2015/7/24更新
7月3日Zcomm.org ダニカ・ジョーダン(米国人作家、翻訳家)
翻訳・脇浜
義明
世界の目はギリシャ債務問題に向けられているが、緊縮財政や公務員解雇などをやってきた米国領プエルトリコも破綻寸前だ。しかも、ギリシャのように主権国家でなく、破産申請したデトロイト市のように米国の自治体でもないプエルトリコは、脱出の道がなく窮乏している。大国の金融資本が周辺部を借金地獄に落とし込むもう一つの例だ。日本では報道されないので、訳出する。(編集部)
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2015年6月22日、キューバは国連事務局に、プエルトリコの植民地状態を終わらせるように要請した。その1週間後、プエルトリコ自治連邦区知事=ガルシア・パディジャは、「730億ドルの負債を支払うことができない」と宣言した。プエルトリコは米国の州ではないので、デトロイト市のように破産を申請できない。また、ギリシャのように主権国家でないので、外国に援助を求めることもできない。
国連総会が植民地独立付与宣言(決議1514号)を採択して55年になるのに、プエルトリコはいまだに米国の支配下にある。プエルトリコ人は米国に税金を納めているが、大統領選挙への投票権はなく、下院にオブザーバー参加できるだけである。
20世紀を前後して、プエルトリコ解放の試みはあった。1900年、サトウキビ産業の帝国主義的再編によって、米本土から島へ商品を輸送する米国商船が法外な輸送料金を課す当時の法律が、今も適用されている。キューバは傀儡政権ながら一応独立国となったのに対し、プエルトリコは曖昧な独立に関する住民投票で、プエルトリコ民政府が成立(1900年)したが、統治者を米大統領が任命する直轄領となった。
リオ・ピエドラス&ポンセの平和的デモの虐殺事件(1935年、独立を主張する国民党支持の学生デモに対し、警察が発砲。国民党は、米国支配下では選挙には関わらないと宣言した)、住民を優生学的ながん発生実験に使った事件、無理矢理住民、特に女性を薬品テストに使った事件、発がん性物質をまき散らす爆弾演習等々、米国はプエルトリコを好き放題にしてきた。また、1970年代まで大規模な不妊化作戦が行われた。産科病院は、出産後不妊手術に同意しない妊婦を受け付けなかった。
プエルトリコ人弁護士ペドロ・アルビス・カンポスは、「扇動陰謀罪」で26年間獄中生活を送った。死の直前に赦免されたが、獄中では放射能の実験台にされた。オスカル・ロペス・リベラも「扇動陰謀罪」で服役中だが、彼は一切暴力をふるっていないのに、凶悪犯用刑務所で34年間も過ごしている。
ガルシア知事は6月29日のテレビで、ギリシャと同じように、支払い延長を債権団に求めたが、デトロイトと同じように、「破産申請」という救済法の適用はないし、ギリシャのように主権国家として交渉することもできない。
2014年夏、プエルトリコ電気局のような公益企業の稼働を確保するために、「公社債務執行・回復法」を成立させた。電気局は、90億ドルの負債を抱えている。オッペンハイマーやフランクリンなどの主要ファンドはこの地方法に反発し、同法は翌年2月に廃止になった。プエルトリコ電気局は、官庁やホテルなど島の巨大施設の電気料金を免除し、その分を一般住民の電気料金値上げで相殺している。だから住民は、世界一高い電気料金を支払っている。
プエルトリコ人は米国の最貧州の住民所得の半分にもならない低所得層なので、連邦所得税の対象とならないが、自治領政府の所得税と、米国への社会保障保険費を支払っている。にもかかわらず、プエルトリコ人老齢者・視覚障がい者・身体障がい者には、生活保護の受給資格はない。
メディケード(医療費補助制度)に関する連邦政府の財政支援は、他州の15%以下。失業率は12%で、米国の各州平均の2倍以上。したがって、米連邦政府への所得税がないことは、プエルトリコの一部の金持ちに有利になっているだけである。
プエルトリコ債を購入したヘッジファンドは、長年にわたって高い利回りを得、その利益は免税なのである。ガルシア知事は、住民に重荷の共有を訴え、さらなる教育費や社会サービスのカットを打ち出したが、6月30日、公式声明を出し、「住民が巨大債務への責任を負担しているのだから、債権団も相応の責任を負うべきだ」と言った。
自治政府は、5月に消費税を11・5%に値上げし、公共部門の労働者1万2500人を解雇。事業を12%も縮小した。同じように債権団であるヘッジファンドも痛みを分かち合うだろうか?いずれにせよ彼らは、値崩れを起こした段階でプエルトリコ地方債を買ったので、何が何でも利益を得るのを待っている。
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