2015/4/14更新
東京管理職ユニオン執行委員長 鈴木 剛
厚労省・労働政策審議会・労働条件分科会は、2月13日、「今後の労働時間法制のあり方について」と題する報告書をとりまとめ、厚生労働大臣に建議。安倍政権は「岩盤規制の撤廃」を掲げ、成長戦略の目玉の一つとして掲げる「残業代ゼロ」法案を閣議決定し(4月3日)、今国会で成立させる構えだ。
他にも、派遣の全面自由化、解雇金銭解決制度の導入も目論まれており、これら労働者保護ルールの改悪が行われると、『正社員ゼロ、残業代ゼロ、クビ切り自由社会』が到来することになる。まさに「悪魔の3法案」(棗一郎弁護士)といえる。東京管理職ユニオン執行委員長・鈴木剛さんに改悪の中身、国会審議のゆくえ、反対運動の現状などを聞いた。(文責・編集部)
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編集部…労働法制が改悪されようとしています。それぞれの法案の中身について説明してください。
鈴木…まず、ホワイトカラーエグゼンプション=残業代ゼロ法案についてお話しします。労働基準法では、1日8時間・週40時間を超えて働かせてはならないとされていますが、政府は、「一定の年収要件(1075万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度の職業能力を有する労働者」について、この労働者保護ルールの対象から外す制度を導入しようとしています。
厚生労働省によると、企画業務型の裁量労働制で働く人は、推計で約11万人。労働時間は1日8時間までが原則ですが、制度をとりいれている事業場の45・2%で実労働時間が1日12時間を超える働き手がいる、と発表しています。
また、労働基準監督官などが加入する労働組合が、監督官1370人に対しアンケート調査を実施し、「新制度は職場にどのような影響を与えるか?」と尋ねたところ73・4%が「長時間・過重労働がいっそう深刻化する」と答えています。
対象となる労働者は労働基準法が適用されないので、長時間労働を是正指導する法律上の権限がなくなり、取り締まることができなくなる恐れもあります。その結果、働き過ぎによる過労死や過労障害、過労うつになった場合でも、労災認定すら受けられなくなります。
労政審の報告書では、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え…」と説明していますが、「成果」がどのような基準・手続きによって評価され、結果が賃金とどのようにリンクされるのか、何ら言及されていません。「労働時間を自由に選べる」と言いながら、実は長時間働いても収入が増加する保障はないという働き方であり、残業代や休日・深夜の割増賃金も一切支払われなくなります。要するに、「残業代ゼロ」法案に過ぎないのです。
改悪法案では、長時間労働を抑制する現行法の仕組みがことごとく取り払われるので、過労死などを激増させ、ひいては多数の労働者の生命・健康を危機にさらす結果となることは、確実です。
編…今後対象者が広がる可能性も指摘されていますが…。
鈴木…対象となる労働者についても、裁量労働制における「高度な専門職」に限らず、「時間ではなく成果で評価される働き方をする者」を想定しているため、対象の労働者は大きく広がる危険があります。
年収要件も、法律で金額を定めるのではなく、厚生労働省令で定めるとしており、簡単に引き下げられる恐れがあります。今回の新制度について経団連の榊原会長は、「全労働者の10lぐらいは適用される制度」にするよう要求しています。ちなみに経団連は、以前のホワイトカラーエグゼンプションの提言で、年収400万円を想定していました。新制度がいったん始まると経済界が対象者の拡大を求めるでしょうから、サラリーマンの過半数が対象となる可能性すらあります。
次に派遣法の改悪です。現在の派遣法では、原則として1年(例外3年)という派遣期間の制限があり、これを超える場合は、正社員への移行を申し入れる義務を雇用主に課しています。改悪案では、この規制をなくし、あらゆる業務で永久に派遣労働を使えるようにする内容となっています。
日本の非正規労働者は2000万人を突破、非正規率は4割近くに迫っています。派遣の全面自由化法案が成立すれば、企業は正社員を採用することをやめ、どんどん派遣に置きかえるでしょう。ヨーロッパでは派遣社員と正社員の均等待遇が常識になってきていますが、報告書は、「日本では無理」と言っています。要するに、クビが切りやすく、安く使える派遣労働を全面自由化して正社員を減らす「正社員絶滅法案」と言えます。
鈴木…「金銭解雇自由化法案」は、不当に解雇された労働者が裁判所に訴えて、「解雇は無効」との判決を受けても、会社がお金さえ払えば、結局はその労働者をクビにして解決できる制度です。
労組の執行委員や職場のリーダーを理由なく解雇して職場から追い出すことができるようになるので、労働組合を簡単に壊滅させることができます。
編…国会審議の進展は?
鈴木…労働分野の法律改正については、ILOの公労使三者構成の原則(公益代表・労働者代表・使用者代表の三者)に基づいて、労働政策審議会で議論が進んできました。ところが、派遣法改悪も残業代ゼロ法案(ホワイトカラーエグゼンプション導入)も、労働者代表委員が反対の立場を貫き、再三廃案にもなっているので、審議そのものを打ち切った経緯があります。
もともとは、派遣法の改悪を先行して審議する予定だったのですが、残業代ゼロ法案が先行しそうです。理由は、維新の党も含めて野党が一致して派遣法の改悪に反対しているからです。維新の党の反対理由は、「同一労働同一賃金」が導入されていないからというものです。
ところが、残業代ゼロ法案については、維新の党が賛成する見込みで、野党の足並みが揃っていないのです。このため安倍政権は、残業代ゼロ法案を先に通して、今国会の目玉である集団的自衛権の法制化の審議に早く入りたいと目論んでいるようです。
ちなみにクビ切り自由法案(金銭解雇自由化)は、内閣府の諮問機関である「規制改革会議」が提言した段階で、来年の成立をめざしていますので、今国会に提出されることはないようです。
編…反対運動の現状は?
鈴木…労働組合の全国中央組織であるナショナルセンターは、連合も含めて全て反対の立場を鮮明にしています。日本労働弁護団が5月14日に日比谷野音で、連合も6月12日に同野音で反対集会を予定しています。過労死裁判の弁護団・遺族に加えてマタハラに取り組む女性グループも参加します。残業代ゼロ法案は、過労死を増加させ、女性が働きづらい職場にするからです。
今年のメーデーでも主要なテーマとして反対の声が上げられるでしょうし、全国各地で集会・デモが計画されています。
法案審議日程も決まり、事態は切羽詰まっています。第1次安倍政権では、自民党が衆院で300議席以上占めていましたが、それでもホワイトカラーエグゼンプションは、廃案となりました。派遣法の改悪も2回廃案になっています。労働法制改悪を与野党の対決法案として国会内外で焦点化させることが重要です。
労働者の日としてのメーデーは、1886年5月1日にシカゴを中心に8時間労働制要求の統一ストライキを行ったのが起源です。 1日12〜14時間労働が当たり前だった当時、「第1の8時間は仕事のために、第2の8時間は休息のために、そして残りの8時間は、おれたちの好きなことのために」をスローガンに、統一ストライキが闘われました。
残業代ゼロ法案は、百年以上をかけて闘い取ってきた8時間労働制を崩す法案です。解雇自由化法案も、労組を破壊するために使われるでしょうし、派遣法改悪は、いつでもクビを切れて安く使える派遣労働者を増やす正社員ゼロ法案ですから、絶対阻止しなければなりません。労働者の生活と働き方を根本から破壊する労働法改悪は、導入させたら終わりです。今求められているのは、『岩盤規制の撤廃』ではなく、労働者の命と健康を守る『鋼鉄のような規制』です。
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