2015/10/1更新
9月11日「電子インティファーダ」
アリア・アル=グサイン(英国人・パレスチナ人夫婦の子どもで、英国の大学を卒業、現イスラエルのハイファ在住)
翻訳・脇浜義明
イスラエル内パレスチナ人のためのキリスト教学校47校の教職員が、イスラエル政府の予算カットに抗議してストに入っている。ストだけでなく、観光名所のキリスト教聖地を占拠する抗議活動をやるぞ、とも言っている。
もともと、イスラエル政府はこれらの学校予算の70%を公費支出していたが、今や29%に減らした。イスラエル内パレスチナ人は、これを「パレスチナ文化とアイデンティティへの攻撃」と受け取っている。
キリスト教学校(生徒数3万人)は、1948年にシオニスト軍が行った民族浄化(ナクバ)を生き残った、数少ないパレスチナ人学校で、半官半民で運営されている。イスラエルのカリキュラムに従って教育しているが、宗教とパレスチナ史も教えている。
公費カットは差別である。なぜなら、同じように半官半民の運営で、イスラエルのカリキュラムを無視して宗教教育だけをやっている超正統派ユダヤ教学校には公費支給をどんどん増やし、今やほとんど費用の全額が公費となっているほどだ。
キリスト教徒パレスチナ人は、イスラエル人口の約2%。彼らの学校は、キリスト教徒だけでなく、ムスリムやドルーズ派の生徒も学んでいる。非常に優秀で、卒業生の多くは大学へ進学している。ナザレ出身のラニ・フーリーもキリスト教学校の卒業生で、キリスト教学校のおかげで「パレスチナ人が教育を受け、社会の指導者が多くで出た」と語っている。「学校でナクバを学び、パレスチナ人の目から見たイスラエル史を学んだ」。
学校への公金カットへの抗議は、ハイファやナザレやシェファルムなどイスラエル内だけでなく、占領地のラマラでも起きた。数百人のパレスチナ人高校生が、イスラエル政府教育省の前で抗議集会、半官半民のキリスト教学校を国家教育システムに取り込もうとしている、と政府を非難した。「このままだと財政破綻だ。ストライキでは埒があかない。イスラエルのテレビも報道しない」と、フーリーは危機感を募らせる。
イスラエル国民の5分の1がパレスチナ人。パレスチナ系国民に政府が費やす教育費は、ユダヤ系国民の24%にすぎない。
キリスト教学校卒業生のラビア・ファーフームは、キリスト教学校はパレスチナ人が必要とするものとイスラエル政府が要求するものをうまく両立させている、と言った。「自主性を尊重し、生徒が多くのプロジェクトを作成した。プロテスト・ソングを流すラジオをつけっぱなしにしたものだ。政府の視察官の学校訪問があると、校長が『今日はラジオは止めとけよ』と言い、ぼくらは『オーケー』と言ったものだった。中産階層家庭の生徒が多く、教養があり、政治意識も高かった」とファーフーム。「この公金カットは金の問題じゃない。分裂支配だ。この学校がパレスチナ人アイデンティティを作るので、それを潰したいのだ。イスラエル内ドルーズ派には一定のカリキュラムを認めているが、キリスト教徒とイスラム教徒のためのカリキュラムはない。アラブ人を分裂支配するためだ」(ファーフーム)。
キリスト教学校はムスリムやドルーズ派生徒を入れることで、イスラエル内パレスチナ人の間に一体感を育成した、とファーフームは語る。「キリスト教学校がムスリム・パレスチナ人のパレスチナ・アイデンティティを守っているので、イスラエル政府が攻撃するのだ」。
公金カットばかりではない。政府は、パレスチナ人の親が子どもの教育に支払う金額にも上限を設けた。年間2500シェケル(=645j)が上限とされたのである。しかし、学校は政府の公金カットを補うために、その2500シェケルの2倍の授業料を必要としているのだ。ストの結果、政府は5%の国庫負担増加と授業料値上げを認める方針を出した。学校側はそれを拒否した。
政府は私学一般にこういう政策をとっているのでなく、パレスチナ人の学校にだけこういう政策をとっているのだ。これは弾圧以外のなにものでもない。
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