2015/7/30更新
浅野 健一
ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授〔京都地裁で地位確認係争中〕
「○○が明日決まる見込み」「○○が今日決まる」「○○が決まった」。記者クラブメディアの政治報道はいつもこうだ。特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認の閣議決定、日米新ガイドライン(安保条約の改悪)でもそうだった。戦後日本の最悪の違憲法案である平和安全関連法案(侵略戦争法案)の衆議院通過でも、政権側の広報役としての「ニュースの運び屋」(news porter)ぶりは変わらなかった。
ジャーナリストは、あらゆる情報をニュースにするときには、権力に懐疑的姿勢を持って、情報の中身、出てきた経緯を、歴史観を持って深く考察・詮索して伝える「ニュース吟味者」(news reporter)でなければならない。報道記者の英訳であるreporterという用語に「re」が入っているのは、そういう意味だ。政権の言いたいことをそのまま伝えるNHKを筆頭とする記者クラブメディアの社畜記者は、国際基準のジャーナリストとしては失格なのだ。
NHKは7月15日の特別委員会で強行採決され、16日に衆議院本会議を通過し、参議院に送られた時も、政治部記者とアナウンサーが、参院の議決がなくても衆議院で三分の二以上の賛成で再可決すれば成立する「60日ルール」を紹介し、「今国会で法案が成立する公算が大きくなった」と繰り返し伝えた。民放に出演する田崎史郎・時事通信特別論説委員(安倍首相の鮨友・御用記者)らが、法案成立を前提に議論している。東京新聞を除く主要新聞各紙も法案成立は間違いない、と報じた。
日本の人民の反対の声が大きくなった場合、官邸・政権党が次の選挙を考え、法案を撤回する可能性は十分ある。報道各社の世論調査でも、反対の声が過半数で、政府の説明が不十分という意見は多数を占める。17〜18日に行われた世論調査でも、内閣支持率で「不支持」が「支持」を初めて上回った。
NHKは「有権者が法案に反対する運動を展開しなければ、今国会で法案が成立する公算が大きくなった」と報じるべきだった。
選挙民は数年に一度の選挙で、政権党に白紙委任状を渡したわけではない。特に、自公が勝った昨年末の選挙では、消費税、経済が争点になっており、安保問題はほとんど論議されていない。そもそも有権者の半分が棄権し、自民党へ投票したのは全有権者の6人に1人に過ぎない。新国立競技場建設では、安倍首相が国民の声に耳を傾けたとして17日、白紙撤回した。
NHKが戦争法案の衆院特別委をほとんど中継放送しなかったことも忘れてはならない。日本の立憲主義を蹂躙し、日本国憲法の非戦・平和主義を根底から覆す民主主義の存立危機であるにもかかわらず、特別委のことを3〜4番目のニュースにすることも多かった。閣僚の迷走ぶりが伝わると困るからだろう。強行採決があった15日の特別委の中継も放棄した。16日の本会議は当初、中継の予定がなかったが、多数の視聴者からの抗議で、正午前に急きょ、中継を決めた。NHK広報部は、私の取材に「15日は各会派が質疑に応じることが決まったのが委員会直前の理事会で、準備が間に合わなかった」と回答した。
特別委で民主、共産両党の議員が激しく抵抗した時、自公の議員たちは、起立の合図を送る中堅議員に促されて立ち上がった。無表情で、哀れなロボット、歯車だ。この法案を国民のためにどうしても成立させたいという熱意は全く感じられない。中谷元防衛相と横畠裕介内閣法制局長官ががっちり握手していた。
本会議での公明党議員の賛成演説は「日本が平和を維持できたのは、憲法のおかげではない。自衛隊のカンボジア派遣以降、国際社会で受け入れられたためだ。自衛隊が世界の平和の実現に貢献する法案だ」という内容だった。カンボジアで自衛隊が道路や学校を作ったのは事実だが、いま、現地には何も残っていない。途上国でインフラを整備するのは外務省所管のJICAや政府開発援助(ODA)で民間企業が担当できる。自衛隊派遣は、日本にあった自衛隊海外派兵に反対する声を消すためにだけに貢献した。その後、反動勢力は派兵基準を徐々に緩和して、2004年にはイラク戦争に派兵した。自衛隊が日本や世界で評価されるとすれば、自然災害などの緊急救助の能力だと思う。
私は公明党に抗議しようと14日から16日まで東京の公明党本部代表電話に電話したが、話し中で全くつながらない。千葉県本部に電話したのだが、対応した男性は「対案を示せ」「どこが違憲か言え」と私に迫った。市民の声を聞くという姿勢はゼロだった。公明党の支持団体である創価学会の初代会長は、治安維持法下で獄死している。公明党と支持団体の創価学会は、万死に値する罪を重ねている。
安倍首相は7月15日夜、東京・赤坂のそば店「三平」で、老川祥一読売新聞グループ本社取締役最高顧問(元東京本社社長)らと約2時間食事をしている。強行採決の直後に安倍首相とトップが会食する新聞社は解散した方がいい。
朝日新聞の立松朗政治部長は、特別委採決に関し、中国の台頭を念頭に、「日本を取り巻く国際情勢が変わる中で、民主党、維新の党とも合意できる法改正を」と提言した。日米同盟を前提にした議論だ。
一方、日中首脳会談を模索する谷内正太郎国家安全保障局長は16日、中国の楊潔・国務委員(外交担当)と北京で会談し、同法案について「特定の国を対象にするものではなく、日本の平和国家の歩みには変化がない」など説明した。
日帝の無条件降伏から70年。世界の人民と連帯し、中国と朝鮮半島の「脅威」を煽って軍国主義を進める安倍政権を打倒する時だ。(次号に続く)
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