2015/6/28更新
カタリーナ・ミュラー(留学生・活動家)
G7がドイツ・エルマウで開催された。メディアの多くは各国首脳の発言のみを報道し、抵抗運動については過激な印象のみを報道するに留まった。人々の側からみたG7を、ドイツ人留学生の友人に報告してもらった。(編集部ラボルテ)
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6月7、8日にG7サミットが開催された。開催地は南のバイエルン州の山に位置するエルマウ城だ。
G7に反対する潮流の左翼が集まり、議論を始めたが、昨年12月にデモを行う現場をどこにするかで分かれることとなった。
市民派左派はエルマウから100q離れたミュンヘン市内でのデモを決め、ラディカル左派はG7が開催される現地での行動を行うために、「ストップG7エルマウ」という運動を創設した。
運動の共通項としては@軍国主義、A自由貿易協定、B自然や人間の搾取、C市民の監視、D社会保障支出の削減、などを止めさせ、E欧州の銀行救済や、FNATOの戦争に反対して、G民主的な権利を守り、H移民と難民を支持することが確認された。
反G7行動は、3日から8日まで取り組まれた。3日と4日には、オルタナティブ・サミットが現代世界の様々な問題を議論。G7のパワーエリートによる政治を批判した。5日〜8日は、ガルミッシュ=パルテンキルヒエン村の農地でキャンプを開催した。バイエルン州政府は抗議行動を妨害するため、「洪水の危険」を理由に農地提供者に圧力を加え一旦禁止した。このため、反G7側は裁判を起こし、勝訴して予定通りキャンプが行われた。諸活動の参加者数はそれぞれ約千名だった。
当初、地元住民は反G7行動を恐れていたものの、キャンプでの反G7参加者と地元住民との友好的な交流を通して、「意義のある平和的な行動なのだ」と理解。地元住民からは飲食物や衣服などの提供も受けた。7日には6つのデモが異なる場所で開催された。既にエルマウ行きの主要道路は完全に封鎖されていたが、各方面からエルマウ城に向かい、規制線に辿り着いた。デモ隊参加者のうち約60人は進行を中止し、規制線付近の道路占拠を試みたが、警察により排除され逮捕者が続出した。7日のデモでは、ダンボールで作った戦車を燃やすパフォーマンスを行った。8日のデモには約5千名が参加。参加者はドイツ中からバスをチャーターして向かった。イタリアやオーストリア、クロアチアからの参加者もいたそうだ。デモ開始の直前には警察による妨害を受けたものの、その後はサウンドデモが平和な感じで続いた。街頭劇に興じる参加者もいた。
ところが、夕方頃に突如として、警官がペッパースプレーや催涙ガス、警棒を用いて暴行を加え始めた。逮捕者は8名、負傷者は60名に上った。さらに4名が病院へかつぎ込まれた。警察側からの一方的な暴力だったにも関わらず、マスメディアは警察発表を鵜呑みにして、反G7側の暴力のみ報道した。警察は「反G7参加者の4割が暴徒」と発表した。
ミュンヘン市のデモには3万人が参加。 警官は2万人が動員された。暴力的な規制がとても厳しかった。シェンゲン条約にも関わらず、地方や国境線でも大規模な取締が実施された。その結果、記者や招待された抗議者が何時間も引き止められた。例えば、ジョヨティ・ゴッシュ(反グローバリゼーション研究者)は約4時間待たされたそうだ。
安全地帯を囲むため2・5メートルのフェンスが7qに渡って建てられた。地元住民によると、「反G7側よりも警察による過剰統制が恐怖だ」とコメントしている。
反G7にはグリーン・ピースも参加した。8日の日の出前、「G7…100%の再生可能エネルギー/グリーンピース」というメッセージをエルマウ城に近い山の標高1000m地点にレーザーで投影した。その日はサミットで気候変動問題が議題となっており、グリーン・ピースは「G7参加国のCO2の排出が世界中の4分の1に及ぶにもかかわらず削減が進んでいないこと」も批判するための表現を行った。特にドイツでは、化石燃料ベースの発電が半分以上を占めるという現状がある。
結果的にエルマウ現地での行動は警察権力による統制・大規模動員によって困難だった。しかし、欧州各地・世界各地から集まった人々によるデモ隊は、G7に反対することを明確に示すことができただろう。
マスメディアは、今年も「自由・民主主義・人権・法の支配といった基本的価値に立脚し…グローバルな視点から対応できるのはG7である」とのメッセージを世界中に伝えた。同時に南ドイツの景色、エルマウ城、ビールなどを放映した。3・6億ユーロ(500億円)かけて開催されたサミットは、観光広告のようだ。来年のG7開催地は三重県になるという話を聞くと、同じ茶番を繰り返したいのだろう。
抗議行動の目的は、G7が世界各地の社会問題を解決できないばかりか、これまでの政治が続けば、所得格差や気候変動などの問題がさらに悪化するというメッセージを世界中の人々に伝えることだった。しかし、それは難しいことだった。抗議行動は暴力であるという言説と誤解がメディアを通して世界中に流れたからだ。結果的に、抗議行動に対する弾圧が激化し、政府首脳らの独善的な自己演出が世界に向けて行われた。
民主主義では本来、メディアが政府を批判し問題点を広め議論を深めなければならない。メディアが政府を礼賛し抗議行動を矮小化させるならば、どのように社会問題を「解決」するというのか。7名の政府首脳による密室政治がもたらすのは、世界各地の社会状況を改善するのではなく、確実に悪化させるだけだろう。
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