2015/5/15更新
釜ヶ崎医療連絡会議 大谷 隆夫 さんに聞く
「西成から大阪を変える」と「西成特区構想」をぶちあげた橋下市長。その構想の中核である釜ヶ崎で、どんな変化があったのか。釜ヶ崎医療連絡会議代表の大谷隆夫さんに話を聞いた。(編集部一ノ瀬)
──橋下市政になって、釜ヶ崎にどんな変化が?
大谷…@監視カメラの数が一挙に増えた、A西成署警察官の巡回が増えた、B「クリーン化」が進んだ、ことがあげられます。
@については、もともと1966年から83年にかけて、西成警察署によって15台の監視カメラが設置されていました(注・後にカメラの撤去を求める裁判の判決を受け、1台が撤去される)。現在では、明らかにされているだけで、114カ所に監視カメラが設置されています。これは、大阪府・市と大阪府警が進める「環境改善5カ年計画」によるものです。府市は、薬物売買やごみの不法投棄対策として、2014年度で5億円の予算を投入し、防犯カメラの台数を3倍以上に増やしたのです。
Aについては、2〜3人の警官が定期的に釜ヶ崎を巡回しています。これによって、野宿者のテントが排除され、露店が出せなくなりました。また、段ボール・古紙回収している人のリヤカーが「違法駐車」で撤去され、これらを生活の糧にしている労働者にとっては、死活問題になっています。
Bは、Aとも関連しますが、文字通り「街をキレイに」ということで、徹底した清掃作業と不法投棄の監視をしています。それ以外にも、駐輪場以外の自転車の撤去などが行われています。
特徴的なのは、これらの「クリーン化」が、地元住民だけではなく、民間の事業やボランティアとして、釜ヶ崎労働者や野宿者を巻き込んで行われていることです。彼らが「仕事になるから」という口実で警察や行政の道具として使われるのではないか、と危惧しています。
──あいりん労働福祉センターの廃止が大きな問題になっています。
大谷…センター廃止問題は、「西成特区構想」の本丸です。橋下市長は、「西成・あいりん地区を官庁街にすれば大阪が変わる」と、大阪都構想による新「中央区」(現在の西区、中央区、浪速区、天王寺区、西成区)の庁舎を、西成区役所に持ってくる予定です。
センターは、駅前に立地した大規模公共施設です。求職の場にとどまらず、労働者が集う場、野宿の場などにもなっている、「釜ヶ崎」の顔的な存在です。今年1月、橋下市長は「センターは廃止せず、労働者を排除しないよう注意して、新たなまちづくりを進めたい」と言いました。しかし、センターを潰すことができれば、「西成特区構想」は大きく前進します。
昨年9〜12月に、6回にわたって、町会長、社会福祉協議会会長、商店会連盟会長、NPO、労働組合などの代表が集まって、「あいりん地域のまちづくり検討会議」が開かれました。ところが、この「まちづくり検討会議」以前に、2013年12月から大阪市・府・国が出席した「あいりん総合センターのあり方検討会議」が、少なくとも6回以上開かれていることが明らかになっています。この「あり方検討会議」の記録は存在せず、資料もすべて非公開です。「まちづくり検討会議」は住民の声を聞いたというカモフラージュで、本当は「あり方検討会議」で決められている可能性があります。
釜ヶ崎労働者・野宿者は、長い間行政から意図的に放置され続けてきました。いまも仕事は少なく、生活保護は締め付けられる一方で、住民票の消除で参政権までも奪われたままです。そんな労働者・野宿者の生活が向上するためのまちづくりなら、望ましいと思います。しかし、いまになって突然「待ったなし」と騒ぎ立てるのは、排除の意図を感じます。
釜ヶ崎というまちがもつ一つの側面は、いろいろな事情で釜ヶ崎以外の地域・社会では生きづらくなった人たちを受け入れてきた、ということです。社会が同じように均質で、「クリーン」「デオドラント」になってしまったら、生きづらい人たちの居場所が奪われてしまいます。
釜ヶ崎で起ころうとしていることは、日本社会全体にも波及してくる問題です。大阪市・府も国も強大な権力とお金を持ち、情勢も厳しいですが、今後も釜ヶ崎労働者・野宿者が絶対に譲れない線を守るために声を上げ続けていきます。
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