2016/2/2更新
NPO法人淡路プラッツ(大阪市)・石田貴裕さんインタビュー
「10年越しで報われたかなぁと思える瞬間がある」と語る統括マネージャーの石田さん。NPO法人淡路プラッツは、ひきこもり状態の人に対する居場所づくりから当事者家族へのサポートまで取り組んでいる。石田さんに、@ひきこもり状態を抱える人共通の現在状況、A就労支援前後の取り組み、B「支援の企業化」が見込まれる中でのこれから、について話を聞いた。(編集部・ラボルテ)
−現状としては、具体的にどのような人が淡路プラッツにつながっていますか。
石田…半数以上の子が不登校経験があり、本人よりは親ごさんが来ることが多いです。また、中学や高校から学校に行かなくなり、潜伏期間を経て、25歳でサポステ(※1)に「ぽっと行く」形を経てつながってくる人もいます。
潜伏している間は全く家を出ない子もいれば、コンビニは行くとか、友達がいるなど、さまざまです。なぜサポステかといえば、相談料無料で、就労がテーマだからですが、やはりすぐに就活は厳しいこともあり、まずプラッツなどの居場所でエネルギーをためて、その後またサポステに行く人もいます。
プラッツでは、「経験とコミュニケーション」を掲げています。陶器でコップを作ったり、乗馬したり、料理を作ったり。大人から見ると、「なに遊んでんねん」と思うかもしれません。でも、この若者たちは遊びや人付き合いの経験ができなかったのです。例えば、「外食にいく」にしても、どうやって料理を注文したらいいのか?提供された料理は自分だけで食べるのか、他の人たちにも分けるのか?どのタイミングでお勘定をするのか?を社会の中で学ぶ機会がなかったので、プラッツのスタッフをモデルにして学んでいます。人との付き合い方がわからないので、誰かのせいにしたり、自分で受け止めることができなかったりすることもあります。
また、最近は大学を卒業して一回働いてからひきこもる人も増えていますが、テレビやメディアなどでひきこもりが取り上げられることで、「このままだと長期化する」と親ごさんや本人が認識して、早いうちに相談に来られる方もいます。
−就職を経て「働けなくなって居場所に行く」のは、労働環境が悪化する現代社会を表していると思います。淡路プラッツに参加している人たちの「就労後」は。
石田…5年ほど前までは、バイトを始める=居場所からの卒業で、就労が区切りでした。しかし、卒業パーティで華々しく送り出した後、仕事でつまずいてしまうと、帰る場所がなくなってしまいます。
ですから、ここ近年は卒業パーティはせず、「最近、あの子けえへんようになったなあ。どうしてるんやろう?」というふうに配慮するなど、いつでも帰られるようにしています。また、働きながら居場所に参加している子もいます。
以前であれば、バイト仲間と飲みに行ったり、バイト先から正規採用があったのですが、最近は労働環境が厳しく、非正規化の流れもあり、アルバイト同士のつながりも希薄だと聞きますので、「就労したから自立支援終了」は現実的ではありません。
もちろん、就労だけが出口ではありませんので、福祉も含めたそれぞれの自立を目指します。経験も自信もない若者たちなので、さまざまな経験とコミュニケーションを通して、生きるための土台をつくって、自信をつけてほしいと思います。労働市場はしんどいですけど、本人の希望であれば、一旦は「就労への出口をサポートしよう」と考えています。
また、プラッツから出た若者を対象としたOB会を、2カ月に1回、開催しています。たこ焼きを食べながら、「最近どうなん?」と聞くと「しんどいです」といった愚痴も出ますが、OB会をやることで「また2カ月がんばれる」と言うんですよ。OB会で「憂さ晴らし」を担い、「友達はいなくても仲間はいる」という共感の場にしています。
「新しいバイトを探しています」「別の仕事を始めました」という若者もいっぱいいます。ここに来る若者たちは器用でないし、労働環境も悪いので、プラッツを出た後も苦しい状況の人もいると思います。
現役で通う若者がOBに「プラッツにいた頃と、いま現在、どっちが楽しいですか」と質問したことがありました。あるOBが「しんどいけれど、プラッツにいた頃とは違う、リアルな生活を送れている実感があって楽しい」と答えました。その子はかつて「電車に乗れない」「死にたい」と言っていたので、僕が泣きそうになりました。瞬間瞬間は報われないことが多いのですが、10年越しで「報われたのかなあ」と振り返ります。
−国や自治体が「若者応援」を掲げる事業が近年出始めていますが、評価と課題は。
石田…いいことだと思います。レイブル(※2)支援にしろ、生活困窮者自立支援事業(※3)にしても、つながる人がいるのは大事なことです。私たちも、茨木市で「茨木プラッツ」として生活困窮の方に対する支援や居場所作りも行っています。
ただ、所得・年齢・住んでいる自治体など、ひきこもり状態にあるすべての人を包括はしきれていません。相談料がかかり、それがハードルになっている人には申し訳ないと思います。
プラッツは元々、就労支援団体ではなく、居場所支援と親ごさん支援を目的とする団体です。行政から居場所への助成金などの補助があればありがたいとは思いますが、でも、居場所って評価が難しいですよね。例えば、会話が「一言から二言に増えました」とか「笑顔がでてきました」とか…。時間もお金もかかり、変化も評価も見えにくいので、行政としては難しい部分があることは承知しています。
また、サポステも相談件数ではなく就労人数での評価になってきていると聞きますので、もちろん数字での評価も大切ですが、「数字には表れにくく目にはみえにくいけれど大切な支援」の評価指標が必要だと思います。
課題としては、長期化したり、高齢化しているひきこもりがあると思います。近年、国や自治体は不登校支援や中退予防支援に力を入れています。それはいいことですが、一方で、支援の枠組みが間に合わなかった氷河期世代などがあるわけです。
−世代的な問題だと、親の年金や貯蓄で暮らす「高齢ひきこもり」状態の人が多いと聞きますが。
石田…「ひきこもりは70万人いる」と言われていて、その中には40歳以上の高齢ひきこもりの方も出てきています。正確な実態や実数はひきこもっているのでわかりませんが、近い将来に噴出してくるのは見えています。親が亡くなるまでは可視化されにくいでしょうし、親が亡くなった後も、支援を受けることなくひきこもり状態という場合もあります。
「引きこもり予防」は、対象が子どもや若者ですからわかりやすく、社会的にも理解が得られやすい。しかし、30代や40代以上のひきこもりとなると「甘え・怠け」とみなされがちです。プラッツでは、引き続き「高齢ひきこもり」の家族支援を行っていこうと考えています。
−大企業が、行政から予算を得ることを目的に福祉・NPOなどに参入しています。行政の委託事業・助成金が「新たな市場」に転化しつつある。「理念を持って地域に根を張る団体」が、「営利企業によって淘汰されるのでは」と危惧しています。この状況の中、今後はどのように?
石田…大手の予備校や塾などが、「進学対策の学習と併せて居場所を運営する」といったサービスが始まったと聞いています。僕らが「勉強の前に経験とコミュニケーションが大事」と伝えても、親ごさんにとっては「勉強ができる」方が魅力的かもしれません。
ただ、僕自身は対決するつもりはないし、淡路プラッツは時代の隙間のニーズに寄り添ってきた団体です。時代の流れがそうなれば、淘汰されても仕方ないかな、と考えています。行政や企業のサービスによる切れ目のない支援ができたら、それ自体悪くないと僕は考えています。
今後のことは考えますが、引き続き、時代の隙間のニーズに合わせて柔軟に形を変えながら、変わらないものも大事にして取り組んでいきます。居場所を使って社会参加をサポートすること、親ごさんにとっての居場所でもあることは、プラッツの基本方針として今後もブレずにやっていきます。
注
@地域若者サポートステーション…働くことに悩みを抱える15歳〜39歳までの若者に対し、就労支援を行う。全国160ヶ所に設置。
Aレイブル…レイトブルーマーの略称。遅咲きの意。若者で「仕事が合わず辞めてしまった」「海外で一人旅をしていた」などの背景がある就業希望者のこと。
B生活困窮者自立支援事業…生活困窮状況にある人に対し、個別相談、居住確保支援、就労支援を行い、任意事業として就労準備支援や子どもへの学習支援を行っている。
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