人民新聞オンライン

タイトル 人民新聞ロゴ 1部150円 購読料半年間3,000円 ┃郵便振替口座 00950-4-88555/ゆうちょ銀行〇九九店 当座 0088555┃購読申込・問合せ取り扱い書店┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto: people★jimmin.com(★をアットマークに)twitter
HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

2015/4/29更新

福井地裁、高浜原発に運転差し止め仮処分命令
フクシマの苦しみを訴え「原発ゼロ」へあと一歩の世論づくりを

水戸 喜世子さん(仮処分申立人の1人)インタビュー

「関西電力は、高浜原発3・4号機の原子炉を運転してはならない」─4月14日、福井地方裁判所(樋口英明裁判長)は、高浜原発の再稼働を認めない仮処分命令を下した。「仮処分申立人」のひとりである水戸喜世子さん(大阪府高槻市在住)のインタビューをお送りする。(編集部一ノ瀬)

──仮処分申立人となるきっかけから聞かせてください。

水戸…何といっても、私たちの目の前で「3・11」が起こったことが大きな出来事でした。昨年5月、福井地裁で「大飯原発差し止め判決」が出ました。私も原告の1人として、参加していました。大飯再稼働を認めない判決は画期的で、みんなで喜びました。でも、すぐに関電が控訴したので、この判決には拘束力がなくなってしまいました。

「何とかこの判決を実効性のあるものにしたい!」─そんな思いで、私たち原告と弁護団で議論を重ねました。その中で、弁護団の共同代表である河合弘之弁護士から、民事保全法による運転差し止め仮処分申し立ての提起がありました。

仮処分が出れば、異議申し立てや運転差し止めの本裁判で関電側が勝訴確定するまでは、国・関電は高浜原発を稼働させることができません。

ただ、河合さんからは、申し立てにあたっての不安点についても説明がありました。運転差し止めになった場合、関電が損害賠償を求めてくる可能性があること。請求額は莫大になるでしょうし、そうなれば財産の没収や差し押さえなどもあるかもしれません。

実際に中国電力は、住民や青年を相手取って、損害賠償を求めるスラップ訴訟を起こしており、現在も継続中です。これは、建設予定の上関原発(山口県上関町)の建設工事に抗議した祝島の島民2人と応援の青年2人を相手取って、「2009年11月5日〜11日の間に損害が生じた」として、4800万円の賠償を求める内容です。お金も負担ですが、仕事を休んで裁判に出る苦痛を訴えておられました。大企業が公益を正そうと立ち上がった市民相手にするべき行為と思えません。

最終的には、今回損害賠償を求められる可能性が低いこと、「万一の場合でも、弁護団がしっかり支えます」という励ましで、私たちは9人が申し立てに踏み切りました。

──「反原発」運動に携わるいきさつを教えてください。

水戸…私は大学時代、物理学を専攻しました。学生時代に物理学の学習会で、水戸巌と知り合い、60年に結婚しました。54年入学ですから、ビキニ島での水爆実験の直後で、放射能マグロで、日本中が放射能と向き合った年です。学生の立場で核実験反対の署名運動にも真剣でした。物理科の学生として当然関心は高かったですが、それがそのまま、原発には結びつきませんでしたね。ご存知のように、「原発は原子力の平和利用」とする共産党の主張は、物理学者の中に大きな影響を与えていました。それでも武谷三男さん、藤本陽一さんなど、「原発はいけない」とはっきり断言する先輩学者もいましたが、70年に入ったころから、あちこちで起き始めた住民運動に入り始めたのは、水戸巌が最初かもしれません。私の家への嫌がらせがひどくなった時期と重なります。

私自身は、大学を出た後、3人目が生まれて辞めるまでの短期間ですが、京都大学基礎物理学研究所という非常に民主的な研究機関で、身分は助手ですが、研究所秘書的な仕事をしていたので、湯川、朝永、武谷、中村誠太郎といった当時代表的な理論物理学者たちが、国の原子力行政に、どう向き合っていたかを知ることができました。科学者の意見抜きに原子力行政を政治家が独断で行うのはとんでもないと思っていたのが、いつの間にか、茅誠司のように行政にすり寄る学者が出てきて、あっさり発言力もなくしていくのですが。

私は、夫と息子がいなくなってから、(86年、水戸巌さんと双子の息子さんは、剣岳で遭難)、世捨て人を決め込んでいたのが、衝撃の3・11を目の当たりにして、思わず「学者よ、声を上げよ」と朝日新聞に投書していました。みんなが声を上げていたら、こんな悲惨な事故は起きなかったのにというザンキな気持ちからでした。いまは、3人の意志を継いで、「原発を止める」、そのことしか考えていません。

原発と決別する意識変革を

──今回の仮処分は、どんな影響があると思いますか?

水戸…3・11まで、原発関連の裁判は負け続けでしたから、本当に感慨深いものがあります。これまでの裁判では、裁判長は「原発安全神話」に乗っかるだけで、自分で判断することなく、分からない時は国や科学者の権威に頼るものでした。ところが樋口裁判長は、3・11という事実に遭遇してしまったので、見てみないふりはできなかったのでしょう。良心的に忠実に自分で調べ、自分で結論を出されました。。

権威に屈しない樋口裁判長だからこそ書けた判決なのかもしれませんけど、本音を言えば、3・11以前にこんな裁判長に出会いたかったです。

いま、日本のすべての原発は停止しています。この仮処分によって1年、2年と原発が止まっている間に、判決・仮処分が浸透していくでしょう。河合弁護士も「大飯判決の影響が出てきている」と言われています。一時的に電気代が高くなっても、原発と決別できるのなら、何とか工夫して乗り切るぞ、という意識変革を期待します。これまで通りの「便利第一」の意識を持つ限りは、次なる原発を生み出します。リニアは原発2基分と言われていますね。

──これからの「反原発運動」について。

水戸…さしあたっては、川内原発の運転差し止め仮処分が司法界の焦点になるでしょう(※注)が、根底から司法を揺るがすには、まだまだ国民の声が弱いと思います。フクシマの被害がどんなに大きいものであるか、正しく被害者の声は報道されていないし、被害が出てくるのはこれからだと思っています。

大飯・高浜という司法のまっとうな判決が出たことによって、原発ゼロを訴える私たちの運動は、理解を得やすくなりました。これからが運動の正念場です。福島では、原発被害が広がる動きの中で、「ひだんれん」という横の繋がりを立ち上げ、もう黙ってはいない、と声を強めています。

この裁判所の決定が出た後、関電本社に申し入れに行きましたが、原発依存で自ら招いた4期連続の赤字を乗り切るためには、再稼動しかないという硬直化した考えを、全く捨てられないという態度でした。それを相変わらず後押ししているのが政府です。原発に子どもの未来はないという論理はあまりにも明快なのに、立ちはだかるこの壁の非論理性は一体なんなのだ、と思います。原発災害の底なしの苦しみを訴え、あと一歩の世論作りを真剣に考えねば、と思います。

(※注)4月22日、鹿児島地裁(前田郁勝裁判長)は、川内原発の運転差し止め仮処分の請求を却下した。

  HOME社会原発問題反貧困編集一言政治海外情報投書コラムサイトについてリンク過去記事

人民新聞社 本社 〒552-0023 大阪市港区港晴3-3-18 2F
TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441 Mailto:people★jimmin.com(★をアットマークに)
Copyright Jimmin Shimbun. All Rights Reserved.