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2015/7/24更新

共和党「独裁政治」から2年
教育劣化するノースキャロライナ州(前編)

植田 恵子(ノースキャロライナ州立大学教員)

「多様な教育機会の保障」という大義名分で教育の民営化が進めば、どのような結果を招くのか?アメリカ・ノースカロライナ州からレポートが届いた。教育予算が削られ、教師の労働条件が低下。優秀なベテラン教師が辞職したり他州へ流出して、深刻な教育劣化がおきている。(編集部)

※ ※ ※

2012年の秋、オバマ大統領再選にほっと一息ついたのだが、米国全体を眺めると、この年は二極化が進み、共和党地盤の州と民主党地盤の州がはっきり分かれた年でもあった。

ノースキャロライナ州では20年ぶりに共和党知事が誕生、州議会も上下両院で共和党が圧勝して与党となり、1870年以来初めての一党独裁体制が生まれた。翌2013年3月、富裕層への減税、一般州民への増税という税制改悪、それに伴う州税減収を公共教育(幼稚園から大学まで)の大幅な予算削減で補う予算案が発表され、深刻なダメージを受けるだろうと予想された。(2013年3月本紙記事参照)

あれから2年が過ぎ、その危惧は予想を超えた現実となった。前篇では、共和党の教育予算削減政策がいかに教師の州外流出を招き、公共教育を荒廃させていったかを検証し、後編では、共和党議会の対応策と教育改革の意図について探る。

教師の待遇問題

「46位」−これはノースキャロライナ州の教師の年間給与の全米でのランクである。初任給3万800ドル(1ドル=100円、308万円)。手取りだと、2万ドル(注1)余りだ。

ノースキャロライナ州での給与体系は、15年勤続で4万ドル、32年勤続で5万2千ドルである。もちろんボーナスはない。高卒の州公務員の給与が3万から3万8千ドルという現実を考えると、教職が米国でいかに地位の低い、尊敬の得られない職種であるか、が推測できるだろう。

ところが、2013年の予算案で、共和党は昇給どころか、能力の低い教師の解雇を大義名分に、終身雇用制の廃止(注2)、契約社員化と能力昇給制度を盛り込んだ法案を可決させた。

終身雇用から契約制へ―競争原理の導入―

この法律では、教師は終身雇用資格を失い、1年、2年、あるいは4年の契約となる。まるで派遣社員である。最も長い4年契約と5千ドルの賞与を手に入れるには、2つの条件をクリアしなければならない。同じ学区で3年勤続であることと、教師査定で上位25%に選ばれることである。

この法案可決の報道に、教育現場では教師たちの、将来に対する不安、怒り、疑問の声が上がった。誰が上位25%となって、4年契約と賞与を射止めるか?上位25%を決める査定の尺度は何か?誰が査定権限を持つのか?校長や教育委員会が査定するならば、教師は言論の自由を奪われるのではないか?教科の違いや学校格差をどう平等に評価しうるのか?

教師同士が教育現場で競争相手となれば、教案や教授法、情報の交換は起こらなくなり、お互いに悩みを相談できる教師もいなくなる。ベテラン教師が新米教師を指導することもなくなるだろう。校長と4年契約を手にした教師をトップに、校内ヒエラルキーが教育現場を分断し得る。その分断をさらに助長するのが、教科間の繋がりを割く州知事のSTEM(注3)を担当する教師への特別賞与の提案である。

ビジネスに直結する教科には金を出し、食えない人文系は無視する。このような序列や差別的な空気が充満すれば、共同作業の場であるべき学校はぎすぎすし、社会や保護者の、学校や教師への信頼は揺らぐに違いない。

そんな教育現場での一番の犠牲者は、子どもである。多くの校長たちは、口をそろえて言う。「教育の質を上げることが本来の目的であるならば、不得手な教師たちを首にすることは、決して学校や教師の質の向上にはつながらない。むしろ彼らを受け入れ、学内で助け合う協力体制こそが望ましい教師育成の鍵であり、真の教育だ」。

安月給の1年契約で、翌年の、将来の継続的な経済的安定が保証されない時、教師は生徒たちの教育に情熱を傾けることができるだろうか?

生徒1人当たりの教育予算の削減

2010年までは民主党主導の州議会の下で、生徒1人当たりの教育予算割り当ては上がり続け、2010年は10015ドルで、ピークを迎えた。

しかし、2010年の中間選挙後、議会は共和党支配となり、教育予算は下降線を辿り始める。2011年には8312ドル(全米44位)(注4)、2012年には7235ドル、2014年には5716ドル(全米48位)まで下った。

このような教育費削減や教育政策のせいで、現場では教科書や教材の不足、補助教員7000人の人減らし、教師の研修費削減、1クラスの生徒数増加など、荒廃が進んだ。

まず教科書なのだが、2008〜09年は、生徒1人当たり68ドルの教科書費が組み込まれていた。しかし、2014〜15年には、わずか15ドル(78%減)まで下った。財源節約のために、2017年までに教科書をデジタル化することが決められ、紙の教科書が予算から削られてしまったことが要因だ。

しかし、現実にはデジタル化は使用権など教科書以上に費用が嵩むし、コンピューターが普及していない、財源の乏しい学校では、デジタル化は非現実だ。そして、15ドルの予算では教科書は買えない。米国では基本的に教科書は生徒への貸与なのだが、多くの学校がこの10年、同じ教科書を使い回すか、教科書なしで、授業を行なっている。

2番目に、最低必要な鉛筆などの文房具や紙が、予算がないために購入できない。地域によっては、机さえ買えない学校もある。教師は自腹で文具や教材を購入し、買えない生徒への鉛筆やノートの配布を続けながら、授業を進めてきたのだが、ないないづくしの教育現場で、その努力も最早限界だ。

教師の州外流出と給与の引き上げ

教師の給与が全米で46位から48位にまで下る頃、教師たちは次々と職場を離れ、テキサスやフロリダなど給与の高い州に移住し始めた。州の平均離職率は14%、過疎地域では30〜40%に上った。終身雇用の身分を持つベテラン教師たちも、過去7年にわたる給与の据え置き、2017年から始まる終身雇用の廃止を理由に、辞めていった。ベテラン教師の離職率は、2008〜09年で35・5%、2010年には49%に上った。

2014年、教師の大量流出の窮余の策として、議会は給与引き上げを行なった。新米教師の初任給を3万ドルから3万3千ドルに、2015年度は3万5千ドルに引き上げると決定した。「48位は42

位となったが、それは教師や家族の生活を保障しうる金額とは言えない」と州教師連盟は釘を刺す。

しかも、昇給の恩恵に与ったのは新米教師だけで、修士や全米教職資格を持つ優秀な教師やベテラン教師は、経験と能力に相応する待遇は与えられず、昇給は1・2%に留まった。勤続14年の教師の昇給は272ドル、月額22ドルである。修士を持つ勤続30年のベテラン教師の場合、昇給額は666ドル、月額で50ドルであり、教師の他州への流出を止める手立てとはならなかった。

これから教え手がいなくなる!

ベテラン教師の流出が目立つ中、明らかに教師志望者の数は減りつつある。その理由の一つは理不尽な奨学金制度廃止であり、投資に対する見返りの少なさであろう。

これは1986年に始まった教職志望の優秀な学生への教師養成奨学金制度で、卒業後ノースキャロライナで4年間教えれば、2万〜2万6千ドルの学費免除が受けられる。過去30年間に8500人の卒業生が教師となり、80%が4年後も教壇に立ち続け、6年後も2/3が教職にある。

だが、2011年に共和党議会はこの優秀な教師を輩出する奨学金制度の廃止を決め、2015年5月、2000人の志願者の中から選ばれた最後の奨学生500人の卒業をもって、この奨学金制度は終わりを告げた。この教師不足の折、なぜこんな素晴らしい制度を潰してしまうのか、甚だ疑問だ。

教師志望者の減少

過去4年間、州立大学での教師志望者数は大幅に減った。2013〜2014年を見ると、大学(注5)によって差はあるが、7〜65%減っている。特に減少傾向にあるのが、黒人系の州立大学だ。低所得家庭出身者が多い上、学費の高騰で学生ローンが圧しかかる(注6)。奨学金制度の廃止となれば、将来性のない薄給の教職を選ぶ学生が減るのは自明のことだ。

一方、ノースキャロライナ州は順調な景気回復に支えられ、州外から都市部への人口流入が続き、多彩な背景を持つ児童の数がますます増えている。教師志望者の減少、とりわけ黒人をはじめマイノリティの教師が育たなくなれば、学校は多様性を持つ子どもたちへの対応ができなくなることが現場では懸念されている。このような理由で、5年後には深刻な教師不足が起こるだろうというのが大方の見方だ。

@…比較−生活保護受給資格は4人家族の世帯収入23850ドル。給与比較−2012〜13年の初任給ワイオミング43269ドル、ニュージャージー48631ドル、ワシントンDC 51539ドル

A…終身雇用制の下では教師は身分を保証され、理由なく解雇できない。

B…science, technology, engineering, math: 科学、テクノロジー、工学、数学。

C…1位ニューヨーク州19076ドル。

D…ノースキャロライナの場合、州立大学が16校ある。

E…米国の2014年卒業生の平均学生ローン額は26600ドル。

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