中東特派員レポート その(2) |
計画的に和平合意から遠ざかるシャロン・イスラエル首相 |
アラブ世界にこだまする「イスラエルに復讐を!」 PFLP議長アブ・アリ・ムスタファ氏追悼 |
2001年 8月25日
通巻 1085号
「アブ・アリ・ムスタファが殺された 」昼寝しているときに友人の電話で起こされた。「えっ!」と,すぐにテレビにかじりついた 起こるべくして起こった8月9日の「ハマス」による自爆攻撃に対する報復として、強制的に閉鎖・占拠されたPLO本部=「オリエンタル・ハウス」はいまだイスラエル国旗が掲げられたままでいます。 パレスチナ国旗を引きずり降ろし、パレスチナの主権を踏みにじり、これまでの和平努力を破棄するに等しい暴挙を行ったイスラエルは、「自衛手段としての正当な行為だ」としてパレスチナ自治区への侵攻と占拠を繰り返し行い、そのつど自治政府関連施設への砲撃と破壊を行っています。更にまた、国際世論の非難を無視し、個人を標的にした「暗殺攻撃=テロ攻撃」をエスカレートさせてきています。 この8月10日以降(26日現在)で3度の自治区への侵攻を繰り返し、はっきり判っているだけで2件の「テロ攻撃」を実行してきています。20日のガザ地区での「テロ攻撃」は、パレスチナ人活動家の自宅をミサイル攻撃し、活動家と7歳の娘、6歳の息子の親子3人を殺害。この2週間で、20名以上を殺害するなど、その強硬姿勢を更に強めてきています。 これに対して、パレスチナ側も、各地で銃撃戦を展開し、12日には「イスラム聖戦」による「自爆攻撃」、25日には「パレスチナ解放民主戦線(DFLP)」による、イスラエル軍拠点に対しての潜入攻撃を実現させ、イスラエル側に、イスラエル兵3名を含む5名の死亡者と24名の負傷者という被害を与えています。 そして、27日、「パレスチナ解放人民戦線(PFLP)議長、アブ・アリ・ムスタファ氏が「暗殺」されてしまいました。 愛国者であり国際主義者でもあったアブ・アリ・ムスタファ議長は、PFLPのみならずパレスチナ全体からも厚い信頼と尊敬を集めていた人物であり、国際的にも交友関係の広さとその人望の深さは、人々の承知するところでした。その議長が、ヨルダン川西岸・パレスチナ自治区ラマラにあるPFLP本部の執務室に居た所を狙われ、イスラエル軍ヘリのミサイルによるピン・ポイント攻撃を受け、体はほぼバラバラにされたそうです。 |
パレスチナ解放機構(PLO)内のファタハに次ぐ第2の勢力であるPFLPのトップである議長の暗殺は、この間の緊張関係を一気に高めるものであり、「イスラエルは、全面戦争への扉を開いた」(パレスチナ自治政府当局者)と言わざるを得ない情況を、イスラエルが創り出したということにほかなりません。そういう意味において、議長の暗殺に対するパレスチナの抵抗組織の今後の報復の責任の一切は、イスラエルが自ら負うべきだと言わざるを得ません。 パレスチナ自治政府は「イスラエルは罪深い犯罪行為で、際限ない全面戦争への段階を設定した」とする非難声明を発表、自治区全域で28日から3日間、喪に服することを決定。PFLPも「イスラエル・シャロン首相は、犯した罪の大きな代償を支払うことになる」と述べ、報復を宣言しました。28日には、パレスチナ自治区をはじめアラブの各地で、ムスタファ議長暗殺に対する抗議・糾弾行動があり、「イスラエルに復讐を!」の声がこだましました。 ここベイルートでも、サブラ・シャティーラキャンプ(82年のイスラエルのレバノン侵攻時に数千人のパレスチナ人が虐殺された難民キャンプ。虐殺責任者は、現イスラエル首相シャロン)において、参加者1000名以上の抗議デモが行われ、イスラエル糾弾の声があふれました。(当日は、岡本公三さんも参加し、パレスチナ・レバノンの人たちと共に、イスラエル糾弾の声をあげました)。 |
イスラエルはいつも、「和平交渉を阻害しているのは、パレスチナ過激派のテロ行為である」「テロ行為を止めさせられないアラファト議長に責任がある。テロ行為の全面停止がない限り、交渉には応じられない」とし、「和平会談再開の条件は、パレスチナ側のテロ行為の停止」と、ことあるごとに理由にしています。 しかし、昨年9月、現イスラエル首相であるシャロンが、数百人の民兵を引き連れ「アクサ・モスク」に乱入するという暴挙に端を発した今回の「アクサ・インティファーダ」の当初から、イスラエル側の対応は、国際世論の非難を無視し、圧倒的に優位な武力による押さえ込みでしかありませんでした。 イスラエルの行動に対して、アメリカ・ブッシュ大統領は、イスラエルによるパレスチナ自治区への侵攻という侵略行為を非難するどころか、「イスラエルは、テロの脅威が残る環境では交渉に応じない姿勢を明らかにしている。アラファト議長は和平交渉を求めるならば、議長がパレスチナ住民に自爆テロをやめさせることを強く求める。テロの解決に100%の努力を傾けるようアラファト氏に強く要望する」(24日)と発言。「テロ行為」を抑制するためにイスラエルの行動(侵略行為)はあり、それを実行せざるを得ない原因はパレスチナ側にあるのだとして、イスラエルの侵略行為を支持するかのような発言をしています。 しかし、パレスチナ人の自治と主権を認めないとする、この間のイスラエルの横暴な振る舞いに対して、自らの尊厳の為の抵抗と反抗が生まれてくるのは当然のことと言わざるを得ません。その当然の行為を「テロ行為」と評し、その当然の抵抗である「テロ行為=抵抗運動」を止めないと話し合いには応じないとするイスラエルの対応は、パレスチナの自治もパレスナ人の尊厳をも認めないという態度に他ならないことであり、「オスロ合意」すら大きく逸脱することだと言わざるを得ません。 |
シャロン政権発足後のイスラエルの対応は、「計画的に和平協議から遠ざかろうとしている」(パレスチナ自治政府・アリカット地方行政相発言)というものです。言い換えれば、和平交渉の破綻を目論み、その原因をなんとかパレスチナ側の責任にしようとしているのです。 今や、その強硬姿勢は、自治政府領土への侵攻(侵略行為)と施設の破壊、PLO本部の閉鎖占拠の強行。個人をターゲットにした「テロ攻撃」とエスカレートし、今回、パレスチナ解放機構(PLO)内の組織トップ、アブ・アリ・ムスタファPFLP議長を暗殺するに至りました。これまでの経過から、この間の事態の悪化を牽引してきたのはどちら側なのか?明らかなのではないかと思います。 27日午後、ヨルダン川西岸・パレスチナ自治区ナブルス近郊で、ユダヤ人入植者の男性(35)が銃撃され死亡。「シャロンのテロリスト政府が行ったアブ・アリ・ムスタファ議長暗殺への最初の報復だ」との犯行声明が出されました。パレスチナ解放人民戦線の報復攻撃の始まりです。 27日夜、ヨルダン川西岸とガザ地区でも、イスラエル軍とパレスチナ抵抗組織との間で銃撃戦が発生しました。これに対してイスラエルは、28日未明西岸ベツレヘム近郊のパレスチナ自治区ベイトジャラとガザ地区ラファに戦車とブルドーザーを動員、いつも通りの理由、「パレスチナ武装集団が拠点としている住居である」として、パレスチナ人住居を攻撃しました。この2週間で4度目のパレスチナ自治地区(領土)への侵攻(侵略)です。 |
(つづく)
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