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2015/9/8更新

教員の非正規化・文系冷遇・民間委託…
教育劣化するノースキャロライナ州(後編)

ノースキャロライナ州立大学教員 植田 恵子

「多様な教育機会の保障」という大義名分で教育の民営化が進めば、どのような結果を招くのか?アメリカ・ノースキャロライナ州からレポートが届いた。後編を掲載する。(編集部・山田)

共和党議会の「対策案」

ノースキャロライナ州では、教育予算削減による教員の契約社員化、教育環境の悪化に反発した教師が離職し、公立学校の質の低下が懸念されている。議会は教員確保と公立学校の質の向上を目指して、独自の政策を打ち出した。彼らが提案する3つの対策案―@TFA、ASTEM重用、B民間委託、についての分析・問題点を洗い出した。

TFA(ティーチ・フォー・アメリカ)の活用

TFAは89年に設立されたNPOで、低所得者の多い都市部や地方の教育向上に貢献することを目的としている。教員免許を持たない大学卒業生などが、夏に5週間の集中教員養成トレーニングを受けた後、2年契約で現場で教える、全米プログラムだ。

議会は、TFAを増やすことによって、教師不足を解消しようと提案する。現在、東部ノースキャロライナの貧困地域の学校では教師のなり手がなく、TFAに頼らざるを得ない。しかし、TFAの定着率はこの地域では特に低く、3年続ける教師は30%、 5年続ける教師は10%にも満たない。

TFAの経験と知識不足、定着率の低さ、非効率性を理由に、TFA廃止に踏み切った学区も多い。一時的に多少の税支出は抑えられても、長期的に見て、教育格差が大きい貧困学区で、くるくると変わるTFAがどれだけの教育的効果をもたらすのか、疑問視する教育関係者は多い。

文系冷遇・理系偏重

ノースキャロライナ州では、「ジェンダー研究やスワヒリ語を勉強したい学生は、私大に行け!州はビジネスに直結しない学問には金を出さない」と州立大学に対して公言した州知事が、教育改革の旗を振っている。彼はSTEM(科学、テクノロジー、工学、数学)を担当する教師への特別賞与を提案する。理数系の人材は民間企業でも引く手数多で、過重労働で見返りの少ない教員へのなり手は少ない。

議会は公立学校にも市場原理を導入し、需要が高いSTEM教師には給料を上乗せすることで教員を確保する、と言う。現在、課目の違う教師間での給料差はないものの、STEM教師であれば、学校から研修費用が支出されるなど、既に人文系教師との待遇格差は大きい。加えて、議会は大学の教育研究生奨学金制度は廃止したが、教育学部のSTEM専攻の学生のみ奨学金を出す、と言う。公教育の場でさえ、教師にも科目にも値札が付けられる。子どもたちはそこからどんなサインを読み取るのだろうか。

公共教育を民間企業に丸投げ

共和党議会の解決策は、問題を抱える貧困区域の学校に予算を投入して抜本的な改革を試みようとするのではない。民主党が築いてきた教育政策ではだめだ、だめな学校は民間企業や私立学校に外部委託してしまおう、というのが彼らの政策だ。チャータースクールやバウチャープログラムと言われるものがそれだ。チャータースクールというのは、公立学校に満足しない保護者団体や、営利団体である民間のチャータースクール企業が学校経営に乗り出し、州の予算(税金)と特別認可を得て運営する、実験的な学校である。州の学力試験や経営収支の報告義務なし、教員資格、無料スクールバスによる送迎や低所得家庭の児童への無料給食の義務も課されない。

行政に縛られない自由で柔軟性のある教育を求める支持者に支えられて、90年代から広まり、現在は州内に130以上のチャータースクールが存在する。 優秀な児童を集めて英才教育をほどこしたり、ユニークな教育方針を打ち出して、成功しているチャータースクールもあるにはあるが、州の監視を受けることなく低迷したまま存続している学校も多い。

そして最近、人種差別の復活を予感させる、白人学校、黒人およびマイノリティ学校が増加している。60年代の公民権運動以来、州教育関係者は教育の機会均等のための努力を重ねてきた。

公立学校は人種の偏らない学校を目指し、一校に40%以上低所得家庭(主に黒人やメキシコ系などマイノリティ)児童が集中しないことが決められている。

しかし、教育の自由を謳ったチャータースクールでは人種差別撤廃ルールを遵守する必要がない。白人の親は子どもを白人の学校に入れたがる傾向がある。一方、マイノリティの親たちはいろいろな人種の子どものいる学校を好む。白人の親たちは、たとえ我が子が多人種の学校に入れるくじに当たったとしても、子どもを人種の坩堝の中に入れようとはしないので、おのずと、白人の学校と黒人の学校が出来上がってしまう。しかも、チャータースクールにはスクールバスや給食費免除の義務もないので、低所得の子どもたちは入りたくても入れない。

バウチャープログラムというのは、低所得家庭の子どもの教育の選択肢を広げる策として、子ども一人当たり上限4200jまでが教育費(クーポン券)として支給され、子どもは私立学校に行ける、というプログラムだ。

特に貧困地域の保護者や子どもたちにとって、荒廃した公立学校や貧困から抜け出せる、稀有なチャンスを与えてくれるプログラムとして、人気が高い。去年は5000人が申し込み、2400人の子どもたちが私立学校へ変わる機会を手に入れた。

13年に始まったバウチャープログラムには、州公立学校予算から、年間1千万jが当てられる。議会は来年度はこの4倍を目指す。しかし、バウチャープログラムにも注視すべき問題がいくつかある。一つは、私立学校はカトリックなどをはじめとする宗教学校が70%を占め、子どもや親の人種、性別、信仰、性指向、 身体障害などを評価基準として、入学の是非を決める自由も与えられていることだ。これが公立学校ならば、基本的人権の侵害に当たる。

二つ目は、4200jを受け取っても、学校によっては学費が高くて、全額カバーされない場合も多い。一方、募集人数に満たない学校の収入源として利用されるケースもある。

子どもから企業重視の教育政策へ

現在、ノースキャロライナの児童一人当たりの教育費は5716jである。この額では、教育格差問題に向き合えるはずもない。民間企業に4200jで丸投げすれば、安くあげられるし、荒廃した貧困地域学校の教育向上のための予算を計上しなくて済む、と議会はふんでいる。

ある教育学者は、納税者からの税金であるにもかかわらず、民間教育機関へ丸投げすることによって、教育の実体が見えにくくなり、州民の教育問題への関心が薄れてしまうのが一番の問題だ、と警告する。

そして、もう一つ考えてみなければならない問題は、監視、規制の外された民間外部委託が、公共の資金である税金の使い方として適当かどうかである。また政教分離の点から見て、税金を特定の宗教学校に注ぎ込むことは合法だと言えるかどうか。この問題は、目下裁判の争点となっている。

矛盾を抱えながらも、貧困地区の学校から我が子を救い出したい、あるいは理想の学校に入れたいという親の悲願によって、この2つのプログラムに応募する数は増え続けている。

法人税減税と勤労者控除廃止

先日、15〜16年の州予算が発表された。14年に州所得税の累進課税が廃止され、一律5・8%になった。州法人税も14年は6・9%から6%に下がり、15年は5%、17年には4%まで下げることが検討されている。一方、90万人の低所得者は、勤労所得控除により所得税が控除されていたのだが、廃止された。

企業、富裕層への減税による税負担は、納税者の80%を占める年収6万7千j以下の層へさまざまな控除廃止という形で押し付けられた。挙句、議会は財源不足を理由に、公共教育への投資を放棄した。

この2年の共和党議会による教育改悪について調べれば調べるほど、なぜこのような理不尽な教育政策がまかり通るのか、理解に苦しんだ。結局そこに見えるのは、子どもや州全体の利益を第一に考える教育政策ではなかった。共和党の、民主党の息のかかったものはすべて撲滅しようという政治的な意図だった。

10年の中間選挙で州教師連盟は民主党候補を公に推薦したのだが、民主党は大敗、共和党が州議会の与党となった。共和党は、民主党を支持した教育関係者潰しを、教育予算の削減、終身雇用の剥奪、共和党に批判的な大学教育研究機関の廃止という形で、徹底的に行なった。

公共教育の民営化もしかり、民主党の影響を強く受けている教育研究生奨学金制度の廃止も、民主党支持を表明する教育者地盤の弱体化を狙ったものだ。異なる意見には耳を貸さない、一党独裁の、声の封じ込めだ。

そして、教育はビジネスに直結し、学校の存在目的は企業で即戦力となる人材の育成にある、とする。STEMが物語るように、利潤を生まない、無駄なものには投資せず、従順な企業の歯車になりうる人材作り、実学偏重を学校に要求する。これは、目先の利益しか見ない、知性軽視の教育政策であり、政敵殺し、公共の福祉をビジネスとしてしか考えない財界保守派政策である。

おや?こんな国はアメリカだけではないことに、はたと気がついた。

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