2015/5/31更新
ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授(京都地裁で地位確認係争中) 浅野 健一
安倍晋三自公政権与党の自民、公明両党は11日、日本の自衛隊が「切れ目なく」地球規模で米国と共に戦争をできるようにする「戦争法案」(安全保障法制)に関する与党協議で、関連法案の全条文に合意し、閣議決定を経て国会に提出すると決めた。安倍首相は5月20日国会の党首討論で、アジア太平洋戦争を「誤った戦争か」と聞かれたのに、回答しなかった。またポツダム宣言について「私はつまびらかに読んでいない」と発言した。呆れた発言だ。
安倍政権は集団的自衛権の行使容認について、原油や天然ガスの輸入がなくなるような経済混乱も「存立危機事態」に該当する可能性があるとして、中東での機雷掃海を集団的自衛権行使の事例に挙げている。これは、日帝時代に原油などの輸入ができなくなったABCD包囲網で、第二次世界大戦へ突入し、東南アジアへ侵略した構図と同じだ。「大東亜共栄圏」「八紘一宇」の看板を「国際平和」「人道支援」に塗り替えただけだ。
安倍氏は国賓としての訪米で、辺野古新基地の建設を「唯一の解決策」と断言し、自衛隊を米軍に隷従する補助軍隊として差し出した。記者クラブメディアは、日米首脳会談で日米同盟が強化されたと賛美した。聞くに耐えない英語演説を礼賛する識者ばかりをテレビに出していた。
安倍政権の支持率は、依然として50%前後の高水準を維持している。昨年末の総選挙で圧勝した安倍自公政権は、驕り高ぶりの頂点にある。安倍氏は第二次政権発足以来、報道統制をより強め、新聞・通信社、テレビを完全に支配下に置いた。「政府が右と言うものをわれわれが左と言うわけにはいかない」(籾井勝人NHK会長)という姿勢が、主要メディアに共通する事態だ。
「週刊ポスト」5月15日号によると、安倍首相は13年1月7日から15年4月6日まで30回もメディア関係者と高級飲食店で食事をしている。メディア幹部とゴルフすることも多い。先進国では例のない政権とメディア(記者クラブ)の癒着によって、国会、民衆の意思を無視した政策が展開されている。
安倍官邸のメディア支配は、自民党によるテレビ局の事情聴取にまで及んだ。テレビ朝日(テレ朝)「報道ステーション」で元経産省官僚の古賀茂明氏が「菅(義偉)官房長官をはじめ、官邸の皆さんからバッシングを受けてきた」と発言したことが発端だ。
同番組に準レギュラーとして出演していた古賀氏は、3月27日の生放送中「今日が最後ということで…」と前置きし、テレ朝の早河洋会長らの意向で降板することになったと述べ、キャスターの古舘伊知郎氏が「ちょっと待ってください。承服できません」と反論する異例の展開となった。菅官房長官は翌日の会見で、官邸からの圧力を否定、「放送法がある。テレビ朝日の対応を待つ」と表明した。これは、放送法で何らかの措置を取るという脅しだ。
この後、上杉隆氏が4月10日に発売された「文藝春秋」5月号の「報ステ」に関する記事で、自民党が昨年11月26日、「報ステ」プロデューサー宛に公正な報道を求める文書を送っていたことを明らかにした。福井照・報道局長名の文書は、11月24日の放送に対し、「アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないがごとく断定する内容」とし、調査を求めた。
約半年前の自民党文書について、いつものことだが、記者クラブメディアは上杉氏のスクープであることを伝えなかった。かつては、1999年4月9日に、朝日新聞は一面トップで、《「噂の真相」によると》と前置きして、則定衛東京高検検事長の不祥事を報じた。NHKと民放も、同誌のクレジットを入れて報じたこともあった。昔の方が少しはフェアだった。
衆院解散の直前の14年11月20日、自民党が在京各テレビ局に「公平中立、公正の確保」を求める文書を出していた。解散表明の同18日夜にTBSの「NEWS23」に生出演した安倍氏が、アベノミクスを批判する街頭の声を聞いて激怒することがあり、2日後にこの文書が出された。
自民党の文書は、過去の例として、「あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、大きな社会問題となった事例」を持ち出しており、この記述は1993年のテレ朝報道局長の発言を指しているので、私は昨年12月5日、テレ朝広報部に文書で質問したが、回答は報道ステーションに対する文書のことに触れていない。
自民党の情報通信戦略調査会は4月17日、テレ朝とNHKの経営ナンバー2を呼び出し、個別番組の内容について異例の事情聴取を行った。NHKは、ヤラセ疑惑が指摘されている「クローズアップ現代」を問題にした。調査会会長の川崎二郎元厚労相は、古賀氏の発言を問題視し、放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立てを検討していることを明らかにした。
日刊ゲンダイの報道によると、平河クラブ(自民党)所属の記者のみで行われたブリーフィングで、川崎氏は「停波(放送局には死刑判決を意味する)の権限まであるというのが放送法。真実を曲げた放送がされるなら、法律に基づいてやらせてもらう」と言及したという。
自民党のテレ朝とNHKの聴取については、読売、産経、日経も社説で「放送の自主・自律」の観点から問題だと指摘し、主要紙が珍しく揃って批判した。政権党による事情聴取は、放送法に違反している。両局は聴取に応じるべきではなかった。
テレビ朝日の吉田慎一社長は、会見で「誤解があってはいけないし、いい機会だと考えて説明した」と述べたが、秋田支局の新人記者時代に著した名著『木村王国の崩壊』を読み直して、権力とメディアの関係を考えてほしい。
(次号に続く)
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