2015/6/7更新
アジアインフラ投資銀行(AIIB)が57カ国の参加で創設されることになった。6月末までには設立協定がまとめられ、12月末までには運用が開始される予定である。しかし、G7諸国のなかで米国と日本だけが設立に参加せず、中国の国際社会での「台頭」が喧伝されている。
なぜAIIBは多くの途上国から支持され、日米両国は参加を見送ったのか。3点にポイントを絞って、その理由を探ろう。
第1に、そもそもAIIBのような新たな国際金融機関が必要とされるのは、アジアにおける膨大なインフラ投資をまかなう必要があるからである。中国やインドをふくむアジアには世界人口の59%が集中し、世界でもっとも人口が多い。同時に、貧困人口ももっとも多く、1日2j未満で生活している人は18億人もいるとされる。
日本や米国が主導するアジア開発銀行(ADB)によれば、2010年〜20年にかけてインフラ整備に必要とされる資金は8兆j(約960兆円)である。しかし、2014年のADBの融資額はわずか131億j(約1兆6000億円)にすぎず、膨大な資金需要をまかなうにはあまりにも非力である。
ここに目を付けたのが中国政府だった。2013年10月、習近平国家主席はインドネシアで、「21世紀海のシルクロード」と冠したASEANと中国の経済協力構想を発表した(同年9月には、欧州から中国に至る「シルクロード経済帯」構想をカザフスタンで発表している)。当初AIIBはASEANとの協力枠組みの一部だったが、現在はこれが世界的な広がりをもつ機関として拡大されたわけである。
中国の構想を多くの途上国が支持したのは、既存の国際金融枠組みが過度に米国の利害に沿っていることと無関係ではない。これが第2の理由である。
たとえば、IMF/世界銀行は、事実上米国のみが拒否権をもってきた。2008年の世界金融危機を受けて発足したG20には新興国や途上国の一部も参加し、米国主導の金融秩序に批判が加えられた。その結果、2010年、IMFは新興国の発言力を強化するために、これらの国ぐにの出資比率を増やし、投票権の比率を引き上げる改革を承認したのである。
しかし、その後も米国議会、とくに野党共和党は中国など新興国の影響力拡大に異議を唱え、いまだに出資比率改革は実現していない。こうした改革の遅れが、中国の提唱したAIIB構想にたいする途上国の「期待」につながっているのである。
第3に、こうした国際金融秩序の改革を求める動きに、米国は焦りを隠さない。たとえば、ピーターソン国際経済研究所々長で、長年、米政権のブレーンを務めたフレッド・バーグステンは、「AIIBは既存機関をないがしろにし、中国の戦略的権益拡大の道具になる」と、強い「警告」を発している。
そもそも米国は、中国が2013年にAIIBを提唱した段階で「融資の公正性」、「貸付における債務の持続可能性」、「環境や社会的影響」について懸念を表明し、主要国に不参加を働きかけてきた。しかし、今年3月12日に英国が参加を表明したことをきっかけに、日米両国を除く主要国はAIIBに加わり、米国の威信は大きく傷つくことになった。
目論見が外れたのは日本政府も同じである。『日本経済新聞』によれば、官邸は「参加に慎重な米国との関係などを考え、『日本が参加しない前提で情報を分析していた』」という。
2008年の金融危機をきっかけにしてはっきりと表に出てきた米国主導の国際金融秩序にたいする新興国や途上国の批判や懸念の強さを読み誤り、米国の決定を既定方針にしたことが、外交的孤立を招いたわけである。
政治的にも経済的にも発言力を増しつつある途上国や新興国の人びとの声を受け止め、オルタナティブな国際秩序を構想する力の欠落こそが日米両国の「外交的敗北」の真因だろう。
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