人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 1部150円 購読料半年間3,000円 ┃郵便振替口座 00950-4-88555/ゆうちょ銀行〇九九店 当座 0088555┃購読申込・問合せ取り扱い書店┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto: people★jimmin.com(★をアットマークに)twitter
HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

2016/1/18更新

福島原発事故の人的被害想定について
健康影響は「予想されない」という政府見解を検証する

  市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司

福島原発事故の放出放射能の結果生じる人的被害の想定を考えよう。

健康被害「ゼロ」論

政府の公式見解は、環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の「中間取りまとめ」(2014年12月22日)とそれを踏まえた「環境省の当面の施策の方向性」(2014年12月27日)に表明されている。それによれば、「今般の事故による住民の被曝の線量に鑑みると」福島県及び福島近隣県において、@「がん罹患率に統計的有意差をもって変化が検出できる可能性は低い」、A「放射線被曝により遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されない」、B「不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響が今後増加することは予想されない」というのである。つまり、福島原発事故では人間の健康被害は「ゼロ」であるはずだという。被害は調査もする前から「ない」と断定されているのである。

福島県における小児甲状腺がんの多発はすでにはっきりと現れているが、政府と福島県当局は多発の事実は認めても、放射線との影響は「考えにくい」として、事故との関連は否定し続けている。政府による漫画「美味しんぼ」に対する攻撃についても同様である。鼻血さえも被曝の影響が「風評」なのだから、ましてや被曝による病気やがん死など考えられないという論理である。

この意味では、政府の最初から「ゼロ」という事故被害想定は、実際に出て来ざるを得ない健康被害について、放射線被曝との関連はないと強弁するための、したがって何の責任も取らず賠償も補償もしないための論理である。

だがこのようなゼロ被害論は本当であろうか?政府や支配層の中枢は本当にゼロだと思っているのだろうか?

財界首脳が示唆する想定5千人/年の死者

それを否定する有力な証言がある。それは、安倍首相の側近であり財界中枢の重要人物であるJR東海の葛西敬之会長(当時現職、現在は名誉会長)が、2012年9月10日に、読売新聞紙上で発表した論説である。そこで葛西氏は、日本では交通事故死亡者が「毎年5000人」も出ているが「自動車の利便性を人は捨てない」、「原発も本質は同じ」であり「リスクを制御・克服し」「覚悟を決めて(原発を)活用する」べきだとする発言をしている(記事写真)。交通事故程度の犠牲者が出ることを前提にして(すなわち「覚悟して」)、原発をあくまで推進するべきであるというのが、葛西氏の主張の眼目である。ということは、そのベースに、福島原発事故の結果としてこの程度の人的被害が生じる可能性があるとする被害想定が存在するはずである。

この年間5千人程度すなわち10年間で5万人、50年間で25万人という数字は特異なものではない。被曝の危険性を警告する立場にたつ欧州放射線防護委員会(ECRR)のクリス・バズビー氏などの推計とほぼ同じレベルである。

葛西氏の想定を検証する

このような被害想定は、前に紹介した政府の放射線医学総合研究所による国際的な諸機関の集団線量データ―10万人が100mSvの放射線に被曝するとおよそ1000人のがん死者が追加的に生じる―から容易に推計することができる。同研究所が列挙しているデータは、広島・長崎の原爆被爆者、世界の核産業労働者、レントゲン撮影により被曝した患者などの多数の国際的な疫学調査から引き出された、科学的・実証的数字である。つまり、過去の科学的知見からは、福島事故による住民の集団被曝によって健康被害が全く「予想されない」ということには絶対にならないのである。

日本の人口は現在1億2730万人であるが、いま大ざっぱに、福島原発事故による放射能汚染度の高低にしたがって日本の人口全体が、それぞれ別表の通り、追加の放射線量の照射を年間に受けるモデルを考えよう。これは、葛西氏の被害想定を検証するための概算モデルであり、線量の実測値を累計した数値ではないが、現実から大きくかけ離れてはいない。この年間の集団被曝量によって、およそ1万人の追加のがん死者が将来生じる計算になる。国際放射線防護委員会(ICRP)の見解では、低線量での被曝のリスクを係数操作(DDREF)で2分の1にしており、これでちょうど葛西氏の示唆する年間約5千人になる。

安倍首相に最も近い財界人の1人である葛西氏の発言は、極端に露骨な原発推進の立場から、政府の「ゼロ被害」見解の虚偽を暴露したものと言える。それは、支配層の中枢部が、実際には福島原発事故の被害を極めて深刻に考えており、年間5千人・累計数十万人の犠牲者が出る可能性も十分に考慮していることを示唆している(実際には次回以降説明するがこの数字でさえ過小評価である)。葛西氏の「覚悟を決めて」発言は、支配層中枢が現在進行中の「放射線による静かな大量虐殺」を図らずも告白したものである、と言えるかもしれない。

  HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people★jimmin.com(★をアットマークに)
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.