2015/11/13更新
NPO法人SEAN(大阪府高槻市)・遠矢家永子さんインタビュー
教育現場でのジェンダー平等/予防教育や会員間の保育サポート、居場所と役割づくりの拠点施設「生きがい工房」などに取り組むNPO法人SEAN(大阪府高槻市)がある。場づくり連載第三弾として、遠矢家永子さんに、@SEANの特色と居場所づくり、ANPOが「安上がりの行政」とされることに対する認識、B近年、社会問題化しているポルノ被害への対応、について話を聞いた。(編集部・ラボルテ)
──SEANはジェンダーに関連した予防教育などに取り組まれているとのことですが、ジェンダー問題に取り組んでいる他のNPOや男女共同参画センターなどとの違いや特色は?
遠矢…「女性の人権」という表現は、なるべく使わないようにしています。圧倒的に女性が虐げられている現状があるわけですが、男性が虐げられている問題も当然あり、社会全体が男女に棲み分ける価値観を植え付けているわけです。「『○○の人権』というふうに、人権そのものを縦割りに考えないようにしている」と伝えています。
例えば、子どもの人権に取り組んでいる人たちのなかに、「何かをしてあげる対象」として特別扱いする人たちもいます。大人のほうが力はあるとはいえ、子どもの主体性を奪ってはいけないし、「自己決定する以上は自己責任がつきまとう」ことも子どもには伝えていきたいです。私のなかにも「支援される/支援する」ことが複合的にあるわけで、「助けられる人/助けてあげる人」と分類する考え方を取りたくないですね。
大切にしていることは、「男女共同参画の分野」に収まらないこと。男女共同参画(ジェンダー視点)は人権概念です。市民公益活動サポートセンター (※注@)の管理運営委員長といった活動を通して、「男女共同参画の分野」に限定せず関わるようにしています。
──居場所づくりについて、どのように考えていますか?
遠矢…「居場所づくり」を意識していたわけではなく、「最近どうしてたん?」と気にかけあうことで、「必要とされているという感覚」が大事ではないでしょうか。SEANに来る人たちで言えば、「誰とつながっていて、どこに属しているか」みたいな帰属感が根底にあるんじゃないかな。例えば、SEANの保育スタッフだった人が、賛助会員として残りつつパートの仕事に移ったことがありました。その後、「人や社会とつながる場が欲しい」ということで、パートで働きながら保育スタッフとして再び関わり始めたことがあります。
SEANに関わる人には、「男女共同参画ってむつかしい」と思う人もいれば、講師ができるほどの専門家もいたり。事務所に来てボランティアを一生懸命してくれる人もいれば、「何をしにきてるんやろ〜?」と思うような人もいたりします(笑)。
保育や教育に携わっていると、子どもたちはみんなあどけない顔をしていることが、改めてわかります。なのに、大きくなるなかで何かの加害へと突き進んでいく人がいるのは、その人が生きてきた背景や環境に、どこかで何かが歪められたり、傷ついたりしているんじゃないでしょうか。
──「新しい公共を作る」という流れのなかで、NPOが「安上がりの行政機関化する」という文脈もありますが。
遠矢…国は、公益活動を行うNPOに対して資金面で支援をすべきであると思います。「新しい公共の概念」は、行政主体の事業運営からNPOと協働していく新しい福祉のあり方だ、と言われていました。協働によって専門性を担保しつつ、コストダウンもできます。しかし現政権は、行政がなるべくコストや責任を取らない形での「共助・互助の概念」にすり替えたいのではないでしょうか。公的資金が不足しているのであれば、寄付文化を日本社会に根付かせて、基金化するシステムを構築すれば、NPOでも雇用促進ができ、市民自治力も高まると思います。
97年当時、SEANを始めたころに、読み聞かせボランティアの人たちのなかに、「お金を取ることで汚れると感じる女の人たち」がいました。そもそも家事や子育ては、愛の名の下で無償で行われており、労働で対価を受け取ること自体に抵抗があったのだと思います。現在、SEANは年間約1800万円のお金が動いていて、可能な限り責任量や労働量に応じて配分しているので、当然受け取る額に差が出てきます。「男社会」って簡単に言いますが、いいも悪いも含め男たちは組織の中で「お金」と向き合ってきました。そういう意味では、女たちはこれまで「お金」を運用することから逃げてきたのかもしれません。
──「できなかった」ではなくて「逃げていた」のですか?
遠矢…私より上の世代はできなかった。今50代である私の年代は、境目ぐらいだと思います。逃げられないというのは、シングルマザーや生活に困っている人たちです。男社会全般が「権力」を牛耳っているのではなく、勝ち組といわれる階層の一部の男たちが「権力」を握っているわけで、女たちのなかにも男社会の中でうまく立ち回って権力側にいる者もいます。権力者にとって「命を投げ出して、お国のために戦う男たちとそれを支える女たち」がいるほうが都合がいい。それが「男/女らしさ」といったジェンダー規範となって、本来「社会責任」であるべきものを「家族責任」にすりかえ、「愛」「絆」と言ってしまえば「安上がり」です。「ジェンダー規範」ではなく、一人ひとりのありのままを大切にする「人権規範」を広めていきたいと思います。
──今後の課題・取り組みについて教えてください。
遠矢…「女の子たちの性」が消費されているという問題です。この国では、このことに社会全体が慣れてしまい、すでに麻痺しています。報告書(※注A)に書きましたが、06年当時、「雑誌や広告に女性のヌードや水着姿がたくさん載っていることについてどう思うか」というアンケートに対して、中学生では、男女ともに30%近くが「嫌な気持ちになる」と回答しました。いまはゼロに近い状態で、ほとんどの生徒が「気にならない」「仕事の一つ」と答えます。
最近は「着エロ」という、子どもに水着を着せた写真や動画が出回っています。メンバーの年齢層が低いAKB48などやジュニアアイドルが象徴するように、社会全体的に性別によって「性的に消費される側/消費する側」として扱うことに対して麻痺しています。「需要と供給があるから経済的に必要」とか、「男ってそういうもんでしょ」と生徒たちがアンケートでコメントしています。
「性」は、それぞれが主体性と責任を持って相手と関係性を築いていくべきものなのに、「性的に消費される側/消費する側」に固定化することに違和感を持たないことに対して、「とんでもないところまで日本社会はきている」と危機感を募らせています。
PAPS(※注B)は現在、ポルノ被害問題で、ネット上で相談を担っています。2011〜13年のポルノ被害相談件数は1件だったのに、今年の相談件数は半年で54件まで増えています。今年度SEANは「10代をとりまくポルノ被害の相談事業」で助成金を取り、1月にボランティア相談スタッフ養成講座を開催する予定です。
PAPSにきた関西圏での相談を、SEANが担当できるような体制づくりと人材養成を行います。当事者の方にお会いして弁護士につなげることが主な活動ですが、労働契約の中で搾取され食い物にされている実態が見えてきます。
被害は存在しないと隠蔽する言説もネットでたくさん出ていて、風俗業界でスカウトをしている人たちは、「被害を言うこと自体が風俗で働いている人たちを貶める行為だ」「夜の街の少女たちを支援する人たちが出てくると困るんだよね」とコメントしているのを見たことがあります。
報告書『若者の性意識とデートDV』
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実際には、「被害」という認識がない被害者も多いのです。話を聞くと、撮影という名の性暴力被害であり、刑事事件で訴えることもできるような相談内容であっても、契約書にサインしてしまい、幾ばくかの対価と引き換えに、だまされた自分の問題としてうしろめたさを抱え、「被害」と認識できる力を持てていないのが現状です。そのために予防教育の場を、さまざまなところで提供する必要があると思うので、これからも活動を続けていきます。
注
@市民公益活動サポートセンター…地域課題の解決に向け、市民公益活動に取り組んでいる団体や、個人を後押しし、活動しやすい環境を整えることを目指している。
A報告書(『若者の性意識とデートDV』)…06年から、デートDVの予防教育出前授業に取り組み、授業前に中高大学生を対象に「ジェンダーと暴力」に関する意識調査アンケートを実施、7千人を超える結果を報告書として発行。
BPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)…研究者や市民活動家、福祉施設職員などが集まり、ポルノグラフィの制作・流通・消費などを通じて生じている人権侵害や性暴力の問題について議論・調査・検討し、社会に広く訴えていくことや、ポルノ被害者支援を行うことを目的として活動している。09年結成。
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