ルネサンス研究所11月定例研究会 《テーマ》アメリカ合衆国大統領選挙とブラック・ライブズ・マター運動のゆくえ


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11月10日(火)18:00開場、18:30開始
会場:専修大学神田キャンパス7号館7階771教室
資料代:500円
報告者:マニュエル・ヤン(日本思想史研究・アメリカ音楽史研究・日本女子大学教員)
支配階級の異なった勢力を代表する候補者の選択だけしか許されない二大政党の狭い枠組みで四年に一回行われる米国大統領選挙は、アメリカの政治権力が本質的に寡頭制だということを見せつけ、民衆の力を不毛なスペクタクルに消耗させる民主主義の露骨な擬制である。共和党あるいは民主党から出馬するにしろ、数百万ドルにのぼる選挙活動費が必要であり、大企業の支援がなければ有望な候補にはなれない。そうしたスペクタクルの政治幻想を打破したのが多様な運動戦術を作り出し、全国に広がり、暴動にまで発展したブラック・ライヴズ・マターの再燃だった。しかし、体制リベラリズムはこうした草の根の要求を真剣に汲み取らず、表層レベルだけで運動のイメージを日和見主義的に利用し、前回の大統領選で負けたクリントンの二の舞を演じる旧態依然のネオリベ軍国主義者バイデンをあえて優先し大統領候補に選んだ。バーニー・サンダースの大統領候補キャペーンが示した冷戦期の「福祉資本主義」政策を単に刷新させる穏健な改革路線さえもしりぞけた民主党全国委員会の決断は、共和党を排外主義的に過激化することで勝算を得たトランプに見合う現実的な社民的変革よりも資本の既得権益を守ることに固執する意思表示に他ならない。こうした選挙政治と大衆運動のあいだの絶望的な乖離は、アメリカ市民社会を切り裂く暴力と文化の分断を端的にあらわしている。
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再選を目指すトランプ大統領は、選挙戦の最中にも冷厳な事実と向き合わざるを得なかった。それは、新型コロナ・ウイルスの米国における死者が22万6千人を上回ったという事実である(The New York Times Updated October 28, 2020)。そうした国内の医療崩壊に見られる社会の矛盾を、トランプは一方では中国との経済摩擦・軍事的対立を煽る形で、国外に主権者・市民の目をそらすことにより乗り切ろうとした。他方では、過酷な治安弾圧によって、トランプ政権打倒の民主主義運動を鎮圧しようとした。しかし、白人警察官による黒人(アフリカ系アメリカ人)「容疑者」の殺害を含む残忍な弾圧が、逆に主権者・民衆の怒りを呼び覚まし、全米に広がる「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命が大切だ)」の運動の盛り上がりを見た。この運動への共感は世界中に広がり、日本でも大阪、東京などで留学生や社会人、それを支援する日本人の行動が広がった。
11月のアメリカ大統領選挙の結果は、むこう4年間の米国政権の性格を規定するだけではなく、今後の世界の政治経済や社会・文化そして運動のゆくえをも大きく規定することになるのではないか。日本の運動や言論も無縁ではありえない。米国大統領選挙に2か月ほど先駆けて、第二次安倍政権の路線を継承する菅政権が成立しているからだ。これからの世界政治・日本政治を展望するうえでも、アメリカ合衆国の今を注視しなければならない。

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