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2015/10/9更新

イスラエルに暮らして

ブレーキング・ザ・サイレンス〈沈黙を破る〉
イスラエルの占領犯罪を問い続ける元兵士たち

イスラエル在住 ガリコ 美恵子

2004年、ヨルダン川西岸地区・ヘブロン(*注@)に配置されていた元イスラエル兵士たちが、テル・アビヴ(イスラエル最大都市)で写真展を開いた。

写真展では、「外出禁止令のなか、やむ終えぬ理由で家の外へ出るパレスチナ人を捕らえて、両手を後ろで縛り、目隠しをして、トイレにも行かせず水も与えず長時間拘束した。命令されて遠距離銃で庶民を撃ちもした。彼等が何をしたというのだ?なぜ俺たちはこんなに偉そうに怒鳴ったり、傷つけたりしているのか、わからない」という彼らの率直な疑問が表現されていた。

元兵士たちは、自分たちがしていることへの疑問を胸に、現場で起こったことをカメラに収めていった。しかし兵役中は、軍関係のことを外部に漏らすことは禁じられており、メディアのインタビューに答えたりすると、刑務所行きである。特殊部隊などは、兵役を終了しても、一生、口外することやアラブ諸国に行くことが禁じられている。

兵役を終了した若者たちは、そうした「疑問」を写真で表現した。ユダヤ人が書いたヘイトメッセージ。兵士ごっこをして遊ぶパレスチナの子どもたち。無罪のパレスチナ人を拘束して目隠しで縛り付けた時の写真や、パレスチナ人から奪い取った車の鍵の数々も展示され、元兵士によるビデオ証言も行われた。

国内外から多数が会場へ足を運び、新聞やテレビでも大きく取り上げられて反響を呼び、会場でショックを受けて泣き出す親もいた。このため、グループの中心人物らが期間中にイスラエル軍基地への出頭を命令されて、半日拘束された。そこで、「誰がどれくらいシオニズム国家にとって危険か」を判断するために、個別尋問された。

私は、日本人ジャーナリストの通訳として3日間、写真展会場へ足を運んだ。よれよれのTシャツを着た元兵士・ミハ(当時22歳)が、海外メディア関係者約100名を対象に、展示物の解説をおこなった。その解説の最後、彼の言葉に鳥肌が立った。

「私たちは幼い時から、大きくなれば兵役に就くことが当然の義務だと教育されて育ち、高校卒業すると兵役に就きます。兵役中、家族や社会の期待に応えようと、一生懸命、軍命令に従いました。でも気がつくと、人として罪を犯していました。自分がやったことだと信じたくないようなことを、たくさんやりました。休暇で家に戻っても、自分がパレスチナ人にどんな悪いことをしたかは、誰にも話せません。イスラエル人の若者たちが、兵役を終えると世界中に旅に出ることは、誰もが知っています。自分がしたことを忘れたくて、海外で麻薬に溺れたり、自殺してしまった友人もいます。自分が行った行為に罪悪感があって、罰せられるべきなのに罰せられず、忘れたくても忘れることができず、誰かに話したくとも話せないで、そのまま大人になってしまうのです。

若者たちは、犯した罪を苦にして精神を病んだり、麻薬に溺れてしまう若者たちもいます。イスラエル社会は、彼らが逃れることができない『なぜなのか?』という疑問に答える責任があります。そのことを問うために、私たちは今日、ここにいるのです」。

「イスラエル人が占領の実態を知ることは義務」

彼ら(NGO『沈黙を破る』)は、イスラエル市民対象に「ヘブロン・ツアー」を始めた。「占領の実態は、現場に行かねばわからない」「占領のひどい現実を目で見て実感してほしい」という元兵士たちの願いは、次第に人々の支持を得るようになっている。

2006年・レバノン侵攻、2008〜09年・ガザ侵攻、2012年・ガザ空爆、2014年・ガザ侵攻に加った兵士たちが、この団体のインタビューに応じ、軍の戦争犯罪を証言した。メンバーの数は年々増えている。

『沈黙を破る』から《へブロン・ツアーへのお誘い》を受けたので、8月28日、参加した。ツアーはテルアビブとエルサレムから計8台の大型送迎バスが出て、参加者は350名にものぼった。グループごとに元兵士が一人付き、解説した。元兵士たちは担当グループを案内し、入植者の妨害を避けながら解説するのに忙しくしていたが、メンバーの一人に質問することができた。

──『沈黙を破る』は団体として占領に反対していますね。メンバー全員、反対していますか?

メンバー…もちろんです。そのためにこのようなツアーを組み、解説するのです。兵役を終えたばかりの若い兵士たちが毎年、『沈黙を破る』に参加して、大きくなっています。私たちは占領が続く限り活動を続けます。

ツアー中、パレスチナ人の通行が禁止されているシュワダ通り(*注A)では、約200名のユダヤ入植者たちが、イスラエル国旗を振り、大声で歌い、叫び声を上げて妨害した。最後は、「入植に反対する地元青年の会」事務所で地元パレスチナ人が話をし、参加者との意見交換や交流の時間がもたれることになっていた。ところが、入植者の妨害で到着が2時間ほど遅れ、短時間の交流会になってしまった。

急な坂を登り降りするツアーの行程についていけない年配組は、入植者用の道を使って近道し、事務所へ直行した。そこに加わったテルアビブ在住の女性2人にインタビューした。

──ツアーの感想を聞かせてください。

65歳の女性…若い頃から占領反対運動をしています。へブロンにきたのは初めてですが、『沈黙を破る』の活動は画期的なことです。彼らを誇りに思います。私たちイスラエル人が占領の実態を知ることは、義務です。

77歳の女性…私は1938年生まれです。両親がヨーロッパから移民してきた時、ここはパレスチナで、私は幼い時、パレスチナ人でした。私の家族はパレスチナ人として幸せに暮らしていました。パレスチナのアラブ人は、イスラエル政府やイスラエル人と違って、ユダヤ人に対して差別や虐待や追放はしませんでした。今、イスラエル政府はパレスチナを占領し、ひどいことをしていますが、恥ずかしいことです。私の両親は、もともと住んでいた人々を追い出し踏みにじるためにヨーロッパから移民してきたのではありません。私は、イスラエル政府にとても怒っています。占領なんてとんでもないことです。

──日本に関して、学校で何か習いましたか?

65歳の女性…イスラエルは、1948年建国時にパレスチナ人に対してどんな酷いことをしたか隠しているけれど、他国の悪事は学校で教えます。大戦時に日本軍がアジア諸国に対して行った悪事も習いました。

77歳の女性…しかも日本政府は、慰安婦に対して謝罪さえ拒んでいます。

65歳の女性…あなた(ガリコ)は女性だから、イスラエルで暮らせて良かったと思います。日本の女性に対する不平等と蔑視は、今もあまり変わっていないと感じます。私は日・イ商工会で働いていましたが、日本人男性の女性に対する蔑視的態度は、ぞっとするほどでした。日本は男女平等に目覚めなければ、民主主義国家とはいえないと思います。イスラエルが占領や差別を止めなければ、民主国家とは言えないのと同じです。

@へブロン…ヨルダン川西岸地区にある都市。アブラハム一家の墓があり、その上には、アブラハム・モスクが建てられている。アブラハムはユダヤ教・キリスト教・イスラム教共通の「最初の預言者」でもあるため、イスラム教の聖地であり、ユダヤ教の聖地でもある。1997年以降、へブロン合意により、町はH1地区(人口30万人/行政・治安をパレスチナ自治政府が担う/イスラエル人は侵入禁止)とH2地区(パレスチナ人口・1万2000人、イスラエル入植者人口・800人。治安・行政共にイスラエル政府・軍が担う)とに分断されており、境界にはチェックポイントが設けられている。通勤、通学の際もイスラエル軍による検問を受けないと通過できない。

Aシュワダ通り…へブロン旧市街沿いにある、商店が並ぶ通り。以前は栄えていたが、1994年、ユダヤ入植者がアブラハム・モスクに違法侵入し、礼拝中のイスラム教徒29名を銃で殺害し、125人に怪我を負わせたテロ以降、パレスチナ人の通行が禁止され、商店は閉鎖された。この通りに住むパレスチナ人は、表玄関が使えないため、裏ビルから隣人の屋上をまたいで家に入る。

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