2015/8/14更新
イスラエル在住 ガリコ 美恵子
昨年12月、テルアビブ北部ヘルツェリア・ピトゥアの在イスラエル日本大使公邸で開かれた天皇誕生日パーティに、イスラエル軍上官クラスおよび軍需産業関係者多数を含む130名が出席した。「日本は平和主義国だと思っていたので、イスラエル軍の催し会かと思うほど多くの軍組織関係者や兵隊が出席していたのには、目を疑った」と、式に招かれた知人は語った。
ネタニヤフ首相の代理で天皇誕生日の祝辞を述べたのは、過去3年、来日する度に同行したハレル・ロケル元次官だった。イスラエルと日本の経済貿易協力面および軍事取引関係の強化は、ロケルの業績と言える。式典の前月、既に次官ポストから降りていたロケルが首相代理で祝辞を述べたのは、「顔見知りになることから信頼関係をつくり、信頼がなければ何事も成立しない特殊な日本の性質」を心得て、来日する度に政府高官や経団連との関係を築いてきたロケル元次官でなければ、首相代理は務まらないことを熟知してのことだろう。
昨年、日・イ首脳会議で、日本はイスラエルとの経済およびサイバーセキュリティや軍事協力関係を強める旨で合意し、経済産業省の茂木大臣は、イスラエル経済省とR&D(研究開発)の契約を結んでいる。日本が海外でR&Dの契約を結んだのは、イスラエルが初めてだった。
アベノミクスもイスラエル首脳・軍部と同じく、軍事産業の甘い蜜に翻弄されている。非常時や安全のために金を惜しむ人は、まずいない。よって軍事産業は、儲かる。
そして、儲けるためには「テロ攻撃」の存在が絶対必要である。
6月26日、チュニジアの高級ホテルのビーチで、男性1名が銃で無差別発砲を行うというテロ事件が発生した。死亡した38名のうち30名はイギリス人観光客。「チュニジアの観光業と、芽を出しかけているデモクラシーを、潰すために行った」とISが犯行声明を発表した。
7月1日、エジプト・シナイ半島北部で、エジプト軍検問所などが武装集団に襲撃される事件が発生し、兵士17人が死亡、30人が負傷した。ISが犯行を認め、さらに「イスラエルおよびハマス勢力のガザも攻撃対象にする」とテロ予告発表をすると、イスラエル軍はテロ対策としての陸軍新エリート部隊の誕生を発表した。
7月3日、シナイ半島から南イスラエルにロケット弾が飛来。怪我人などの被害はなかったが、イスラエルはエジプト国境沿いの道路を封鎖し、ガザを空爆。
同時期、日本人ジャーナリストの安田純平氏が、シリア取材中に行方不明になっている。ISに拘束されている可能性が指摘された(後に「別のグループ」との情報も流れた)。
9日には、官房長官の定例会見で、菅官房長官は「拘束されたという情報は受けていない。安否については、いろいろな情報を聞いている」とコメントした、という。
7月2日から4日まで、テルアビブで軍需製品の見本市(Israeli/defence/expo) が開かれた。こうした物騒な世の中でこそ、繁盛する軍需産業。イスラエル人左派たちは、会場前で抗議デモを行った。イギリス、フランス、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアからは参加辞退する会社が出たが、世界90カ国から1万2千人の軍需産業関係者が参加した。イスラエル製狙撃兵器や無人機、実弾、ゴム弾、特殊実弾の見本が展示され、実物サンプルを用いての演習プレゼンテーションも行われた。初日は4千人の見学者に加え、20カ国から250人のプレゼンテーター、80人の海外公式代表者、1万2千人の専門家が参加した。特に多かったのはオランダ、ドイツ、チェコ、フィリピン、リトアニア、ポーランドからの軍需産業関係者だった。
今年3月には同市で、サイバー攻撃対策の大規模見本市である「サイバーテック」が開かれた。イスラエルの軍需企業や新ハイテク企業150社が出展し、50カ国から8千人以上の企業関係者が参加した。日本からは10社が訪れ、ドコモや日立はスポンサーになっている。
イスラエルでは、民生用品の新開発のみならず、軍事用ハイテクの研究開発に力が入れられている。公式発表によると、250以上のサイバーセキュリティ関連企業があり、半数がここ5年内に設立された新企業である。
昨年のサイバーセキュリティ関連製品・サービス等の輸出総額は、30億ドルに上る。日本は近年イスラエルとのハイテク共同事業に力を入れはじめ、ソニー、日立、東芝は研究開発センターを置くようにさえなっている。イスラエルとビジネスを行なっている会社は、他に安川電機、ニコン、シャープ、東洋紡、NEC、パナソニック、その他多数である。
2014年、ガザで一般市民を含む2千2百人が殺された悲劇から、7月で1年が経過した。イスラエル軍は、50日間にわたる攻撃でガザに2万トンの爆弾を投下し、陸上侵攻した。同時に、ヨルダン川西岸地区や東エルサレムで卑劣な攻撃を連日行った。
当時ガザでの悲惨な映像がテレビで流れ、パレスチナ民間人を殺傷するイスラエル軍の非情さに、非難の声が世界中で高まった時、ヨーロッパ諸国ではイスラエルへ武器輸出していた各社に輸出制限をする国もあらわれた。イスラエルが停戦に応じた理由の一つは、こうした輸出制限による武器供給危機だった。悲しいかな、日本は輸出取引制限など考えもしなかったようだ。
ガザ空爆で、F16型戦闘機から爆弾が投下された後の瓦礫から、爆弾の残骸に固定されていた日本製ソニーのハイテクカメラが発見された。
私自身はそのことをガザ地区での2カ月間の取材を終えて日本へ戻るためにエルサレムを経由したジャーナリストの古居みずえさんから聞いたが、同時期にガザで取材中の土井敏邦氏は、自身のブログでそのカメラを直接見て写真もアップした。
東京新聞はこの件を取り上げ、イスラエルボイコットを訴えるグループはソニーに公開質問状を送ったが、回答なしであった。
また、海外でもイランのテレビニュースで報道され、ユーチューブでもアップされた。
そのソニー製カメラは、爆弾投下対象を上空から鮮明にとらえることのできる、精密な機能をもつものだった。キャスターはそのカメラをつまんで、こう言った。
「イスラエルは、一般市民が集団で避難している国連学校・病院・民家に爆弾を投下し虐殺しておきながら、『上空からは民間人だと識別することは不可能』と言いわけをしているが、それが見え透いた嘘だと、このハイテクカメラが証明している」
このガザ虐殺に、イスラエルの左派の人々も沈黙はしなかった。数カ月前、イスラエル軍元兵士の団体「沈黙を破る」が、当時ガザ攻撃に招集された予備役兵たちによる告白を収録し、ネットやブックレットで公開し、海外でも講演会や集会を開いた。「国の恥を知らせるために外国にまで出かけていくとはけしからん」と、国内でバッシングを受けたが、彼等はこう反論した。
「自分の国が愛しいからこそ、告白するのだ。軍が行っていることに罪の意識を持つからこそ。自分の国がもっとましな国になることを望んでいるから、告白する。私たちは、罪のないパレスチナ人を殺害することを望んでいない」。
「民間人でもどんどん殺せ」と命令を受けていた元兵士たちの数々の告白は、国際裁判で裁かれようとしているイスラエル軍の戦争犯罪を裏付けている。
そして、爆弾投下対象を鮮明な映像で確認できるハイテクカメラをイスラエルに売っていた日本企業が共犯でない、と誰が言えよう。
自国企業にイスラエルへの売却を許していた日本政府も、責任が問われるべきである。
参 考
https://www.youtube.com/watch?v=2DBtj-zM-8s
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