★中東特派員レポート★ その(1)

「抵抗闘争の継続」を掲げる
パレスチナ抵抗勢力

和平をぶちこわすシャロン・イスラエル首相
イスラエルは、パレスチナへの侵略・虐殺を中止せよ!

2001年 8月15日
通巻 1084号

 8月9日、昼食が終わって一息ついてる3時過ぎ。突然、機関銃の乱射音や単発の発射音が聞こえてきました。どこかで撃ち合いでも始まったのかと、緊張しながらテレビのニュースをつけてみました。
 実はこの数日前、反シリアの立場を採るキリスト教マロン派の中のグループ(ウワートグループ?)の活動家と見られる人たち300名余りが、レバノン政府に拘束されるということが起きていたので、その関連で何か起きたのかと緊張したわけです。
 テレビをつけて飛び込んできた映像は、エルサレムでたった今起こった、パレスチナ人による自爆攻撃の現場からのリアルタイムの映像でした。
 そばにいたレバノンの友人によると、報道では、犯行声明がイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」から出されており、死者19名、負傷者99名(うち20名重傷)という被害内容だということでした。先ほどの突然の乱射音は、この作戦をお祝いした祝砲が、ベイルートのどこかで花火代わりに撃たれたようでした(私たちは、何だそうだったのか、と一安心)。
 後で聞いた話によると、場所は、エルサレム市内のピザ・ハット(日本にもあるピザのチェーン店)に、2人乗りのオートバイごと突っ込んでいったということでした。また、作戦を実行したのは「イスラム聖戦」ではなく、イスラム原理主義組織「ハマス」だったそうです(後日「イスラム聖戦」は犯行声明を撤回)。
 余談ですが、ベイルート市内では「事件」が報道されて、1時間だけ「ピザ」を無料提供し、みんなでお祝いをした「ピザ」屋さんが、あったとのことです。
 私自身、偶然に乗り込んだセルビス(乗合タクシー)の運転手に、「今日、作戦があったらしいけど知ってる?」と聞いたところ、「もちろん知ってる。すばらしい!!」という答えが返ってきました。
 今もなおイスラエルは、レバノン南部のシェバ農場を占領し続けている上に、レバノン領空を侵犯し、偵察機を飛ばし続けています。さらに、今年の4月・6月には、レバノン国内のシリア軍陣地に空爆を強行するなどしてきています。
 にも関わらず呆れたことに、シャロン・イスラエル首相は、「レバノンとの平和条約を目指す」などと言っているようです。本当にそうだとしても、彼らの考える「平和条約」は彼等にとって都合の良い物でしか出てこないだろうことは、誰もが予想しています。多くのレバノン人にとって、今のイスラエルは「敵」なのです。
 日本の人たちには理解しがたいものだと思います。実際に毎日の生活の中に戦争があり、ほとんどの人が親族の中にイスラエルに殺された人がいる。生活の中に「闘い」があり、「闘い」の中に生活があったレバノンの人たちにとって、パレスチナ人の闘いは、自分たちの闘いでもあるのです。

★イスラエルの「暗殺作戦」

 昨年9月28日から始まった「アクサ・インティファーダ」は拡大の一途をたどり、現在までに約600名が死亡、1万3000名以上が負傷(7月末。未確認)といわれる事態になっています。
 ブッシュ政権発足後、消極的だった米国の本格的な介入の結果、6月13日には双方が「停戦」を合意・宣言し「和平交渉再開」に向けた「冷却期間」がもうけられました。この「冷却期間」の間に双方の武力の停止が図られ、「和平交渉再開」という道筋が作られはしたものの、「停戦」宣言後から事態は何の進展も見せませんでした。
 それどころか、パレスチナ側の自爆攻撃・銃撃、そして大衆的な抗議行動に対して、イスラエル側はミサイルと戦車、そして航空機による攻撃をエスカレートしてきていました。
 そして7月31日、イスラエルは,ヨルダン川西岸・パレスチナ自治区ナブルスで、「ハマス」事務所をミサイル攻撃し、幹部2人とビルの前で遊んでいた5歳と8歳の兄弟2人含む8人を殺害しました。また、自治区ガザでも、パレスチナ警官1名と「イスラム聖戦」の活動家1名が、イスラエル兵に撃たれて死亡。
 これらの攻撃についてイスラエル首相府は、「ハマス幹部らはエルサレムで大規模なテロを計画しており、攻撃は軍の積極的な自衛活動だ」との声明を発表。イスラエル軍筋は「2人のハマス幹部は過去約10件の爆弾テロに関与し、新たなテロも計画していた」などとし、活動家個人を狙った攻撃を正当化しました。
 活動家個人を狙い撃ちした今回の攻撃に対して、米国でさえも「攻撃は行き過ぎであり、きわめて挑発的。過剰な行為」と異例の遺憾声明を発表するなど、国際社会からの非難にも、シャロン・イスラエル首相は「自衛手段だ」と、強硬姿勢を崩そうとしていませんし、すでにイスラエルは「暗殺対象者」をリストアップし、衛星通信やその他あらゆる手段を使って、いつでも「暗殺」できる体制を作り出しているとも言われています(軍事的力量の差は歴然としています)。
 事実、パレスチナの各組織活動家を標的にしたミサイル攻撃などによる「暗殺作戦」によって、7月31日、8月1日の2日間だけでも、巻き添えで殺された人も含めて15人以上のパレスナ人が殺されています。それ以後も、4日には、「ハマス」活動家1名が車の運転中に、ヘリコプターからのミサイル攻撃で殺されるなど、「暗殺作戦」は続けられています。
 殺害された2名の幹部は、「ハマス」政治部門の優秀な指導者として信望を集めていたうえ、攻撃の巻き添えで2人の幼い兄弟が殺されたこともあって、民衆の反発は大きくなっています。1日に行われたナブルスでの葬儀には多くの人たちが参加し、「イスラエルに死を」との声が大きくこだましていたそうです。また、ある組織は、「シャロン・イスラエル首相や外相を含む数名のイスラエル高官を報復対象とする」と、名指しで公表したそうです。また、ハマスの精神的指導者のヤシン師は、「イスラエルは、重い代償を支払うことになるだろう」と公言しました。
 そして、8月9日、起こるべくして起こった自爆攻撃(6月1日、ディスコでの21名死亡の「事件」以後最大規模)に、ベイルートでは珍しく、祝砲があがったのでした。

★和平交渉の崩壊

 これに対してイスラエルは、10日未明、5月18日以来の動員という F-16 戦闘機によって、ヨルダン川西岸・パレスチナ自治区ラマラにあるパレスチナ警察施設をミサイル攻撃し、これを完全破壊。
同時に、「エルサレムにおけるイスラエルの管理を行使することに決定」。「テロに関与した疑いがある」という一方的な理由で、イスラエル警察には、東エルサレムにあるパレスチナ解放機構(PLO)本部をはじめとしたパレスチナ治安当局関連施設など自治政府関連施設、計10箇所を強制的に閉鎖、事実上の占拠を強行しました。
 PLO本部(通称・オリエントハウス)は、PLOや自治政府が実務や外交に使用しているもので、東エルサレムでの拠点として利用されているところ。ここを強制的に閉鎖・占拠、和平交渉関連を含む文章を没収、建物にイスラエル国旗まで掲げると言う暴挙を行いました。
 パレスチナ側は「これまでの和平合意や努力に対する致命的な一撃だ」とし、「過去のあらゆる和平合意を、イスラエル側が一方的に破棄したに等しい」と強く非難。「ハマス」「イスラム聖戦」とも「抵抗闘争の継続」を掲げ、多くの民衆が支持しています。
 ここにいたり、六月からの「停戦」は完全に破綻し有名無実化しただけでなく、PLO本部と自治政府関連施設の事実上の占拠という暴挙に至っては、これまでの和平合意を反故にするばかりか、和平交渉そのものの崩壊につながりかねない事態に至っています。 

 (つづく)

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