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2015/6/19更新

時評短評

相手に響くコトバを紡ぐ努力を怠った左翼の総括を

福島県在住/シネマブロス代表 宗形 修一

ランボオは「デモクラシイ」をこう詩う。「この土地はおさらばだ、何処へでも構はぬ。志を立てた装丁等、俺たちは、猛悪な哲学を持とう。学識には文盲を、慰安には極道を、歩みゆくこの世には決裂を。これこそ真の発展だ。前進せよ。出発だ」。

この詩を思いだしたのは、姜尚中(カンサンジュン)氏のインタビュー記事(6月3日朝日新聞)で、彼は以下のように現代社会を分析している。

「実はこの1年ほど、『悪』の考察ができないかと考えています。というのも、世の中、悪が満ちあふれている。資本主義の本性が出て、人間が社会性を失っていく。それが罵詈雑言の限りとなり、例えばネット上に噴き出しているように見えます。もう一つのきっかけは、英国の学者テリー・イーグルトンが悪について記した『On  Evil』を読んだことでした。今、僕らが理想論を説いてみても、若者に響かない。なぜなら、平和や善、愛は夢物語の中のもので、むしろ悪や苦に圧倒的に現実味がある。その悪を無視して、理想を熱く語ってみても、相手には伝わらない。そのあたりを見事に分析した本で、感銘をうけました。(中略)現代は、自己責任だ、自助能力を発揮しろとせき立てられ、そこに社会がないわけです。私は、悪の反対は、善ではなく愛だと思うんです。さらに言うと、社会だとも思う。今、人間は自己中心のガリガリ亡者になって、社会は当てにできない。むしろ、社会からさげすまれているという気持ちの人がたくさんいます。ですから、悪を解き明かすことで、社会を取り戻すことに目を向けたい」と。

わたしも過去、コトバの空転(からまわり)に苦しんだ。自己陶酔しがちな既成左翼用語と、目の前に見える一般学生との深い底なしの断絶。

一番激烈なコトバで闘った仲間の裏切り。これも社会の縮図なのかと、なかばあきれ茫然とみていた学生時代であったが、わたしたちは相手を切り捨てるのではなく、あの時必要なことは、「自省」であったのではないかと思われてならない。相手にひびくコトバを、苦しくとも考えに考え、あみだすことが必要であったのではないだろうか?

後づけの理屈はいくらでもできようが、今もって全共闘の歴史が想い出語りに終始して、政治的な総括がなされていないことは、日本の左翼運動にも負の遺産を負わせているのではないだろうか?

辛うじて学問的に新左翼運動を研究したのは、東京大学出版会から出た、大嶽秀夫著『新左翼の遺産─ニューレフトからポストモダンへ』だけであった。大嶽は世界的な新左翼の動向から運動の可能性を描出して、ヨーロッパの政治情勢に、現実的な影響を及ぼしたヨーロッパ新左翼を歴史的に解析した。

日本においては、60年安保以降の、小野田襄二氏の党派内部からの自省にみちた「遠くまで行くんだ…」のような、新しい時代へ向けた、ランボオの詩を読むような、マニフェストは今もって生まれていません。

わたしは、時代をまたいでも誠実な態度で日本新左翼の総括と、将来へのベクトルが、稚拙でもいいから切実に必要とされている、と思っています。

地鳴りのような、変革の契機に、座して待つことはできません。

前進せよ。出発だ。

※ テリー・イーグルトンはマンチェスター大学教授。19世紀20世紀の文学についてマルクス主義的な研究を行う。肉体とその死滅に人間生活の絶対的価値を主張している。

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