2016/2/2更新
伊方の家・八木健彦さんインタビュー
伊方原発3号機再稼働の賛否を問う八幡浜市・住民投票条例が佳境を迎えている。伊方町に隣接する八幡浜市の住民グループは、30日間にわたる署名活動を行い、今月18日、9939人分の有効署名をもとに大城一郎市長宛に条例制定を請求した。条例案は、@「福島第一原発事故と同様の事態になる可能性を考慮し、伊方原発の再稼働に対して市民自ら賛否の意思を明らかにする」(目的)とした上で、A再稼働に「賛成」か「反対」か投票した結果を、市長や市議会は尊重し、国や電力会社と協議するよう定めている。
当初住民グループは、有権者の過半数=1万5千人の署名獲得をめざした。署名収集の受任者約150人が活動し、有権者の3分の1を超える1万1175筆の署名を市の選管に提出した(12月7日)。ところが市選管は、「重複」や「自署でない」といった理由で1346筆を無効、9830筆を有効とする審査結果をまとめ、23日から署名簿の縦覧を実施。期間中に延べ24人が縦覧し、異議申し立てで100人あまりが復活。有効署名の総数は、9939人で確定した。
1月28日には、住民投票条例を審議する臨時市議会が予定されている。同案が否決されれば、早ければこの春にも再稼働する流れとなる。請求運動の事務局として活動した八木健彦さんは、「住民投票運動で南予の政治の風景が変わりつつある」としたうえで、市議会を包囲する全国結集を呼びかけている。以下、八木さんへのインタビューを掲載する。(編集部・山田)
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編集部:1万人の署名をどう評価しているか?
八木…よく集まったと思います。この時期は、ミカン出荷の最盛期です。昼間はミカン摘み、夕方からは選果で夜遅くまで作業が続いています。1年で最も忙しい時期にもかかわらず、全住民の3分の1が署名に応じたことは、極めて高い関心が寄せられたことを意味します。
署名は、Aコープの前や商店街など定点でも集めましたが、主には、郊外に住む農家を1軒1軒家庭訪問をして集めるというものです。留守が多いので、何度も足を運んで署名してもらいました。
伊方原発とプルサーマル 2010年3月以降、使用済み燃料から取り出したプルトニウムを混ぜた核燃料を使うプルサーマル発電をしていたが、11年4月に定期検査で停止。3号機が再稼働すれば、福島原発事故後初のプルサーマル運転となる。 |
感動的な場面がいくつもありました。伊方町に近い保内町広早では、足の悪いおばあさんが「外出できないので、いつ来てくれるかと待ち続けていた。とうとう来てくれた」と涙ながらに喜んでくれました。40年前に原発建設反対運動を経験したミカン農家の方は、夕方からの選果作業を息子に任せて地域の農家をまわり、10日間で200筆以上集めてくれました。
大城市長は、「ミカンと魚のまち=八幡浜」と言いますが、「彼にそれを言う資格はない」と怒っている市民もたくさんいます。
1月28日に臨時市議会が開かれ、住民投票条例が審議・採決されます。議長を除く15人の市議の態度は、地元テレビ局によると、住民投票に賛成が5人、反対が6人、どちらとも言えないが4人となっています。昨年秋の「早期再稼働を求める決議」は、8人の市議の賛成で可決されましたので、8人のうち誰か1人が態度を変える、または退席するなどすれば、可決という微妙な情勢です。なんとしても1万人の署名に込められた市民の重い意思を尊重し、子どもたちの未来に関わる大切なことは市民の意見で決めたいと思います。
住民投票は、「たいせつなことは自分たちで決める」という住民自治をつかみ取ろうとするものです。住民の意思を排除しながら独善的に進められた「地元同意」を突き破って、ふるさとを守り、住民の命と財産、子どもたちの未来、ミカンや魚を守っていくために、進められました。
編…推進派の動きは?
八木…推進派の動きとして象徴的だったのは、農協です。JA西宇和は、みかんの出荷で大きな力を持つ農協です。各支所に署名をお願いすると協力的で感触はよかったので、農協OB・長老も伴ってJA西宇和本部に出向き、協力をお願いしました。幹部との話し合いの感触もよかったので、20冊ほどの署名簿を預けたのですが、2週間後に受け取りにいくと、「個人情報だから」という理由で署名簿が封印されており、持ち帰って開けてみると全て真っ白、1筆の署名もありませんでした。県知事や経済連合会から圧力がかかったようです。
ヘリ基地反対協議会(沖縄名護市)共同代表の安次富浩さんは、沖縄の辺野古基地反対運動を振り返って「18年前の名護住民投票が今日の闘いの出発点だった」と語っています。名護住民投票条例直接請求運動では、有権者の半数を上回る署名が集められ、住民投票を実施。その後の市長選では、新人の反対派候補が、受け入れ容認派の現職を破って当選。これが起点となり、反基地運動は沖縄全土に広がりました。
一方、昨年8月に八幡浜市で「市長を囲む会」が行われた際、再稼働反対派の仲間が住民投票を求めると、市長は「そんなことをすれば沖縄みたいになる」と答えています。彼らなりに住民投票の意味をしっかり理解しているのです。
原発をめぐっては、政府を筆頭に、地方権力や商工組合といった公的権力は、再稼働推進で固まっています。住民投票は、この公的権力の意思に割って入り、住民の意思で下から揺さぶろうという試みです。住民投票が実施されれば、再稼働反対が多数になることは間違いありません。そうなると次は、市長の進退問題となります。地域の権力構造が大きく変わるチャンスです。国策として進められてきた原発に、地元地域から反対するには、地域の権力構造を変えることが不可欠です。住民投票とは、そういうところに踏み込む挑戦だということです。
直接請求署名は、個人の意思を公表する行為であり、その覚悟を求めるという意味でアンケート調査とは重さが違います。保守王国と言われる愛媛のなかでも特に地域住民のつながりが深い南予地域で、公的な意思に反して個人の意思を表明する重みを考えると、1万筆の署名は、本当によく集まったと驚いています。だからこそ市議会も簡単には無視できないのです。
22日には、市議の全員協議会が行われ、参考人として我々の仲間が意見を述べました。ここで市長は当初言われていた「消極意見をつけてともかく議会の判断に委ねる」という姿勢を一変させ、6項目にわたる全否定の意見を付けて否決を求めました。また、協議会冒頭に再稼働推進派の8名が退席という、高圧的で挑戦的な姿勢が浮かび上がっています。
こうなると、議会内での頑張りとともに、議会外での市民の意思と力の結集、 そしてそれをもっての市長&推進派の包囲という構図を創り出すことが決定的に重要です。1・28の市庁舎を包囲する人々の行動こそが、次の運動の起点となります。28日には、四国全域から集まります。全国の友人たちに結集を呼びかけます。伊方原発が再稼働すれば、南予全体が脅威にさらされますから、南予全体の共通課題です。伊方町と県知事だけで決められる問題ではありません。条例が可決されれば南予の政治風景が変わります。
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