失業率のまやかし 失業率が下がっても上がらない賃金は共通

産業予備軍が先進国でも顕著に ピート・ドラック(アムネスティー・インターナショナルなどで活躍する活動家) 翻訳・脇浜義明

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米労働省が失業率は3・9%で2001年以降最低となったと発表。失業率が下がると賃金が上昇するのが世の習いだが、賃金は物価上昇に追いついていない。実際の失業率は12%以上だというマサチューセッツ大学研究者の報告がある。失業統計に関する手品を見てみよう。

政府発表より高い実際の失業率

 世界中の政府の失業統計は、失業手当を受けている元正規労働者だけを数えて失業者数として発表したもの。実際の失業率は政府発表よりも数倍高いのが普通だ。どの国の政府も失業実態を不明確にし、主流メディアが政府発表の失業率が真実であるかのように仕立て上げる役目を果たす。

 米国の実情から検討しよう。5月に発表された失業率は3・8%、2008年の大不況後時期の半分以下である。これはILOが定める全世界共通の失業者指数U-3失業率と言われるもので、これに「正社員になりたいがパートタイム就業しかできない人」、「周辺労働者 ― 現在は職を探していないが以前就職活動し働く用意がある人」、「職探しをすっかりあきらめた人」を含めたU-6失業率で見ると、7・6%になる。それでも2010年の失業率の半分以下である。

家族全員が働いても苦しい生活

 何人の人が仕事に就いたのかを表す指標を「就業率」という。16歳以上の労働可能人口数から受刑者や精神障害施設に入っている人をのぞいた人口をこのやり方で見ると、5月の米国就業率は62・7%になる。これは1970年代にケインズ主義政策が衰退して以来最も低い水準で、2000年5月の67・3%のピーク時からかなりの落ち込みである。昔は、確かに、就業率が低かった。1950年代~60年代の就業率は常に低かったが、それはその当時夫1人の賃金で家族全体が食べていけた時代であったからだ。現在は、家族全員が働いても生活が苦しい時代である。

拡大する賃金格差―大量の産業予備軍

 ここで問題は賃金に移行する。1969年の賃金はGDPの52%で最高だったが、その後すぐに43%に落ちた。この5年間の賃金がGDPに占める割合は1929年以降最低で、賃金水準は物価上昇と生産性向上を下回り、しかも賃金格差も大きくなっている。

 経済政策研究所の報告では、2000年から2017年まで、高賃金労働者の賃金上昇は堅実で、過去40年間続いてきた賃金格差がこの17年間でいっそう拡大した。これは上位10%の賃金労働者のことで、平均的労働者の賃金上昇は、例えば2017年ではわずか0・2%であった。インフレーションはそう高くないとはいえ、賃金上昇よりは高いので、実質賃金は低下した。同研究所の報告は、「賃金停滞が意味しているのは、経営者の方が優位に立っていることだ。産業予備軍の存在のおかげで、経営者は高賃金で人集めする必要がなく、労働者もうかつに賃上げストや闘争を組めないということだ。実際に求職活動をしていなくても、たくさんの予備労働者が存在していることを、労使双方が知っている」と書いている。

カナダ、英国、EUなどその他の国々では

 カナダでも、4月発表の失業率は5・8%で、1976年以降最低だという。本当のところはどうなのか。正規雇用が見つからないので仕方なくパートで働いている人を失業者に含めると8・6%~14・2%という統計があるが、大体13%ぐらいだろう。就業率で見ると、カナダの就業率は2003年の67・7%から2018年4月現在の65・4%と減少している。

 英国の最新公式発表失業率は4・2%。シェフィールド・ハラム大学が2012年4月の失業者数3400万人以上という調査報告を行っているから、それに基づけば5・7%になる。

 EU全体では7・1%の失業率(ギリシャは20・8%)。U-6失業率で見れば14%になる。オーストリアの政府発表の失業率は5・6%であるが、2017年2月に民間研究団体が調査した結果によると15・4%であったから、実際はもっと高いであろう。

欧米の緊縮 財政と賃下げ

 賃金停滞も問題である。米欧では賃金上昇が生産性上昇に追いついていない。これは世界的現象だが、特に米国でそのギャップが大きい。次にドイツ。ドイツ社会民主党が労働市場および年金制度について「改革アジェンダ2010」法を成立させて緊縮財政を実行してから、労働者の賃下げが続いている。

 米国連邦準備理事会は経済成長のためには賃下げしろと勧告。フランス、イタリア、日本でもこのギャップが見られる。

 企業の外国逃亡というグローバリゼーション時代には、プレカリアート(不安定層)が増加し、正規雇用がグローバル次元で減少する。経済学者ジョン・ベラミー・フォスターらはILOの資料を使って研究し、グローバル産業予備軍(不完全雇用者も含む)が、正規雇用者14億人に対して、24億人であるという数字を出した。産業予備軍は低開発国ばかりでなく先進国でも顕著になっている。

 ローザ・ルクセンブルグが「社会主義か野蛮か」と予言した時代が近づいてきたと言える。

参考文献…Zコミュニケーションズ・デーリー・コメンタリー/2018・6・10

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