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2015/6/7更新

メディア時評

おごる安倍政権のメディア管制(下)
海外メディアにまで干渉する安倍自公政権

ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授(京都地裁で地位確認係争中)浅野 健一

公明党支持者は批判すべき

古賀茂明氏の発言問題で、テレビ朝日は4月28日、視聴者に理解できない放送になるなど番組進行が不適切だったとして、報道局幹部ら3人を戒告とする社内処分を発表した。「停波」で脅した自民党への完全屈服である。処分されるべきは、放送法違反の言動をしでかした菅儀偉官房長官、自民党幹部ではないか。

テレ朝とNHKを事情聴取した自民党情報通信戦略調査会の会長である川崎二郎衆議院議員(三重1区)は、20年前、週刊誌と共謀して創価学会を誹謗中傷した政治家だ。約20年前の1994年、公明党が野党だった時代のことだ。川崎氏はテレビ中継された国会で、北海道で起きた交通事故について、「週刊新潮」同年9月1日号の記事を示して、創価学会員が被害者の事故を逆に学会員が交通事故を装い殺人を企てたかのように質問した。川崎氏らは、95年秋の国会では、池田大作名誉会長を証人喚問すべきだ、とも主張した。

この問題で当時、渡辺武達同志社大学教授はゼミのHPで、《十月十一日、自民党の川崎二郎議員が衆院予算委員会で当該週刊誌をもちだして関連質問、NHKテレビで全国中継されたのである。(略)交通事故そのものが偶発であることが判明した以上、道義的にも川崎議員はS氏などに公的な謝罪をすべきであろう》(S氏はHPでは実名)と指摘している。渡辺氏が私のセクハラ疑惑≠捏造し、人権侵害雑誌の「週刊文春」に持ち込む約10年前の極めて適切なコメントである。

公明党を支持している創価学会員は、20年前の川崎氏ら「与党議員」による弾圧を思い起こして、政権与党による違憲、放送法違反のメディア介入を批判し、侵略戦争法案を推し進める安倍政権から離脱すべきではないか。

官僚による海外有力紙への侮辱

特定秘密保護法が昨年12月に施行され、取材のやり方次第で記者が懲役刑を受けるケースが生じる可能性が出ている中で、記者クラブメディアは明らかに委縮している。そんな中、政権与党の政治圧力が公然化した。安倍自公野合政権の報道コントロールは、東京の外国特派員にまで及んでいる。

ドイツの保守系有力紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のカルステン・ゲルミス東京特派員が、日本外国特派員協会(FCCJ)の機関誌「NUMBER1SHIMBUN」4月号に「ある海外特派員の告白5年間東京にいた記者からドイツの読者へ」と題した記事を書き、日本の外務官僚たちから受けた攻撃を明らかにした。評論家の内田樹氏がブログ「内田研究室」で全文を紹介し、話題になった。

ゲルミス氏は14年8月14日、「漁夫の利」と題し、「安倍政権が歴史の修正を試み、韓国との関係を悪化させているうちに、中韓が接近して日本は孤立化する」という内容の記事を書いた。これに対し、中根猛・駐ベルリン大使による反論記事が、14年9月1日付のFAZ紙に掲載された。

4月28日の朝日新聞(フランクフルト=玉川透特派員)によると、記事が出た後の8月28日、坂本秀之・在フランクフルト日本総領事がFAZ本社を訪れ、海外担当の編集者に1時間半にわたり抗議したという。総領事は、「中国が反日宣伝に利用している」「中国からの賄賂が背後にあると思える」などと指摘。また、総領事は、問題の記事の切り抜きを取り出し、「ゲルミス氏が親中国プロパガンダ記事を書くのは、中国へのビザ申請を承認してもらうためではないか」とも発言したという。ゲルミス記者は「私とエディターと本紙全体に対する侮辱である」「私は中国に行ったことも、ビザを申請したこともない」と書いている。

また、同日の朝日新聞(武田肇記者)によると、米主要紙の東京特派員は、記事中の識者の選定を巡り、在米日本大使館幹部から圧力と疑われるメールを受け取っていたことも明らかになった。慰安婦問題に関する記事で引用した大学教授について「日本の学術界ではほとんど認められていない」「よく分からない人物」と評し、別の学者に取材するよう勧める内容だった。4月14日の東京新聞によると、外務官僚に「よく分からない人物」とされたのは、中野晃一上智大学教授(政治学)らしい。

二律背反の言論抑圧批判

私がジャカルタ特派員だった1990年ごろも、在インドネシア大使館の大使らが、有力紙のコンパスによく引用されていた村井吉紀上智大学教授(故人)について、「なぜ村井を使うのか」と地元メディアに言っていた。私がハーバード大学の季刊誌に「自衛隊イラク派兵とメディア」に関して寄稿した際も、在米大使館の一等書記官が反論を載せた。日本の外交官は反動靖国イデオロギーに染まっていて、人民の権益など考えない。

安倍氏は4月15日、韓国当局から出国禁止が解除されて前夜帰国した産経新聞の加藤達也前ソウル支局長を官邸に招き、「ご苦労さまでした」と慰労した。加藤氏は面会後、記者団に「(首相らには)時宜を得て韓国、国際社会に発信して私を励ましてくださったことにお礼を申し上げた」と述べた。菅義偉官房長官は加藤氏の起訴について、「民主国家ではあるまじき行為」「報道の自由の観点から極めて遺憾だ。国際社会の常識と大きくかけ離れている」と批判していた。他国の言論抑圧を言う前に、自分たちが国内で報道の自由を侵害していることにも気づいた方がいい。

自分たちに都合のいいメディアだけの「報道の自由」を認めるような政治家は、米国などと共通の「人権と民主主義」の価値観を持つ者ではない。

自衛隊員を米軍の補助兵として差し出す侵略戦争法案にペンの力で立ち向かう記者が出ることを期待する。

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