこむ盗撮をし、「ウーマッド」のサイトにアップした。ウーマッドの会員らはこの写真を共有し、男性モデルを性的に卑下し嘲った。検察の素早い捜査によって、犯人は10日目に検挙された。容疑者は被害者の同僚の女性モデルだった。容疑者は、普段から被害者に恨みをもっていてウーマッドに裸体写真を流出したと述べた。
この事件が処罰されるべき犯罪であり、道徳的に批判されるべきなのは当然だ。しかし、女性を対象にする男性たちの盗撮が深刻なかたちで蔓延しているのに、これまでこれに対する警察の捜査と処置が不十分だったという状況的脈絡が作用し、事件の焦点は別の方向へと流れていった。被害者が女性である時と男性である時の警察の対応があまりにも大きく異なることに対して、性別の関係なしに公正な捜査をしろと要請する声が高まったのだ。これは大統領官邸へ向けた国民請願になり、40万人を超える国民が署名をし、社会的大問題になった。
5月19日、フェミニストたちは「同一犯罪同一処罰」を訴え、恵化駅付近で「盗撮偏向調査糾弾」第一次デモを開いた。第一次集会には1万2000名に達する参加者たちが集まり、社会的関心を集めた。6月9日の第二次デモには2万5000名、7月7日の第三次デモには6万名が集まるなど、集会を重ねるごとに爆発的な参加率を見せるようになった。
彼らが3度のデモを通して政府に要求したことは、「女性警察官を90パーセント比率で任命」「女性警察庁長の任命」「文ムイル検察総長辞退」「判事および検事など高位官職に女性任命」「デジタル性犯罪映像を撮影・流布・販売・購買者に対する厳重処罰」「デジタル性犯罪国際協調捜査強化」などだ。
恵化駅のデモは、いくつかの論議を呼び起こした。フェミニストたちの中でも問題になったのは、「生物学的女性」のみがデモに参加できるという条項ゆえに排除される参加者たちがいたことだ。
この場合、例えば男性から女性に性転換したトランスジェンダーは、女性の範疇に入らないのでデモに参加できなくなった。実際この条項は、デモ参加者の安全のために初めてつくられたものだ。フェミニストたちを嫌悪する男性たちがデモにこっそり潜入して攻撃してくる余地があったからだ。
しかし、トランスジェンダーもまた盗撮偏向調査を糾弾するデモの主体になりうるのに、彼らを排除したことが問題になった。これに対しフェミニストたちの間で「女性とは何か」「生物学的とは何を意味するのか」についての論争が起こされた。
急激に変化する韓国フェミニズム運動
現在韓国で「フェミニズム」は一つの声として代弁されていない。「女性」の範疇と運動方法などで互いに異なる立場を持ついくつもの分派が競合し、課題によっては連帯し、運動を進めている。「生物学的女性」という自分たちが想定した限定された範疇だけを運動の主体とする者がいれば、他方では「女性」という範疇に問いを投げかけ女性たちの間の差異を強調し、互いに異なる弱者たち間の連帯を強調する流れもある。
狭い範疇で主体を限定した後に、自分たちの権益のみを主張し、他者を排除するやり方は問題があり、フェミニスト内部でも大きな批判がなされている。
しかし最も警戒すべきは、一部フェミニストたちの男性嫌悪の方向性と、自分とは別の弱者を排除する方向性を強調し、フェミニズム運動全体の意義自体をねじまげ無効化させる「バック・ラッシュ」(女性権利伸長を阻止しようとする反動のメカニズム)だ。いくつかの批判にもかかわらず、恵化駅デモは大きな論争を呼び起こし、盗撮問題について市民たちの関心を喚起し、政府の対策を促した。これは実質的に盗撮被害の主な対象であった者たちの権益を守るさいに、大きな役割を果たした。
韓国社会においてフェミニズム運動は、かなり短い間に急激な変化を経つつ進んでいる。オンライン上の連帯に始まった「再起動」であるだけに、一つの課題に結集し、多数が大きな声を出す点は明らかに大きな力であるが、運動のやり方に対する十分な熟考や討論が不足して、また別の問題が生じてもいる。
しかし、既にフェミニストたち内部でこれに対する問題提起がなされており、学会や討論会を開いたり、新しいグループを結成し新しい言説の場を開く動きも、あちこちで起こっている。したがって外から簡単に問題を指摘する「外在的批判」よりは、フェミニストたちの活動に対する、より深い関心と応援が必要な時だ。 (終わり)