2015/5/15更新
大阪教育合同労組委員長・酒井 さとえさん に聞く
橋下率いる大阪維新の会が教育行政で行ってきたことは、人事査定・成果主義の導入や、日の丸・君が代処分など、独自の施策ではありません。ただ、橋下市長だからこそ、組合への敵視、定期交渉の拒否など、人権を無視した、攻撃的なやり方をとってきたという面は大きいですね。
2013年5月現在、府教委の調べによると、大阪府下の国公私立の幼稚園・小学校・中学校・高校・特別支援学校の教職員数は、8万787人となっています。このうち1〜2割が非正規雇用です。
もともと「非正規」職は、産休や病気の教員を補充するために採用していたのですが、その採用枠が緩和され、非正規雇用の枠が拡大されています。大阪は、全国的にもその傾向が強いのです。
「非正規」というとパートタイム労働的な印象がありますが、そうではありません。非正規雇用でも、ほとんど正規職と同じ責任を持たされながら、正規職よりも安い賃金や悪い労働条件で働いています。大阪府・市は、本来正規職で採用するべきところを、非正規労働者でまかない、「安く」「便利に」使っているのです。
雇用形態の違いは、教職員間に分断を持ち込み、個々の労働者に負担を強いるものです。教育現場での経験の継承や、子どもたちへのケアという面から見ても、好ましいことではありません。
大阪の教育現場で人事査定(「評価・育成システム」)は2004年から始まり、07年度から賃金に反映され始めました。教職員の「成果」を評価し、賃金・処遇にランク付けする、というものです。
しかし、教育の場に査定というモノサシを持ち込むのは、難しいことです。どうしても「テストの点数」とか「難関校への合格者数」などの、一面的なことに偏ってしまいます。学校現場での業務・職務は、他の教職員との協同性が不可欠です。個人を評価するのは誤ったことなのです。
学校現場では、年度ごとに校長が全教員に「3つの目標」を立てさせます。「生徒の授業理解度を高める」といった抽象的な目標ではダメで、具体的な数値が求められます。そこで教員は、遅刻・中退・合格者数…といった市長や校長の意向に沿う目標を掲げるようになります。
教育合同では、こうした人事評価・成果主義に反対し、人事査定システムの廃止を求めています。具体的な取り組みとしては、@人事評価・査定制度の矛盾を暴露し、その解体に追い込むため、自己申告票の不提出、A「職場の労働の協同性」という観点から問題のある評価への苦情申し立てや裁判への提訴、というものです。
橋下・維新は、この人事査定の延長として、2013年度から、生徒や保護者を対象とした授業に関するアンケートを実施しています。マークシート形式で、「授業内容に興味を持てたか」「教員が適切に指導しているか」などを回答させます。結果は数値化され、2・5以下の教員は「指導力がない」として、校長が面談指導を行うのです。今後は、このアンケート結果が、賃金・処遇に直接反映されることになっています。
導入当初は、教員・生徒の双方が「なぜこんな面倒なことを」と戸惑っていましたが、いまでは生徒の評価を気にする教員や、アンケートを楽しみにしている、という生徒の話も聞き、教員・生徒の間にも分断の壁ができるのではないか、と危惧しています。
また、橋下市政以降、現場の人的余裕のなさに反するように、中間管理職が増やされています。准校長(大規模校の管理体制強化)、首席(全校に配置され教頭を補佐)などです。
橋下市長にとって教職員は、徹底した管理・支配の対象でしかないのです。これらの中間管理職は、いずれも橋下市長や校長など、上の方しか見ず、「ミニ橋下」と呼べる存在になっています。
たとえば「私立高授業料無償化」を見てみます。無償化導入直後は、大阪で私学バブルが起こりました。定員増で、プレハブ校舎を建てた私学もあります。そこで採用された教員は、非正規です。
また、授業料以外の費用は負担する必要があります。授業料そのものもいったん振り込みをしなければならず、あとで返金するという形をとるので、一時的にせよ、保護者の負担がなくなったわけではありません。
いまは「私学バブル」は落ち着いていますが、学校間格差が広がっています。
橋下・維新が掲げる「3年連続で定員割れの公立高は廃校」という方針とも関わる話ですが、人気の集中する高校とは、学校の中身よりは、都市部で交通の便が良いところという意味合いが強いのです。地方の学校は「通いにくい」と敬遠されて定員割れになり、それがさらに人気を落とす、という負の連鎖になっています。学校の努力で改善できるものではないのです。
大阪では、「教員不足」が問題になっています。団塊の世代の教職員が大量に定年を迎えている事情もあり、授業ができなくなった学校も出ています。また、大阪の教員採用試験に応募する志願者は減っています。橋下市長の教育現場への締め付けは、たびたびニュースでも報道されているため、敬遠されているのでしょう。兵庫・京都・奈良の教員採用試験と掛け持ち受験して、大阪以外での採用を優先する人が増えています。
教員は膨大な事務作業をこなさなければならず、生徒のことを十分にケアする余裕がありません。橋下・維新の教育施策は、この状況に拍車をかけました。教育現場は大きなダメージを受けています。教員志願者が逃げていくのは、その象徴です。
学校現場の教職員は、労働者としての権利を尊重されていません。大阪府・市は、官製のワーキングプアを生み出し、民間に率先して労働者を使い捨てにしています。
私たち教育合同は、こうした状況を変えていくために、これからも非正規をはじめ、教育現場で働く人たちの労働条件改善のために奮闘していきます。
(文責編集部・一ノ瀬)
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