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2015/7/10更新

今ギリシャでは

ギリシャの国民投票―金融テクノクラート独裁からの解放
銀行債権団の横暴に「ノー」を

6月30日『Zcomm.org』
ジェローム・ルース(欧州大学院国際政治・社会学博士課程研究生)

6月26日、ツィプラス首相は、EUの「救援案」(条件として過度な緊縮財政を押しつける案)を国民投票―しかも国民に拒否せよとツィッターでつぶやきながら―にかけると言って、敵と味方の両方を驚かせた。

ATMの預金引き出しの長い列(政府命令で銀行が一時閉鎖されたので、国民はATMで生活費を引き出している)、EUの救援措置延長拒否、欧州中央銀行のギリシャ銀行への緊急流動性支援制限、ギリシャ政府が6月30日期限のIMF融資返済を行わないと言明したことで、いよいよ最終段階に突入し、ユーロ危機は頂点に達した。

「EU案を国民投票にかけるなんて無謀だ」という非難は間違っている。もっとも私も、ツィプラスとバルファキスの、「EU案拒否」の国民投票結果を債権団との交渉のカードに使って、妥協を引き出そうとする考えは甘い、と批判してきた。

債権団は民主主義を軽視し、ツィプラスと彼の党の破滅につながる最終案に署名せよ、とツィプラスを追い詰めることは明らかである。これまでの交渉でも債権団は次々と無理難題を提案、「前向きの交渉」なんか、彼らの頭にはない。彼らの妥結点は、シリザ党の完全降伏、そしてテクノクラート政権への変換である。ポール・クルーグマン(プリンストン大学経済学教授)が債権団の最後通告を「非道極まる愚行」と呼んだが、そのとおり。

EUとIMFの悪意によって窮地に追い込まれたツィプラスにとって、分別ある選択肢は一つだけであった。債権団が提示する最後通告を国民投票にかけ、国民に拒否させること。これは驚くことではない。驚くのは、それまでにかかった時間の長さだ。

5カ月間、債権団はギリシャの通貨流動性を奪い、国民生活を窒息状態に追い込んだ。ツィプラスに恥知らずな圧力をかけ続けた。自分たちは、ギリシャに微塵も譲歩しない。辛酸をなめてきたギリシャ国民が民主主義選挙で選んだ政権を軽視し、その権威を傷つけてきた。

もしもツィプラスが圧力に屈して屈辱的協定に署名したならば、彼と彼の党にとって自殺行為になったばかりでなく、ギリシャ国民に大災害をもたらしていただろう―さらに、欧州左翼勢力の政治的展望を暗くしていたであろう。もしツィプラスに無謀な点があるとすれば、債権団をここまで野放しにしてきたことだ。もっと早く「オーヒー!」(ギリシャ語で「ノー」の意味)と言うべきであった。

5年間、欧州政治家とギリシャのエリートは、ヨーロッパの諸銀行という一握りの無謀な投機屋を救済するため、国際的投資家にEUの通貨統合は不可逆であると説得するために、ギリシャとギリシャ人を、「金融市場」という祭壇の生け贄にしてきた。5年間、彼らは、決着を先延ばしにすれば、金融資本主義とEU通貨統合が内包する矛盾は消えると期待して、缶蹴り遊びをしてきたのだ。

「借金棒引き」という脱出法

ところがギリシャ危機は、そのやり方の行き詰まりを明らかにした。ギリシャ政権への悪意に満ちた対応で、ユーロ圏を瀬戸際に追い詰めたのは、債権団自身であった。もちろん彼らは、ギリシャがデフォルトになってもその死の灰を封じ込めることができると言うかもしれないが、ユーロ圏が大混乱に陥るのを見れば、投資家はそれなりの結論を引き出すだろう。すでにアジア市場ではユーロ暴落が見え始めている。

大きなアイロニー(皮肉)がある。ずっと前から、単純で社会的に受容される袋小路脱出方法があったのだ。ギリシャ負債のかなりの部分を棒引きにする方法だ(棒引きにしても、これまでの利払いで儲けているドイツやフランスの銀行には、損がない)。

しかしこの方法は、債権団には受け入れがたいものであった。昔は、負債の減額は民間大銀行の崩壊につながる、と政治家は思っていた。今は、ギリシャ負債は完全に社会化されているので、政治家たちは、予測されるギリシャ・デフォルトの被害をまともに食らうことになる納税者のユーロ懐疑心を高め、その反発を受けることを恐れているのだ。

換言すれば、@債権団の強硬姿勢、Aギリシャ援助に関する真実を納税者に言わないこと、B維持可能で社会的に公正な危機解決法を検討しようともしない債権団の姿勢、がこの状況を招いたのだ。

今やギリシャとヨーロッパは憎み合う決裂状態。来週は、欧州のネオリベラル・プロジェクトにとって決定的な瞬間として、歴史に名を残すことになる週となるだろう。すでにギリシャには暗雲が垂れ込めている。政府は、銀行の臨時閉鎖とATM引き出し額1日60ユーロ(=約8200円)制限を行った。経済と社会生活へのドミノ影響で、静かな国民投票というわけにはいかないだろう。

債権団は、国民投票を妨害する行動を取るだろう。ギリシャをユーロ圏に留めようとする努力もやめ、もっぱらシリザを勝利させないことに全力投球するだろう。シリザ勝利は欧州の反緊縮財政勢力、とりわけスペインのポデモスを元気づけることになるからだ。シリザを少し大目にみるくらいなら、ギリシャを国ごと崩壊させる方がよい、と思っているのだ。

だからこそ、EUはギリシャ救援プログラムを、例え数日間でも、延長することを拒否したのだ。そのプログラムがなければ、欧州中央銀行はギリシャの銀行へ緊急支援もできないし、緊急支援がなければ、ギリシャ銀行は週明けに開業もできないことを、彼らは知っているからだ。そういう不安定な状況で国民投票を迎えれば、野党のネオリベラル派のキャンペーンが功を奏し、うまくいけばEU最終通告案「イエス」票を産み出すかもしれない。

テクノクラート官僚は、異なる理屈を展開する。IMFのクリスティーヌ・ラガルドは、債権者側の提案の期限は6月30日で切れるのだから、ツィプラスは存在しない提案を国民投票にかけている、と言った。欧州委員会のジャン=クロード・ユンケルは新しい提案をしたが、それは提案されていたものだった。どちらもギリシャ国民を混乱させ、投票が持つ明晰性、適法性、歴史的意味を曖昧にしようとする妨害にすぎない。

7月5日の国民投票は、ギリシャの近代史、欧州のネオリベラル・プロジェクトにとって、決定的瞬間である。選択は非常にはっきりしている。トロイカ(EU、IMF、ECB)が押しつけた緊縮財政に反対して立ち上がったギリシャ人は、それから5年後に初めて自らの運命を自らで決めるチャンスを得たのだ。

ユーロ圏で緊縮財政に一生苦しめられるか、それとも債権者の非人間的要求に「ノー」と言って、民主主義的で社会的に公正で、負債とデフレ的単一通貨と訳の分からない金融テクノクラートの独裁の拘束がない、新しい欧州を創造する道を選ぶかの、重要な選択である。

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