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2015/7/24更新

下村文科相が主導する「多様な教育機会確保法案」
フリースクール公認自主夜間中学支援
公教育民営化への一里塚?!

義務教育の場をフリースクールなどにも広げ、さらに夜間中学校など「義務教育の年齢を超えた人の学ぶ機会の充実も盛り込む」とされる「多様な教育機会確保法(仮称)」案が、7月中の国会提出を目指して動きだしている。

ところが、これに異を唱える緊急集会が行われるというので、取材に出かけた。呼びかけたのは、フリースクール=NPO法人フォロ(大阪市北区)。推進派・中間派も含めてフリースクール関係者・当事者など約30名が集まり、熟議が展開された。

不登校や引きこもりの児童・生徒と付き合ってきた長い経験に基づいた意見は、法案への賛否を超えて、いずれも説得力があった。参加者の共通認識は、「誰もが安心して行ける学校」が原則であり、問題や困難を抱えた生徒・児童を義務学校から排除する「学校のスリム化」のための法案であってはならない、との思いだ。

点数で序列化される学校に馴染めない不登校児・生徒(12万人)に加えて、貧困ゆえに学校に行けない子どもも増えている。学校からはじかれた子どもの受け皿を作ることは前進であったとしても、制度化されることで安易な切り捨てにつながりかねない。

3時間にわたる議論で見えてきたのは、下村文科相が主導する同法案は、教育民営化の突破口であり、フリースクールや夜間中学への支援拡充は、規制緩和の口実に過ぎないのではないか、という懸念だった。同法案は、義務教育全体を変えてしまいかねない中身を含んでいる。(編集部・山田)

フリースクールの制度化

同法案は、不登校などで保護者と子どもが学校以外で学ぶことを希望する場合、それを制度として認めている。具体的には、不登校などで学校以外で学ぶ場合は、家庭で「個別学習計画」をつくり、市町村の教育委員会に申請。教委に設けられた「教育支援委員会」に認定されると、教委職員やスクールソーシャルワーカーらの訪問による助言が受けられる。計画通りに学べば、義務教育を修了したと認められる仕組みだ。家庭への経済的支援(教育バウチャーを想定)も見込んでいる。

これらの内容は、フリースクールや自主夜間中学が主張してきた内容を盛り込んでいると評価されている。フリースクールは、不登校の子どもなどの学校外の居場所。全国に4〜500団体あり、80年代に誕生したが、いまだ公的な位置づけも補助もない。

集会でも「フリースクールの認知度を上げたい」「日陰的存在だったフリースクールを制度化することで、子どもの自尊心につながる」との声があがった。

フリースクールと教育民営化の奇妙な親和性

では、何が問題なのか?まず、同法案が、塾業界からの違法献金が指摘されている文科相の下で唐突にできてきたことだ。下村氏自身が学習塾経営者出身。東京都議を経て国会議員になった政治家だ。今年3月には、学習塾・予備校など教育関連企業から多額の政治献金を受け取っていたことが暴露されている。

経過

 7月教育再生実行会議-第5次提言で「フリースクールを支援する」

 9月安倍首相がフリースクール「東京シューレ」を視察

10月下村文科相。川崎市にある「フリースペースえん」を訪問

11月フリースクール全国フォーラム(主催・文科省)開催

2015年

 1月フリースクール検討会議発足

 6月中間答申発表

下村氏は、第2次安倍内閣で文科相になると、いったんは頓挫した教育への株式会社参入を復活させて、公設民営学校の検討を再開させた。アベノミクス「第3の矢」である規制緩和策に「学校の公設民営」を盛り込ませ、塾業界に対しては「教育の規制緩和で、ビジネスチャンスを」と公言してきた政治屋だ。

大臣の思い描く「究極の教育改革」とは、既存の公立小中学校を民間委託し、最終的に独立行政法人化(民営化)することだ。記者会見(14年11月25日)でも、フリースクール支援策について「バウチャー制度も検討をする」と語っている。

「いよいよ教育も市場の中に投げ出される、その門が開かれるのかと思いました。政府が狙っていたその時が、不登校を切り口にして始められようとしている」(松江不登校を考える会・吾郷一二実)―この集会に寄せられたメッセージだ。

安倍首相も、盟友である下村氏の後押しを惜しまない。14年9月、安倍首相はフリースクール「東京シューレ」を視察。「フリースクール支援は安倍政権の教育施策の重要事項」と記者団に語っている。

安倍首相の諮問機関「教育再生実行会議」の第5次提言(14年5月)では、フリースクールやインターナショナルスクールの在り方や制度的な位置づけについて議論を進めることが提言され、来年度の概算要求には「フリースクール等支援策」が計上された。

同年9月には、文科省内にフリースクールプロジェクトチームが発足(担当官:亀田徹)、10月からは有識者会議が発足している。こうしてみると同法案は、安倍首相が「最重要課題の一つ」と位置付けている教育改革の一環としてあることは、疑う余地がない。

親学推進議連

集会を呼びかけたNPO法人フォロの山下耕平さんの懸念は、これだけではない。フリースクール議連の中心メンバーは、親学推進議連の中心メンバーと重なっている、という。「親学」とは、母性や父性を強調し、伝統的子育てを推進するもので、2012年には、大阪市で親学をベースにした「伝統的子育てで発達障害を予防する」という条例案が持ち上がり、発達障害に関わる当事者や学会から抗議が殺到し、撤回するという醜態を演じた。

親学推進議連は、会長=安倍晋三、会長代行=高木義明、副会長=河村健夫・小坂憲次、事務局長=下村博文の面々だ。安倍晋三をのぞき、全員がフリースクール議連にも属しており、フリースクール議連の会長は河村健夫、会長代行が高木義明だ。

これらの議員が主導して、超党派の議員連盟の総会(5月27日)を開いて法案概要を了承し、6月中に条文としてまとめることを決めた。今国会での成立と、2017年4月の施行を目指している。

歓迎するFS関係者

同法案に対し「NPO法人フリースクール全国ネットワーク」や「多様な学び保障法を実現する会」は、次のような評価をしている。「法案が実現すれば、不登校の子どもはもちろん、学校が合わないけど無理をして通っている子ども、外国籍で日本の学校に通っていない子ども、その他さまざまな理由から学校外の場を選んだり、学齢期に学校に通えなかった人など、多くの人が安心してのびのびと学び、誇りを持って社会へと羽ばたいていける世の中が実現するでしょう」―双手を挙げての推進の立場だ。

しかし緊急集会では、「居場所としてのフリースクールが淘汰されるのではないか?」との懸念が繰り返し表明された。「フリースクールが制度化されて、何歳までにこれこれができること」という基準が持ち込まれたのでは、フリースクールの学校化にほかならない」(元不登校当事者)との意見もでた。

いっぽう、下村文科大臣のまなざしは次のようなものだ。「不登校の子どものなかには、アインシュタインやエジソンのような逸材が眠っているかもしれず、そうした『ダイヤモンドの原石』を磨く機会をつくり出していく」。要するに、グローバルに活躍できる人材を発掘し、育て上げるエリート教育だ。「居場所」としてのフリースクールを求める当事者や保護者の思いと下村氏のねらいは、大きくかけ離れている。

塾産業への市場開放

下村氏の狙いは、塾産業への教育市場の開放であり、安倍首相の狙いは、伝統的子育ての復活とグローバル人材の育成である。学校に通えない不登校児の居場所としてのフリースクールを本気で支援する気などなかろうし、「当て馬にされるだけ」(山下さん)との指摘は重い。

集会でも、「同法案は理念法なので、中教審で具体的内容が決められる。その段階で、フリースクールへの支援などは、換骨奪胎される。予算も出ないだろう」との指摘も出た。

安上がりの教育格差の教育

あらゆる場で進む規制緩和によって、不平等が拡大し、貧困の連鎖も強化されている。家庭の事情や経済的理由で学校に通えず、長男(女)が弟や妹の面倒を見ている家庭や、養育放棄で家に閉じこめられている子どもも増えているという。「長期欠席の中身が変化している」との声も聞かれた。

貧困の連鎖は、教育現場で進む社会の劣化だ。貧困家庭の子が教育を受けられないがゆえに、不安定就労に留まり貧困化する。

「無償で教育が受けられる状況をもっともっと拡大していかなくてはならないのに、(法案は)それに逆行しています。大学卒業と同時に500万の奨学金を返済しなければならない子がいます。ひとり親家庭で、お母さんはトリプルワークをしている状況です(青島美千代(フリースペースたんぽぽ)」―集会には、こんなメッセージが寄せられている。

世界的に教育の民営化が進んでいる。ピアソンPLC(注)は、ロンドンに本部を置く世界最大規模の教育サービス会社だ。英国では、10年間で6割の公立学校が民営化されたという。教育バウチャーを使っている国では、学力テストで成績のいいところに生徒も金も動いていく。バウチャーがなくなったために途中で教育を受けられなくなった子どももいるという。

今日本に必要なことは、教育に加えて福祉的観点で子どもや家庭に関わるような人材とシステムの拡充であり、「選択肢を増やす」とのスローガンと裏腹にある「自己責任」の強調による競争的価値付けと切り捨てではない。同法案は、後者が横行する法律になる可能性を否定できない。

[注]

ピアソンPLC…ロンドンに本部を置く世界最大規模の教育サービス会社。最新のテクノロジーを駆使したデジタル英語教材、eラーニング教材、電子辞書、オンラインアセスメントなどの分野や、カリキュラム開発、人材育成、資格認定事業にも取り組む。グループ傘下には、イギリスの経済紙フィナンシャルタイムズなども有する。

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