【いま米国では】米・シカゴの高校生がストライキ

「教員を武装させるより、ぼくらを図書と教育資源で武装させよ」Zコミュニケーションズ・デイリー・コメンタリーケリー・ヘイズ(シカゴの 女性活動家) 翻訳・脇浜義明

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 米国の学校で銃による無差別殺人がやたらと起きている。今年の最初の45日間に8校で発砲事件、19人死亡、37人負傷。先住民との講和に反対した独立戦争、独立後は先住民虐殺の西部開拓、奴隷制暴力、20世紀には植民地拡大戦争、帝国主義戦争、21世紀はテロとの戦争…等々、暴力によって発展してきた。米国は、国民生活でも暴力文化と競争文化を特徴とする国だ。生徒の銃暴力に対抗するために教師に武装させる、と大統領がのたまう。武器商人は大喜び。なお、銃撃犯には圧倒的に白人少年の数が多い。

 3月14日、この狂った社会を正常にしようと、高校生が立ち上がった。一方、米国防総省は「アーリーバード・ブリーフ」という報告書で、17~24歳の米国若者の10人のうち7人が軍人に相応しくないと宣言。肥満、精神疾患、教育不足、非行などをその理由にあげているが、そういう状態を作り出したのは自分たちであることには頬被り。
 国家から非難されたその高校生たちが、国内・国外で銃を振り回す米国暴力文化と資本に「ノー」を突き付けるストを行った。50州、3000校で、100万人以上がスト。フロリダ州の17歳の高校生が、「大統領はライフル協会からカネを受け取るな」と叫んだ。
 これを書いているとき、黒人少年が警官に銃撃されて死んだ。警察は少年が武器を持っていたと言ったが、持っていたのは携帯電話。しかも、20発も弾が撃ち込まれた。これは銃規制云々の問題ではなく、暴力で弱いものいじめする米国文化の問題であろう。(訳者)

 3月14日、100万人を超える高校生がスト。「女性の行進、ユース・エンパワー」が生徒、教職員に銃規制法制定を求めて17分間の学校ストを呼びかけたのに応えたものだが、生徒たちはそれを超える要求と問題提起を行った。

 たとえば、スクールポリスの予算を精神衛生サービスへ回せとか、一般的な銃規制問題を越え、黒色・褐色人を標的にした銃暴力の指摘、さらに移民生徒とその家族を移民税関捜査局(ICE)から守る法的プログラムを学校が持つことを要求する、など。ニューヨークの高校生は、「構内の黒色・褐色人を犯罪者視する発想や慣行の廃止」を掲げ、シカゴの高校生は、銃乱射事件よりも有色人や貧困者が日常的に受けている公的権力の銃暴力の重視を訴えた。

 シカゴのストとデモも銃規制が中心テーマだったが、コミュニティ間の暴力対立を生み出す状態、その状態を州や国家が促進していることに目を向けよ、と呼びかける高校生集団がいた。彼らは、デモ行進の後、市役所前で集会、当局に要望書を渡した。
 その内容は、「公立学校生徒は、常に予算減や閉校に脅かされ、居住コミュニティでは警官の暴力に脅かされている」状態を指摘し、公立学校を民営化し、浮いた予算で警察学校を建設しようとしているラーム・イスラエル・エマニュエル市長(民主党)を非難するもの。スクールポリスや金属探知機や特定人種や社会層の生徒を犯罪者予備軍扱いする慣行を止め、特別教育、第二言語としての英語コース設置、精神衛生サービスなどに力を入れる方が、「学校が安全な生徒の居場所になる」うえで役立つ、と論じた。
 集会の後、一人の生徒が市役所内に突入、「教員を武装させるより、ぼくらを図書と教育資源で武装させよ」と叫んだ。

地域闘争として広がる可能性

 他に、カウンセラーや図書司書や養護教員の増員、放課後活動の充実、教員への修復的正義(訳注・事件が起きた場合、処分ではなく、加害者、被害者、地域社会が話し合うことで、関係者みんなの肉体的、精神的、経済的損失の回復を図る手法)の研修、学校衛生施設改善などの要求もあった(訳注・シカゴの公立校の水道の鉛汚染は放置されたままで、生徒は飲料水をペットボトルに入れて通学)。

 この生徒たちは、呼びかけ団体の「女性行進、ユースエンパワー」の銃規制は、豊かな人々の安全を配慮するだけで、日々抑圧と貧困と暴力で苦しんでいる人々の安全を配慮するものではない、と批判した。一人の生徒は、スクールポリスは学校と刑務所を結ぶパイプラインだ、と語った。現に、このストとデモ行動で、警官が手錠をかけたのはみんな黒人生徒ばかりで、メディアはその事実を報道しなかった。
 大雑把に見て、多様な要望と主張が入り混じった運動であった。あるコミュニティの問題解決になる要望が、他のコミュニティへの加害行為になる要望もあった。銃規制法案は議会で棚上げになったままだが、前述したシカゴ高校生の指摘と要求は、地域闘争として具体的に広がる可能性がある。

 そもそも、今回の銃規制を求める運動は、都市スラムの若者が日常的に直面している銃暴力をなくそうという動機から生まれたものでなく、稀有で異常な無差別銃撃の連鎖から発したものである。
 しかし、この病理現象の根底には、黒人や移民や貧困者が日常的に直面している暴力、それを助長する米国文化や好戦的外交政策や差別がある。その意味で、シカゴ高校生の主張は米国人の良心を突き刺すものである。草の根レベルで深化させようではないか。

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