中東特派員レポート

その傲慢さがテロを招いた 
アメリカ―イスラエル

世界人種差別撤廃会議に思う

2001年 9月5日
通巻 1086号

★イスラエルをアパルトヘイト国家と認定

 南アフリカ・ターバンで、31日から開かれた世界人種差別撤廃会議は8日、会議日程を1日延ばして9日間の日程を終了しました。
 計150ヵ国の政府関係者や (非政府組織)メンバー約6000名の代表が出席し、人種差別撤廃と少数民族保護に向けた行動計画などの宣言採択を目指すべく開催されたこの会議では、過去の奴隷制度と植民地支配への問題を初めて論議する場であり、欧米諸国に対し明確な謝罪と具体的な補償責任を求めていくことが焦点として在りました。
 同時に、イスラエルの占領政策に対して、アラブ・イスラム諸国から、イスラエルのシオニズム(ユダヤ民族主義)が人種差別主義であるとする提議がなされ、アラファト議長は、参加各国代表団とのパネルミーティングで「人種差別主義と選民思想に基づいたイスラエルのパレスチナ占領行為を非難することは、緊急課題であると考えられる」と強くイスラエルを非難するとともに、パレスチナの現状に対する理解を訴えました。
 さらに、9月2日に開催された世界人種差別撤廃会議・非政府組織(NGO)フォーラムでは、イスラエルは戦争犯罪、虐殺、民族浄化を行っているとし、「人道に反する罪を犯している人種差別主義のアパルトヘイト国家である」と決議・宣言されました。NGOフォーラムでの、決議・宣言には権限がないものの、国際会議でのイスラエルに対する「人道に反する罪を犯している人種差別主義のアパルトヘイト国家である」との宣言は意義深いものであり、イスラエルに対する国際的な非難がはっきりと示されたことに他なりません。

★傲慢アメリカ、イスラエルとともに会議ボイコット

 開催前から、イスラエルのシオニズムを人種差別主義であるとする議論が予定される中、アメリカ・ブッシュ大統領は、同盟国イスラエルを孤立させる会議には代表を送らないと述べ、議題の変更を強く求めていました。結果的には、パウエル国務長官の出席を取りやめ、サウスウィック国務副次官補ら3人の代表団を送り、討議事体には参加せず、最終宣言の文案の修正のみのために参加、意にそぐわない宣言の採択がなされるなら代表団を引き上げさせるとの、会議そのものを侮辱したと言わざるを得ない「大国」の傲慢さを示した参加でした。
 事実、2日の非政府組織フォーラムでの「イスラエル非難決議」採択のあと、翌日には代表団の引き上げを決定。代表団は「シオニズムを人種差別とみなす表現や、イスラエルがホロコーストと同じ行為を行っているという考えを含んだ宣言を採択するような会議では、人種差別と戦えない」とするパウエル国務長官の声明を発表。また、イスラエル代表団は「この会議は(アラブ諸国に)ハイジャックされた」と、両国とも代表団を引き揚げさせました。
 米国の引き揚げに対して、同じ米国の公民権運動家のジェシー・ジャクソン氏は、「ある意味で会議をぶち壊す行為であり、ひとつの問題を理由に引き揚げることは、最も不幸で不必要なこと」と批判。会議に参加しているアフリカ系米国人権団体「African Descendants Caucus」のウルベルト・ブラウン氏は「政府代表団の引き揚げは、米国内のアフリカ系やヒスパニックなどの少数民族系市民に対する侮辱だ」と非難しました。
 自国の都合をごり押しし、自国国民からも非難される米国の傲慢なごり押しを跳ね除け、本会議は8日、過去の奴隷貿易や植民地支配について深い遺憾の意を表明、特に奴隷貿易については、「人道に対する罪」であると認め、(1)悲劇を生んだ奴隷貿易や奴隷制度は「人道に対する罪」、(2)アフリカやアジアの人々が犠牲となった植民地主義は、人種差別に通じ、非難されるべきだ、(3)債務救済、投資促進、エイズやマラリヤなどの撲滅、子供と女性の人身売買根絶などに向け、先進国や国連が支援する――などを宣言案として採択し閉会しました。
 アフリカ諸国が求めた欧米諸国の明確な謝罪や具体的な賠償責任まで盛り込むことができなかったとはいえ、「満足ではないが(歴史上)初めて黒人の尊厳が認められた」(ケニヤ代表団関係者)との発言にも示されたように、奴隷貿易や植民地支配に対して本格的に向き合った会議となりました。
 一方、イスラエルに対する非難は、EU諸国との駆け引きの結果、残念なことに名指し非難まで至ることはできず、「外国の支配下にあるパレスチナ人の窮状」を訴えるという妥協案でとどまりました。(会議全体の詳しい評価は後日)

★エスカレートする侵略と抵抗

 「外国支配下」との表現とはいえ、誰の目からも明らかなように、イスラエル占領下(外国支配下)にあるパレスチナでは、被占領地にとどまり、その先頭にたって戦い続けたパレスチナ解放人民戦線(PFLP)ムスタファ議長暗殺によって、パレスチナ各組織の闘いは激しさを増してきています。
 ムスタファ議長暗殺から数時間後には、 による報復攻撃が開始されたのを口実にした、エルサレム近郊・パレスチナ人居住地ベイトジャラとその隣接するアイダ難民キャンプ、およびガザ地区ラファへの戦車を動員したイスラエル軍の侵攻に対して、パレスチナ側は激しい銃撃戦で応え、戦闘は被占領地全体に拡大しパレスチナ人の尊厳と主権を示しました。28日未明からの侵攻は、パレスチナ民衆の強固な抵抗の前に、イスラエルに対する国際的な非難以外なにも生みださず、 30日未明、イスラエル軍は撤退せざるを得ませんでした。
 その後、主要な作戦だけでも、3日、エルサレムで四発の連続爆破攻撃。 が声明を発表。4日、西エルサレムの路上で自爆攻撃。6日、ファタハ内軍事組織によるイスラエル軍兵士に対する攻撃。9日朝、ヨルダン渓谷でイスラエル入植地の学校教師を送迎するワゴン車を攻撃(イスラム聖戦が実行声明)。数時間後イスラエル北部の町ナハリヤの駅ではイスラエル軍を狙った自爆攻撃。4人死亡、70人以上の怪我(ハマスが実行声明)。さらに数時間後、ネタニヤ近郊でも車2台が爆発…その他、各地の銃撃戦も含め、パレスチナ民衆は徹底抗戦の構えを見せています。
 一方イスラエルは30日夜、パレスチナ解放民主戦線(DFLP)の幹部宅の爆破(幹部は避難して無事)。1日朝、自治政府情報機関・ヒンディ長官の補佐官が乗っていた車が爆発(補佐官が死亡し、2人の護衛も重軽傷を負う)と、「テロ攻撃」を続け、5日、ガザ地区パレスチナ治安対策本部に対するミサイル攻撃。8日、ヨルダン川西岸アルビレの「ファタハ」事務所に対するミサイル攻撃。9日、ヨルダン川西岸のラマラ、エリコ、ジェニン、ナブルスなどのパレスチナ自治区の広範囲に対して、ミサイルと戦車砲での攻撃。と相変わらず自治地区に対する侵略行為を繰り返しています。
 こうした事態の中、イスラエル・ペレス外相とアラファト議長との間で「停戦協議」の会談がもたれようとしています。        

(つづく)

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