2015/7/30更新
6月18日『カウンターパンチ』
ハーベイ・ワッサーマン(米国人ジャーナリスト、反核活動家)
(翻訳・脇浜義明)
福島原発事故から約39カ月。原発近隣の子どもたちの間で甲状腺がん発生率が、正常時の40倍以上に上昇している。37万5千人の青少年(うち幼児は20万人)を福島医大が健康調査した結果、48%以上が前甲状腺がん症状であることが分かった。
原子力産業とその取り巻き連中はこうした事実を否定し続けている。中には、放射能漏れで、「誰一人」被害を受けていないと言う人もいる。
原子力がそういう症状を引き起こす可能性は、ずっと前にカナダ核安全委員会が指摘していた。同委員会は、原子炉事故には必ず「子どもの甲状腺がんの発症率上昇の危険が伴う」と警告した。カナダの原発建設に関して、「12q離れたところで疾患率が0・3%増加」をあげたが、それは、緊急避難が完全に行われ、放射能から人体を保護するといわれるカリウム・ヨウ素化合剤を住民に配布するという対策が取られた場合の疾患率である。しかし、スリーマイルでも、チェルノブイリでも、フクシマでも、そういう対策は取られなかった。
放射能・公共衛生プロジェクトのジョセフ・マンガーノ委員長は、80年代から、放射能研究者アーネスト・スターングラス博士と統計学者ジェイ・グールドといっしょに、原発からの放射能被害について研究をしてきた。そこで彼らは、原発の風下住民の健康は原子炉が停止している間は良好で、再稼働すると悪化することを確認した。
福島第1原発の吉田所長は、58才で食道がんで死亡した。彼は被災現場で勇敢に作業を続け、恐らく数万人の命を救っただろうが、自らは死んだ。放射能汚染の犠牲者は吉田所長だけでなく、下請けの臨時労働者もそうで、彼らは申し訳程度の被曝量検査しか受けなかった。倒れれば、そのままお払い箱である。
スリーマイル島事故の際、会社は「原子炉溶解はない」と発表した。しかしロボットを投入して調べたところ、炉心溶解が確認された。ペンシルヴァニア州は、新たに腫瘍疾患で治療を受けた人数を発表させず、死亡や病気の原因だという「証拠はない」と言った。しかし、民間による自主調査の結果、幼児死亡率の上昇とがん患者の増加が確認された。
原発風下住民2400人が集団訴訟を起こしたが、連邦裁判所は、「人間に危害を及ぼすほどの放射能漏れはない」として、棄却した。事故から35年経つが、どれだけの放射能が漏れ、何処へ行ったかは、不明のままである。
チェルノブイリ事故に関する数多くの調査・研究があり、それによると、死亡者数は推定百万人を超える。風下のベラルーシやウクライナの子どもたちが主な被害者だ。マンガーノによると、事故後に風下地域で生まれた「チェルノブイリの子どもたち」の約80%が、生まれながらの障がい、甲状腺がん、長期にわたる心臓、呼吸器、精神疾患で苦しんでいる。風下地域で健常児は4人に1人しかいない。
これと同じことが福島付近でも起きるだろうと、「社会的責任のための医師団」(PSR)と「核戦争防止のための国際的医師団」のドイツ支部が警告している。
最近、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が、原発事故の人体への影響を過小評価するレポートを出した。国際原子力機関(IAEA)と連動したのだ。IAEAは、長い間原発の健康被害に関する国連の発見を発表することを抑え、UNSCEARとWHOは原子力産業がばらまく放射能汚染を数十年間隠してきた。フクシマに関しても例外ではない。
国際機関のそういう欺瞞に対し、「社会的責任のための医師団」と「核戦争防止のための医師団」ドイツ支部は、10項目批判を発表。国連の原子力産業への追従を批判した。
両医師団は、形式だけの生産物、現場労働者や風下住民に対する被曝量検査は信用できず、放射能の胎児への影響をもっと真剣に考えるべきだ、と指摘している。
また、UNSCEARのバックグラウンド被曝調査も人を誤らせるものと批判。遺伝子被曝やがん以外の病気についても調査せよと警告。「被曝住民や労働者に目立った放射能関連の影響は識別されない」という国連機関の発表は無茶苦茶だ、と批判した。
行方が分からない核燃料棒がある福島原発の3つの炉心から、放射能が今なおどんどんと太平洋に流れ込んでいる。宙づりになったプール内の使用済み燃料棒や、敷地内にある使用済み燃料棒も危険に満ちている。にもかかわらず、安倍首相は、福島以外の48原発を再稼働させようとしている。その上、避難家族を放射能汚染の家や村に帰らせようと圧力をかけている。
しかし、国連や安倍政権のような事実隠し政策が犠牲 ―とりわけ子どもの犠牲を増加させることは明らかだ。事実隠しは米国でも同じで、フクシマ報道が少ないのは、米原子力産業保護のためであろう。
米国や日本など、世界の商業原子力発電は時を刻む時限爆弾だ。種としての我々の生存、およびグローバル環境の擁護のために、この危険を即刻取り除くべきだ。
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