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2015/10/9更新

メディア時評

権力監視ができない日本のメディア
侵略戦争法反対運動を揶揄するメディア御用学者

浅野健一 
ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授
京都地裁で地位確認係争中

安倍晋三自公野合政権は9月19日、日本のほとんどの憲法学者と市民たちの反対の声を無視して、参議院でも侵略戦争法を強行可決した。日本政府は早速、アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加している自衛隊の任務に「駆け付け警護」を加えようとしている。

自公政権の戦争法強行は、米国国防総省のタカ派が描いた計画に沿って、日本が米国と共にグローバル侵略戦争に参戦する時代の始まりである。あらゆる手段を使って戦争法を停止、廃止しなければならない。

戦争法の成立過程を振り返ると、安倍政権による憲法無視のクーデターだった。この安倍政権の暴挙を食い止めることができなかったのは、NHK、民放、大手新聞が権力を監視しなかったからだ。東京・代々木のNHK放送センターへのデモが行われたのは画期的だ。日本の企業メディアとNHKがジャーナリズム機能を果たしていないことが、この間はっきりした。

御用記者は首相会見でも質問せず

安倍氏は9月25日に党総裁として、26日には首相として記者会見した。安倍氏は、戦争法の次は経済だと強調して、「新・3本の矢」を発表したが、中身は何もない。記者クラブメディアの記者の誰一人、戦争法の暴力的強行成立について質問もしなかった。総裁としての会見は、萩生田光一・筆頭副幹事長が仕切っていた。萩生田は昨年11月20日、福井照・自民党報道局長との連名で「在京テレビキー局各社」に《選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い》と題した文書を送付。テレビ朝日の「報道ステーション」の番組責任者に放送内容に関して文書を送っている。

安倍首相は第二次政権発足以降、これまでジャーナリスト、メディア経営者、編集幹部・担当記者と72回も高級飲食店で食事を共にしている。メディア関係者とゴルフを5回している。

平河クラブ(自民党記者クラブ)幹事社の記者は「党総裁再選おめでとうございます」と言って、質問に入った。幹事質問の後、指名された記者は首相のお気に入り記者ばかりで、外国メディアを指名したと思ったら、経済関係のどうでもいい質問だった。手も上げていない産経新聞の御用記者に質問させた。NHKは二つの会見(午後6時開始)をすべて中継した。民放はニュース性がないとみて中継はせず、ニュースでも地味な扱いだった。

個人の思いにケチつける御用文化人

戦争法案をめぐり、国会周辺や全国各地で、若者やママさんたちも含め、普通の市民が個人として参加する「アベ政治」への抗議運動が盛り上がり、法律ができた後も運動は継続していることに危機感を持ったのが、御用学者・文化人だ。シールズのリーダーの学生が学ぶ大学に脅迫状まで届いた。

安倍首相と最も多く会食している田崎史郎時事通信特別解説委員は、テレビで「安倍政権はこれからも続く」と解説。他のコメンテーターも、「この法律は、残念ながら何かが起こらないと真価が理解されない」(元外交官の宮家邦彦氏)などと発言した。TBSのラジオ記者は、「安保関連法は昨年末の衆議院選で争点になっていた」と話した。官房長官は「争点は政府与党が決める。この選挙の争点はアベノミクスの是非だ」と言っていたのを忘れたのか。

テレビでは、国会前のデモへの批判も多かった。国の政策は選挙で選ばれた国会議員が決めればいいことで、デモ参加者の声に左右されてはならない、というのだ。しかし、民主主義の英語であるdemocracyは「人民統治」という意味であり、議員代行主義ではない。

デモと首相のヤジを同列視─メディア学者の暴論

無責任なテレビ屋以上に酷いのが、朝日新聞紙上での佐藤卓己京大院教授(メディア文化論)の言説だ。佐藤氏は、9月19日の朝日新聞に《熟議で「ヨロン」構築》と題して次のように書いた。

 この間に高まったように見える「反対の気分」は、感情的な「世論(セロン)」であって、熟考された「輿論(ヨロン)」には至っていない。セロンは短期間で移り変わるが、じっくりと合意に至ったヨロンなら、時間に耐えられる。例えば、「紫陽花(あじさい)革命」とも呼ばれた反原発デモ。あの時の「怒り」「関心」をどれだけの人々が持続させているだろうか。/安保法案について、私もこの内閣で成立させることには反対だ。でも、長期的に考えた時、紛争への対処を法律で規定する仕組みは必要だ。こうした議論は平時のうちにやっておかないと、仮に尖閣諸島などで船の衝突事案などが起きてセロンの向きが変わるとあっという間に進んでしまう。その方が、怖い。/今回、政権側も初めから話し合う気はなかったのだろう。野党や反対派も「戦争法案」と名付けて廃案を訴え続け、議論の余地はなかった。デモの言葉は対話ではなく、敵対的なアジテーション。安倍首相が「早く質問しろよ」とヤジるのと一緒だ。/賛成か反対か。原発推進か脱原発か。最近、セロンの分裂が際立つ背景には、情報環境の変化がある。SNSやネット検索で得られる情報は、自分に都合の良い内容になりがちで、思考を固定化させてしまう。(略)(聞き手・西本秀)

佐藤氏は、1994年に私と同時期の公募に応じ、助教授として採用され、2001年まで同志社大学文学部社会学科新聞学専攻(現在の社会学部メディア学科)にいた。自民党勉強会のメディア弾圧妄言が問題になった際も、毎日新聞(5月14日)に《政治介入がないことが「正常」であり、政治介入の存在は「異常」だという前提》《そもそも政治介入のない言論空間など想定できるのか》と、企業メディアが権力から圧力を受けるのは当たり前と、ニヒルに書いていた。

今回の幅広い個人参加の自然発生的ムーブメントの意味を理解しようとせず、自公政権、記者クラブメディアの翼賛報道を批判しない「メディア学者」の責任は重い。

私は朝日「声」欄へ《市民の声と首相ヤジ同一視に異議》と題した投書を送ったが、採用されなかった。

 私は安保法制に反対する学者の会の賛同人だ。学生・市民と研究者が隊列を組んで進んできた運動は、坂本龍一さんが8月30日国会前で述べたように、日本初の民主主義革命と捉えることもでき、非戦平和なアジアを構築する重要な力になると期待している。(略)
 昨年7月の閣議決定以降、若者や市民が批判してきたのは、集団的自衛権の行使が違憲であり、戦後70年の今、中朝両国の「脅威」が本当に「安保環境の激変」と言えるのか、戦争を繰り返してきた米国との軍事協力を拡大するのは賢明な選択か、などを問うてきた。5年前に尖閣沖で起きた海保巡視船と中国漁船の「衝突」事件では、日本の民衆は冷静だった。「セロンの向きが変わるとあっという間に進んでしまう」危険性は、安倍首相と、言論弾圧を繰り返す議員たちにある、と私は思う。
 国会審議で法案の立法事実を説明できなかった首相の品格なきヤジと、主権者として個人の意思で政府に異議を申し立てるムーブメントを同一視する言説は、同じ新聞学研究者として看過できない。

また慶応大の大石裕教授(日本マス・コミュニケーション学会会長)は20日の朝日新聞朝刊で、新聞各紙の論調やデモの扱いの違いについて、「スマホにニュースが並ぶ時代に、新聞も様変わりを求められ、論調の違いが最大の個性になった。メディア環境の変化が二極化に拍車をかけた」と話している。

果たしてそうだろうか。読売・産経は、もともと日米軍事同盟強化に賛成し、日本国憲法9条の削除・廃止を社論としており、今回も安倍政権を支持したわけで、情報環境の変化は関係ない。両紙とも、社内で自由な議論がなされているのかが重要である。SNSやネットはあくまで情報伝達の媒体であり、使う人たちによって左右される。それは既成のメディアも同じだ。

個人として立ち上がる勇気

私は8・30国会前、9・6新宿ホコ天、9・17国会前などの集会に参加して、戦争法案に反対の意思を表明した。一人でも多くの人が安倍政治を赦さないと意思表示することが重要だと考えたからだ。

私は学者の会に参加している。学者の会には1万3000人以上が参加しているが、ジャーナリズム・メディア研究者はほとんど参加していない。

同志社大学では村田晃嗣学長の衆院公聴会公述(7月13日)に抗議する「安保法案の成立に反対する同志社大学教職員有志の声明」が7月15日に発表され、90人が賛同したが、社会学部メディア学科の専任教員(私以外は8人)は一人も賛同していない。7月25日には緊急集会が同大で開かれ、私も5分話したが、メディア学科の教員は一人もいなかった。

戦争法が成立した後、「安保法案」の廃案を求める同志社大学有志の声明を出したが、これにもメディア学科の教員は私以外誰も参加していない。

同志社大学メディア学科の前身は新聞学専攻だ。メディア学科の案内パンフには、「新聞学専攻は、ジャーナリズムが機能しなかった戦前の反省から1948年に発足した」とある。ジャーナリズムのあり方が問われている今、同志社新聞学は沈黙していいのか。

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