岩手、宮城、福島の東北3県で失業や休業した人は11万人を越えた。東北3県が、部品等の供給産地であったために、サプライチェーンが切れて、全国的な操業停止も相次いだ。
必要な時に必要な人材を、という派遣制度は、「必要がなくなればすぐ切れる制度」でもある。派遣ユニオン(東京)には、計画停電中、無給状態に陥った労働者から「家賃が払えない」といった悲鳴が相次いだという。震災にともなう労働相談は「東京が最多。愛知や埼玉、神奈川も多い」(派遣ユニオン書記長・関根秀一郎さん)。
名古屋ふれあいユニオンの酒井徹さんに、愛知での実態報告をお願いした。2面には、東京・大阪・京都の各フリーターユニオン系からの報告をまとめている。 (編集部)
名古屋ふれあいユニオン運営委員・酒井 徹
震災直後の3月26日に、名古屋ふれあいユニオンは全国のユニオンと協力して電話相談・「雇用を守る震災ホットライン」を開設した。「雇用を守る」を前面に押し出し、「震災にともなう解雇」を想定した企画だ。
ところが寄せられた相談は、解雇事案ではなかった。電話口から次々と聞こえてきたのは、「クビを切ってもらえない」という奇妙な労働相談だったのだ。雇用を守る労働組合に、クビを切ってほしいというのである。
被災地以外での震災がらみの労働相談には、一つの特徴がある。それは、「被災地から遠ざかるほど、労働者の『被害』が大きくなる」ということだ。被災地と直接取引のあったトヨタ自動車のような大企業では、労働者を休業させた場合も一定の休業補償が行われた。ところが、その下請け会社や孫請け会社、そうした会社への派遣・請負……と、被災地との関係が遠くなればなるほど、実際には無給休業や解雇・雇い止めといった労働問題が噴出するのだ。
ユニオンに寄せられた相談では、「派遣先の正社員には休業手当が出てるのに、派遣社員には出ていない」というものが特に多かった。
こんな事例がある。Aさんは、トヨタ自動車の一次下請・B社で構内下請けをしているC社に、偽装請負会社・D社から派遣されていた。震災後、トヨタ自動車のラインのストップに連動してB社・C社も操業を停止。D社からは「呼び出しがあるまで待機」と言い渡された。
「休業補償は?」とAさんが聞くと、D社は「遊びじゃないんだから、出るわけないだろ」と一蹴。Aさんは無給休業に追い込まれたのである。
ところがD社は、「再開したらすぐに出勤できるよう準備をしておけ」とAさんに言いつけ、給料は払わないのにクビも切らないというのである。
「給料はもらえない。でも、解雇ではないから、会社を辞めても自己都合退職の扱いにしかならない。それでは雇用保険の給付制限がかけられ、すぐにはもらえず、次の仕事も探せない。給料をくれないなら、失業手当をもらいながら次の仕事を探せるように、きちんとクビを切ってほしい」─Aさんはそう訴えた。
直接被災した事業所では、無給で休業させられても、離職せずに雇用保険の特例給付を受けることができるという特例措置がある。しかし、これは直接被災し事業所に限られており、愛知県の、ましてや派遣労働者には適用されない。
厚生労働省は、震災直後の3月18日に疑義応答集を発表。
「地震で工場がつぶれた」とか、「機械が津波で水をかぶって壊れてしまった」というような「直接被災」の場合には会社は休業手当を出さなくてもよいが、「間接被災」の場合には原則として休業手当を払わなければならない、という見解を示した。
この趣旨から言っても、直接被災の事業所との関係が遠くなればなるほど休業手当が支払われなくなる傾向が強くなる愛知県の状況は、まったくおかしいと言わなければならない。ましてや、「うちも遊びじゃないんだから、そんなもの払えるわけがない」の一言ですませようとするD社の対応などは、到底許されるものではない。名古屋ふれあいユニオンは、D社に休業手当の支払いを求めた。するとD社は、休業手当の支払い後、Aさんを解雇『してくれた』のである。
労働者を休ませても休業手当を払わなくていいということになると、会社は労働者のクビすら切らないのだ。
解雇・雇い止め事案が目立ちはじめたのは、5月に入ってからのことである。
解雇事案の中から、具体的な事例を紹介したい。化学製品大手・イノアック八名工場内にある、同社グループ企業の請負会社に派遣されていた女性労働者が、4月6日付での解雇を通告された。
女性は、5月に入って名古屋ふれあいユニオンに加入。イノアック本社や派遣会社が愛知県安城市にあることから、ユニオンは安城地区労の事務所で派遣会社と団体交渉を開催した。
▼名古屋ふれあいユニオン 名古屋市中区正木4-8-8 メゾン金山303 |
団体交渉には、イノアック労組出身の前安城市議会議員・和田米吉さんや、先の統一地方選挙で初当選した石川つばささん(ユニオン賛助会員)も参加。会社側は、女性労働者が派遣先での仕事の有無と雇用契約が直接連動せず、期間の定めのない「常用型」の派遣労働者であることを認めて、解雇を撤回。今後、女性労働者の労働条件を変更する際は事前にユニオンと協議を行い、同意を得て決定する、との協定を締結した。
協定には、雇用保険の2年間の遡及加入や休業手当の支給、生産回復後の現職復帰についてや法令順守なども盛り込まれた。
働く者の団結の力で「震災切り」をみごと跳ね返した事例である。
地震・津波による下請け部品メーカーの被災で、特定の部品が入らず操業停止に追い込まれていた自動車工場などが、部品工場復旧にともない、操業を再開。操業停止中の遅れを取り戻すためと、ピーク電力分散のため、土・日の出勤を求めている。
ところが、この節電エコシフトがシングルマザーにとって悩みの種となっている。5月下旬に電話相談をかけてきたNさん。派遣会社に登録して、自動車組み立てラインに派遣されていたが、木・金を休んで、土・日の出勤を求められたという。
ところが保育所は通常通り月〜土の開園なので、日曜日に子どもを預けるところがない。困るので「通常のシフトにしてほしい」と要請したが、派遣会社は「派遣先企業の都合だからどうにもならない」「土日に出勤できないのなら、やめてもらうしかない」。
結局Nさんは、7月末まで派遣契約が残っていたが、仕事を辞めざるをえなくなった。シングルマザーにとっては、とんだ迷惑な節電エコなのである。
3〜4月にあった震災関連の労働相談は10件程度。相談件数としては、思ったより少ない。東京・神奈川に比べて大阪は、影響が少なかったという事情に加えて、震災による自宅待機は、表面化しにくいからだろう。解雇=震災切りならば、交渉して金銭補償を要求することもできるが、自宅待機の場合、「復帰させるかもしれない」ということなので、会社との関係を悪化させたくないという心理が働き、正面切って権利主張しづらい。
実態は、泣き寝入りをしている労働者がたくさんいるように思う。
(なにわユニオン 中村研)
フリーター全般労組(FZRK)では、震災の雇用への影響、特に非正規雇用者への影響を調べるため、組合員280名に対しアンケート調査を行った。その結果、元々失業しているものが多く、震災によって解雇されたり自宅待機を命じられたものは、数名程度であった。
組合員の雇用先が、従業員数10人程度の製造業や水商売が多いので、元々ギリギリの生活をしているフリーターは、これ以上落ちようがないということなのかもしれない。
FZRKは、キャバクラユニオンに加盟する組合員が増えているのだが、震災直後はさすがに、水商売系は閑古鳥が鳴いていたが、客は戻ってきているそうだ。
IT企業も、システム復旧の仕事が入って忙しい。建設業界も震災特需が入り始めていて、人手不足気味だ。
(フリーター全般労組 山口素明)
京都ユニオンが、震災と失業ホットラインを開設した。京都は観光業が深刻な打撃を受けているので、観光業に限定したものだった。旅館等へのキャンセルが相次いでいるようだが、相談はほとんどなかったそうだ。
(関西非正規等労働組合 ユニオンぼちぼち)