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2015/5/8更新

大阪城公園を民間に売り飛ばした橋下市長
新自由主義の古くさい経済政策

中桐康介さん(長居公園仲間の会)インタビュー

橋下徹大阪市長が主導する「特別区設置住民投票」(「大阪都構想」)が5月17日に行われる。人民新聞では、2号連続でこれまでの橋下市長&維新の会がやってきたことを現場・地域の視点から検証する。

今号は、大阪城公園を民間に売却したPMO(公園マネジメント事業)を中心に、大阪市大都市研究プラザの櫻田和也さん(2面)、橋下徹研究会(3面)の「都構想」批判を掲載する。

現在、自治体が民間に委託料を支払って公共施設・公園などの管理・運営を請け負わせる「指定管理者制度」は、全国に普及している。しかし、公共施設の長期運営権を民間に売却するケースは、全国でも初めての例となる。

PMO(パークマネジメント事業)と呼ばれるこの公園の民間売却は、橋下市長が力を入れる事業だ。大阪城公園のPMOについて、中桐康介さん(長居公園仲間の会)に話を聞いた。(編集部一ノ瀬)

※ ※ ※

公園運営権を切り売り

──大阪城公園が売却された経緯は?

中桐…2014年5月に、大阪市議会で「大阪市公園条例」が改正されました。これは、市立公園を民営化できるように定め、PMO事業を推進する内容を含んでいます。

そこで打ち出されたのは、《都市公園は都市の貴重なオープンスペースであるとともに、一方で都市魅力の創造に資する貴重な都市空間》というものでした。2500u以上の公園について、建ぺい率を2%から4%に引き上げ、集客・観光拠点となる公園の活用を目的としたものです。

ところが議会では、市民生活に大きな影響を及ぼすにもかかわらず、これといった議論もされませんでした。結局、共産党だけが反対で、条例は改正されました。

その後の市の動きは速く、6月には大阪城公園のPMO事業者の募集要項を配布開始します。対象になったのは、大阪城公園、大阪城野球場、大阪城西の丸庭園、豊松庵、大阪城天守閣、大阪城音楽堂(野外音楽堂)の5つ。7月に現地見学会と質疑応答、9月に受付。2つの企業共同体が応募しました。10月16日には、電通、読売テレビ、大和ハウス、大和リース、NTTファシリティーズ(建築・エネルギー事業)で構成される「大阪城パークマネジメント共同事業体」(以下、PMO企業)への決定が公表されました。契約期間は、2015年4月1日から2035年3月31日までの20年間です。

──「売却」の具体的中身は?

中桐…PMO企業は、@公園の管理・運営、A魅力向上事業、の2つが業務の範囲だとされています。@については、これまでの指定管理者制度と同じ内容ですが、AがPMO事業の中心です。

PMO企業は、既存施設を活用するだけにとどまらず、新たな施設建設やイベントを実施することができます。大阪市は公園の占用許可・監督処分の権限を持ち、必要に応じて公園内の文化財調査や石垣の修復を行います。しかし、あくまで市は「PMO事業のサポート」と位置づけられています。

PMO事業者は、大阪市に毎年2億2600万円の基本納付金と収益金の7%(見込みでは約2000〜9000万円)の変動納付金を支払うことになっています。橋下市長も、「今までは税金で管理していたけど、逆に市がお金をもらう立場になるという発想の大転換。成功させたい」と語っています。

公共スペースで営利事業

──「魅力向上事業」の具体的な話は?

中桐…PMO企業からは、いくつかの提案が出されています。@旧第四師団司令部庁舎(元大阪市立博物館)を大型利便施設(売店、レストラン、パーティースペースなど)に、A大阪迎賓館をカフェ、レストラン、パーティースペースに、B旧大阪市音楽団事務所をPMO事業の拠点となる総合事務所に、CJR大阪城公園駅前エリアを「サムライ体験テーマパーク」や、江戸・上方を再現した店舗による物販・飲食事業である「仲見世事業」エリアに、DJR・地下鉄森ノ宮駅前エリアを世界中の文化・歴史を体験できる「森の屋台村」に、E公園内外や園内をつなぐ巡回バス事業、F重要文化財をめぐる「櫓巡りの道事業」、G公園内をランニングコースとして利用するための着替え用のロッカーやシャワー、サポートするための施設「ランニングステーション」の設置。

もっともらしい大義名分を掲げていても、要するにPMO企業が大阪城公園という公共のスペースで、営利事業を行うわけです。事業が本当に妥当なものなのか、そして市民やそこで野宿する人たちは排除されないのか、僕たちは大きな危機感を持っています。

──公園内の野宿生活者への対応は?

中桐…大阪市が定めた「指定管理者(PMO事業者)が行う業務内容」の最初の項目「@一般的事項」には、「…不正使用や不法占拠などの不適正な利用により、公園本来の機能が阻害されないように取り組むこと」とあります。これが業務内容の先頭に書かれなければならないことでしょうか。

さらに、「B一般園地の運営」を読むと、その「不正使用」「不法占拠」が何を指すのかが、ハッキリします。釣り、スケートボード、騒音、ビラまき、無許可営業、放置自転車などがあげられていますが、「ホームレス対策」の項目に、こう書かれています。

「園内巡回(夜間も含め)により、テント、小屋掛けなどによる不法占用行為の早期発見に努め、そのおそれがある場合には、直ちに注意を行いその行為をやめさせるとともに、本市に状況報告を行うこと」「移動型ホームレス等に対しては、公園内で起居をさせないよう聴聞を行うとともに、本市に状況報告のうえ、連携しながら対応すること」「公園利用者の適正な利用が妨げられている場合は、本市と協力して必要な措置をとること」。

大阪城公園では、行政代執行による野宿生活者テントの強制排除を含めて、ガードマンによる24時間巡回体制や、市職員による恫喝など、徹底したテントつぶしを行ってきました。その「成果」もあり、現在の大阪城公園内には1軒もテント・小屋がありません。

いまでは少数の人たちが、雨露をしのげそうな場所で露宿しているだけです。大阪市の言う「移動型ホームレス」とは、こうしたテント・小屋を持たずに露宿している人たちを指すのでしょう。それを「公園内で起居をさせない」=野宿させないことを業務に定めるのは、「ホームレス特措法」にすら違反しています。野宿生活者の人権無視であり、行政としての責任放棄です。

これを受けて、PMO企業が公園内で露宿する人たちに対してどんな対応をとるか、「大阪城公園よろず相談所」のメンバーが、排除が行われないように当事者とも連絡を取りながら、パトロールを続けています。

──2011年には、東京・渋谷で、宮下公園を「ナイキパーク」として整備する時に、行政代執行で野宿生活者のテントを強制排除しました。

中桐…あれは渋谷区が、スポーツメーカー・ナイキに宮下公園の「ネーミング・ライツ」(命名権)を売り渡したもので、PMOとは違います。

ナイキは2009年6月、渋谷区と年間1700万円、10年の契約で宮下公園のネーミング・ライツを取得し、「宮下NIKEパーク」と名付けました(後に命名を撤回)。歩道やトイレなどの施設を整備し、スケート場やクライミングウォールの運動施設(既存のフットサル場と共に有料)やエレベーターを新設して、2011年4月30日にリニューアルオープンされました。公園は夜10時半から正午まで閉鎖されています。

「誰でも自由に使えるはずの公園が、ナイキ一社の商業スペースに変質してしまうのはおかしい」として、リニューアルオープン前の4月21日に、強制排除された野宿生活者と支援者らで、渋谷区を相手取った国賠訴訟を東京地裁に提起しました。

そして、今年3月13日に出された判決は、@宮下公園のナイキ化計画が渋谷区議会の承認を得ていない、Aナイキ化計画が競争入札をしていない、B公園生活者を強制的に追い出した、C行政代執行に至る手続き、の違法性を認めました。

野宿者運動を中心とした闘いの成果です。しかし、区は控訴、さらに宮下公園への商業施設の導入を検討しており、今後も予断を許しません。

国策の先陣を切るPMO(パークマネージメント事業)

──PMOは橋下市長が力を入れている施策ですね。

中桐…PMOは、国土交通省も認めている事業です。安倍政権は、2014年6月に、アベノミクス「第3の矢」として、「日本再興戦略」改訂2014を閣議決定しました。

そこに「日本産業再興プラン」があります。その項目の中に「『国家戦略特区』の実現/公共施設等運営権等の民間開放(PPP/PFIの活用拡大)、空港・港湾など産業インフラの整備/都市の競争力の向上」とあります。

橋下市長が力を入れるPMO事業とは、こうした国策の先陣を切る施策です。ただし、注目しないといけないのは、PMOは、国が推奨するPPP(官民パートナーシップ)よりも先にゆく内容になっていることです。

PPPは、民間委託、指定管理者制度、PFI(民間に公共施設の設置・整備と公共サービスの提供をゆだねる手法)、民営化など、「民間にできることは民間に委ねる」という、新自由主義的施策です。PMOは、公共施設の長期使用権を民間に売却する、という手法であり、その先陣を切るものです。

ただ、こうした経済施策は、1980年代のサッチャリズム以降の新自由主義の延長線上にあります。特に目新しいものではない、古くさい手法だと言えます。

大阪府・市は、「日本再興戦略」決定の半年後(14年12月)に、大阪のめざす将来像として『10年後の大阪を見すえて』を発表しました。

その中で、大阪城公園について「都心の貴重な緑のオアシスであり、重要文化財などを有する歴史公園として、国内外から多くの観光客が訪れているが、そのポテンシャルを十分に活かしきれていない」と分析しています。「もっと金を生み出せるはずだ」というわけです。

周辺住民すら満足に知らされないままに、「公園売却」という重大なことが行われています。「大阪都構想」とは、中身のないスローガンであり、その裏で、公共自治体の民間資本への奉仕という重大なことが行われていることを、私たちは見落としてはなりません。

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