編集部からの問題提起に応えて

1078号「歴史的総括へ 多くの人々
の活発な論議を!」を受けて (上)

浴田 由紀子

2001年 9月5日
通巻 1086号

1、はじめに

 おそくなりましたが、獄中にいる旧日本赤軍メンバーの1人として、この間の問題について、私自身の中間総括を提起し、さらに開かれた総括討議を進めていくための第1歩にしたいと考えます。
 この間の旧日本赤軍の解散・重信同志被逮捕によってもたらされ、あるいは明らかになった敗北の実情は、私たち旧日本赤軍自身の不十分や誤りをその最大の根拠とするものですが、その総括と教訓は、この国の変革を担おうとする全ての人々、そして、私たちの誤ったありようによって困難を強いられた全ての人々に返されなければならないと考えています。
 しかし、今日に至るまで私たち旧日本赤軍の獄内外メンバーによって、統一的・組織的な総括作業を進めることが十分にできてはいません。獄壁や、未だに関連事案で裁判が行われている等々の外因はありますが、人々への責任を少しでも果たせるようにするために、不十分で一面的ですが、私自身の気付き得た問題のいくつかについて提起します。私自身1995年以来日本の獄中にあった者ですが、旧日本赤軍の闘いとありように対して、その全てを共に創り出してきた者≠フ1人であると思っています。

2、言っていることとやっていることのハガレ

 先日、人民新聞1081号には、獄中の戸平和夫さんの投稿が掲載され、その中で戸平さんはこの間の旧日本赤軍に関わる問題の根拠を『日本赤軍の基本的な立場、観点(主要にはゲリラ戦の観点)である5つの戦略的観点≠ノみられる権力奪取主義≠ノある』という趣旨の総括を提起しています。
 しかし私は、この間の問題は政治思想的・綱領的・路線的・組織的な全ての側面から問い直さなければならないと思っています。それ故に、戸平さんのように5つの戦略的観点≠権力奪取主義≠ニ規定することは一時的にすぎ、同時に旧日本赤軍の路線と立場・観点を正しく評するものではないと考えています。
 逆に、旧日本赤軍綱領・及び日本赤軍が「1977年5・30声明」以降提起してきた無謬の党領の否定∞人民原理に基づく党の役割の規定≠竍民主主義の徹底を軸とする、今現在、足元、草の根からの人民自治の実現≠ニそれらを貫く5つの戦略的観点≠ニいう立場・観点は、いわゆる権力奪取主義≠ニは対局にある思想的・路線的立場であると考えています。
 それ故、今問題は「5つの戦略的観点」やそれに規定された「権力奪取主義」などというものにあるのではなく、そうした私たち自身の総括地平・立脚点・立場・観点を自らの行動原理として徹底しえなかったこと、言っていることとやっていることのハガレに無自覚にすぎたこと、その努力を怠って、あたかも「裸の王様」のように考え、行動するに到った思想的・組織的問題・個々のメンバーの主体と階級性の問題としてあると考えています。
 1つの組織メンバーが、総体としてこのような敗北状況に陥った物理的根拠として、旧日本赤軍が幾人かの敵に強いられた非合法・非公然メンバーを抱える中で、自ずと活動領域を限定され、人々と直接的に出合い、共同し、その中で学び検証され、鍛えられるという革命組織本来の成長回路を持つことがむつかしかったこと。その中で時間と共に自分たちの客観的な姿を見失い、自己点検と変革に怠慢になっていった思想的後退がそこにはあったと考えています。
 同時に、日本の革命主体として役割を果たしたいと願いつつ、在外条件の中で日本の人々の闘いの実情を正しく把握することに不十分なままに、一方でアラブにおける自分たちの社会的位置や有在価値に安住し、あたかも、この国の変革においても同様な役割を果たしうる者であるかのように自己過信して、自らの客観的な実体と果たすべき役割を正しく認識しえないままに、観念的・独善的な日本変革への方針を、外部注入的手法で担おうとする傾向が敗北を助長しました。
 確かに私たちは、「非合法身分」の者を抱えた組織でしたが、前記した人々との関わり、実情の正しい把握と分析は、全構成員の意識的な取組みと、公然と非公然の役割への明確な理解と分担、組織的共同、そのための原則とシステムを重視し実践するならばけして克服しえない困難ではありません。それはまた、むきだしの権力の弾圧の下で反体制を闘う者にとって、当然に問われる配慮であったはずです。
 情報の共有、それこそが、人民を、同志を、組織を守り、共によりよく闘い続けるためにまずなすべき第1の任務であったはずですが、何故にそうできないで、あるいは、それを重視せず、非公然メンバーの多くを「裸の王様」にし、身の丈(客観的な実体)に合わない活動展開をさせてしまったのか 私自身1995年に日本に強制送還されて、国内の実情についてまず感じたのは「聞いてた話とまるで違う!」ということでした。そのことを国外の同志たちにしっかり総括提起しえなかったことの責任を痛感しています。
 そうした主体条件に基づく実践の結果として、この間の敗北的な実体が明らかにしたことは、「同志愛と団結」を最大の「武器」とし、力の統一と自己変革を何よりも大切に目指していたはずの私たちの組織性・階級性・同志関係性とは何であったのかということです。狭い関係性に安住し、言っていることとやっていることのハガレを相互点検しあい、補い合い、変革し合えない同志関係、没主体性と無責任な「同志愛」や「組織愛」によって、誤りの存在をアイマイにして、同志の変革を妨害し、人民、革命への責任を果たそうとはしない党組織を助長して、今、敗北のツケを人々におしつけています。
 私たちは今同志愛と団結、自己批判と変革の党≠ニいう私達自身のつもりや幻想にすがるのではなく、そうなっていないが故に人々の闘いを負かした客観的な実体を率直に認め、その総括を教訓として人々へ返すところから、この国の変革を人々と共に進めていく考えと自己変革していくことが問われていると思います。

3、いくつかの具体的問題について

(1)国内潜入の判断について

 重信同志の国内潜入と、被逮捕の可能性への十分な対策もないままに安易に公然大衆運動を担う人々に接触することをよしとした判断の誤りが問われなければなりません。
 「公然化路線」とは、何か非公然におかれている者が、頭を切り換えて表に出ることとしてあるのではなく、路線・政策を公然化し、合法的な手段で、開かれた闘いとして担われたものにする、ということであると思っています。それは、誰が、誰と共にその事業を担うのか、どう人民総体の事業にしていくのか、その中で非公然を強いられている者の果たすべき(果たしうる)役割は何なのか、という問題として問われたはずです。重信さんを国内に入れた判断に、敵の弾圧に対する甘い予測と、相互に「前線」を担い合おうとしないご都合主義や依存・安易な場あたり的判断があったろうと思います。
 ことに、1987年の丸岡さんの国内での被逮捕がひきおこしたこの国の大衆運動への不当な弾圧の総括・組織的責任が自覚され、教訓にされていれば、安易な入国、大衆運動への接触がもたらすであろう最悪事態を予測し、対策することができたはずです。それを怠ったのは何故なのか。

(2)失敗が繰り返されたことについて

 明確な地下活動・反体制活動原則の逸脱が繰り返され、それによって、多くの被弾圧者を出し大衆運動つぶしを許してしまったこと。
 1995年、ルーマニアにおける浴田の被逮捕が、何故、どのように起こったのかを(原則違反と判断の誤り)、ペルーで、レバノンで…の連続的な同志被逮捕の根拠を真剣に総括し、総括実践していれば、今回の事態はさけられたはずです。対権力対策における組織的な統制・相互援助のシステムが何故機能しなかったのか。教訓を生かし合えず、学び合えず、つもりやタテマエと実体のハガレを補い合えなかった私たち全メンバーのこれまでの同志関係、組織体質が問われなければなりません。(多くの押収資料については「危険な任務の間あずかってくれるような人さえいなかったのか」という思いで本当にくやしいです)

(3)入院患者さんの身分を無断で借用したことについて

 重信同志自身が『変革を求め、弱者の立場に立つ者として、弁解の余地のない誤り。全ての被害者に謝罪する』と述べています。
 非合法身分を強いられつつ、国外で活動する者にとって、パスポートの入手は、まさに生命線です。どのように入手しても「非合法」な条件の中で、常に自らを律し、いかに「身分を守るために、他の誰かを苦しめないか」を問いつづけなければなりません。
 にも関わらず、安易に、抵抗のできない人の身分を無断で借用したことは、人々に検証される機会の少ない非公然活動の中で、いつの間にか自己点検・自己批判を忘れ、目的を見失って、「自分が闘っていること」に最大の価値を置く独善。言っていること、考えている自分とやっていることのハガレに気付けなくなった思想的人間としてのモラルの後退の結果であると思います。
 それは、個別担当していた者や、そのパスポートを使用していた者の問題というよりも、組織総体として「自分たちが生き延びること」に追われ、「(客観的な要請にではなく)つもりの闘い」や「党のための闘い」に「闘い」そのものを収斂させていった結果であると思っています。
 『理想や情熱によって、人は共産主義者になりうるのではありません。人民の利益をどれだけ実現しえたかによって、人は共産主義者たりうるのです』人々との共同実践の場を持ちえなかったが故に、私達には何倍も、この点検基準に自らをてらすことが問われていました。

(つづく)

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人民新聞社

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