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2015/12/23更新

福島の20ミリシーベルト以上の避難地域に10万人を帰還させると何が起こるか
政府の帰還政策の恐るべき危険性を警告する

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司

政府は、福島県内の20ミリシーベルト(mSv)以下の汚染地域に対する避難指示を次々に解除して住民の帰還を促してきたが、2015年6月12日、さらに現在年間20〜50mSv地域の避難指示を17年3月までに解除し、帰還を促す方針を閣議決定した。また福島県は、15年7月9日、住宅支援などの避難者援助を17年3月をもって打ち切る方針を公表した。

これは、「帰還による被曝か、避難による生活苦か」の選択を避難者個人に強要する、残酷きわまりない政策である。現在11万人に上るとされる避難者は、政府と県当局による経済的・社会的圧力により、法律上の上限値である年間1mSvを大きく上回る被曝を、子どもや妊婦までも含めて、半ば強制されようとしている。

だが、20mSvや50mSvという数字は何を意味するのか?

福島原発事故が広範な地域を放射能で汚染したとき、山下俊一氏ら放射線「専門家」たちは、100mSvまでの放射線の健康影響は「分かっていない」のだから「安全である、と主張した。彼らは、その宣伝のために汚染された地域を講演して回った。この場合の「100mSv」とは、「1回の被曝量」あるいは「累積の被曝量」のことであって、「年間被曝量」のことではない(もし年間100mSvを浴び続ければ、10年で放射線障害が出る1Sv、40年で半数致死量4Svに達してしまう)。このような「100mSvしきい値論」は、低線量被曝を無視する根本的に間違った見解であった。

日本政府が行っている帰還政策がどれほど危険であるかは、仮にそれが実現したら何が起こるかを、政府側専門家の理論をベースにして考えれてみればよい。いま、避難をしていた住民約10万人が、年間20mSv汚染地域だけでなく、政府が避難指定解除を目指している年間50mSv地域に、帰還して居住する、と仮定してみよう。

そこで2〜5年も経てば、帰還者の累積被曝量は、政府側の専門家たちが放射線の健康影響があると「分かっている」とするレベル、100mSvに達する。帰還した住民が「確率的にがん死する」という放射線の「確率的影響」は、確実に現れるであろう。

放射線ジェノサイド

政府の放射線医学総合研究所が編集した教科書的著作にある表を見てみよう(上付表)。引用されている国際的に「権威ある諸機関によれば、10万人が100mSvの被曝量(原表では0・1グレイであるが、同じ量である)を浴びると、生涯で426〜1460人の「過剰な」(つまり追加的な)がん死者が出る、と推計されている。中央値は約1000人である。計算上の係数操作を除いて平均しても、約1000人である。ここではこの値を採ろう。

これらの追加的ながん死者数は、20mSvの場合5年間、50mSvの場合2年間に対応する。放射線量は半減期によって減少するが、いま残っている核種は半減期が長いので、経年の減衰は大きくない。ここでは生涯期間を50年とし、減衰を4割として計算すると、、50年間に6000人〜15000人のがん死者が出る計算になる。

同書には、実際にはがん死リスクが従来の推計のおよそ3倍だという最近の調査結果も引用されており(123ページ)、その場合には18000人〜45000人のがん死者が出る。50mSvの場合、帰還住民の半数が亡くなる可能性が示唆されている。

現実には、放射線が一因となる心臓疾患、腎臓病、免疫不全、代謝異常など、がん以外の病気による追加の死者が付け加わる。放射線への感受性が数倍から数十倍高い小児や乳幼児への影響も考慮し、また放射性微粒子を吸い込んだり汚染された食品を食べたことによる内部被曝の影響も入れると、リスクはさらに増える。つまり、これらを捨象して、政府側の専門家の「100mSvしきい値論」に依拠しても、外部被曝とがんだけでこの結果になるのだ――隠された静かな放射線ジェノサイドというほかない。

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