2016/1/29更新
市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司
深刻な問題は、日本政府や自治体当局が発表している空間線量(基本は設置高度が地上1メートルだが、数十メートルという高い位置のものもある)や住民の被曝線量の計測値自身の信頼度が極めて疑わしいことである。
以下に主要な事例をいくつか挙げておこう。
政府や自治体のモニタリングポストの表示が現実の線量の半分程度の数字しか示していない可能性が、実測により指摘されている。矢ヶ崎克馬氏と「市民と科学者の内部被曝問題研究会モニタリングポスト検証チーム」は、2012年、浜通り相馬・南相馬51カ所、郡山48カ所、飯舘18カ所などのモニタリングポストの測定を行った(検証には日立製測定器が使用された)。その結果、モニタリングポストが、その測定器に可能な限り接近させて測定した場合の65〜90%、除染されていない周辺地の実際の数値との比較ではおよそ50%ほどの数値しか示していないことが分かった(同研究会ホームページ)。測定器に最接近して測った場合の数値の差は、政府による人為的操作を疑わせるものだという。
除染していない周辺地との比較では、バッテリーの位置が測定器の下にあること、土台に鉄板が敷かれていること、覆いの中の諸部品が放射線を遮蔽していること、周囲が金網で囲まれていることなどの設置条件がこの原因であろうと推測されている。
『週刊朝日』2015年2月6日号によると、福島で個人線量を測定するために広く使われているガラスバッチは、前方からの照射を前提としているため、福島におけるような全方向照射という条件下では、線量を3〜4割低めに検出するという。この事実は、同年1月15日、ガラスバッチの製造業者である(株)千代田テクノル執行役員線量計測事業本部副本部長佐藤典仁氏が、伊達市議会放射能対策研修会で公式に説明した(同じく会議で講演した「フクロウの会」のホームページによる)。この報道に対し同社は、ホームページで、この過小表示をICRP(国際放射線防護委員会)の「個人線量等量」と「周辺線量等量」との相違による当然の結果として認めている。製造業者自身が認めたという意味で、この3〜4割の過小評価という数字の意味は大きい。
有名なアメリカの反原発活動家アーニー・ガンダーセン氏が組織している「フェアウィンズ・エナジー・エデュケーション」のインターネットニュースサイトは、アメリカの除染専門会社から日本に派遣された専門家(ケヴィン・ワン氏とサム・エンゲルハート氏)に取材し、重要な証言を得ている。
それによれば、同社員がアメリカから持参した測定器具を取り出して福島市内の放射線量を測定したところ、「その数値は公表されている放射線量よりも50パーセントも高いものだった」という。またアメリカ製の測定器と日本の測定器の測定結果を比較・検証したところ「なぜか日本の調査班が持参した機器の測定結果はアメリカ製に比べ、常に30%から50%低いことがわかった」という。
モニタリングポストの表示する数値を下げるように文部科学省が業者に圧力をかけているという明白な疑いがある。文科省は、2011年11月、アメリカ製モニタリンクポスト(地上1メートルで測定)の輸入納入業者「アルファ通信」との間の契約(600台設置)を一方的に解除したが、業者側によるとその理由は、文科省側が業者に対し「表示値が高すぎる」として補正するよう要求し、製造元の米社が「国際基準に準拠している」として文科省の要求を拒否したためであるとされている。毎日新聞(2011年11月18日)によると、文科省側も、契約破棄の理由として、「納期遅れ」だけでなく、「誤差が最大40%ある」(つまり1・4倍に表示される)ことも1つであることを認めたという。ちなみに同社は、2014年6月2日裁判所による破産手続きが開始された。
このような、公的モニタリングポストと一般に発売されている放射線表示器との表示値の顕著な相違は、福島県のホームページでも認められている(福島県HP→福島県放射能測定マップ→放射線に関する情報→「モニタリングポストの測定値とサーベイメータなどの測定値の違いについて」)。そこでは、サーベイメーター(一般の放射線測定器)では「より安全側に余裕を持って管理が行われるよう、実効線量よりも高めの値を表示している」と説明している。ということは、公的なモニタリングポストは安全側に余裕を「持っていない」ということである。公式のモニタリングポストの測定値が「危険側に傾いている」(表示値が低い)ことを福島県は公然と認めているのである。
さらに決定的なのは、政府の住民被曝線量の算定方式である。復興庁のホームページ(「避難住民説明会でよく出る放射線リスクに関する質問・回答集」など)にも記されているとおり、政府は、住民の被曝線量を「1日の滞在時間を屋内16時間、屋外8時間と想定」、屋内については「木造家屋の低減効果(60%)」(すなわち室外の線量の4割しか室内に達しない)として計算している。政府は、「年間20ミリSvとは時間当たりで計算すると3.8マイクロSvだ」としているが、3.8マイクロSv/時はそのまま年間に換算すると33・3ミリSv/年であり、政府のいう値の1・67倍である。すなわち、室内の汚染がないという非現実的な仮定を前提としたこの算定式によって、政府は現実の被曝線量を40%過小に(6割に)評価できるわけである。
以上をあわせて考えると、公式発表の被曝線量は、最低でも半分以下の数値に操作されているのではないかという疑惑が生じる。実際の線量の数値は、政府発表の2倍かそれ以上であると考えても不自然ではない。つまり、政府想定の年間1ミリSvは実際には年間2ミリSv以上であり、5ミリSvは10ミリSv以上、20ミリSvは40ミリSv以上、50ミリSvは100ミリSv以上が想定されていると疑われても仕方がないのである。
※筆者が持つ表示器も、日本製(上)は、ベラルーシ製(下)に比べて約半分の数値を示す。左は室内のマットの上、右は戸外の下水枡のプラスティック製フタの上である。室内もけっこう汚染されていることも分かる(大阪府南部の自宅にて2016年初に測定)。ベラルーシ製の日本語マニュアルには、政府の測定器とは方式が異なり高い値が表示されるので「公の値とは比較しないでください」と注意書きがある。
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