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2015/3/29更新

イスラエルに暮らして

パレスチナ・ビリン村分離壁反対デモに参加
増えるイスラエル人左派

イスラエル在住 ガリコ 美恵子

2月27日の金曜日は、パレスチナ・ビリン村の分離壁反対デモ10周年記念日だった。前日、テルアビブ在住の仲間から「今年は絶対に来いよ」と電話を受けた私は、運動靴を履き、張り切ってでかけた。

ナブルス、へブロン、ラマーラ、ナビ・サーレなどの各方面から数百名が、特別貸し切りバスでやってきて、中には「ヤッタ(南へブロンの小さな村)からバスで3時間かけてきた」という団体もいた。地元村民やイスラエル人約200人、外国人の活動家、テレビ局クルー、新聞記者らを合わせると、1000人を超えるデモとなった。

イスラエル第2の都市=テルアビブからきた参加者は100人以上。ビリン村の壁反対運動のドキュメント映画「ビリン・マイ・ラブ」の監督であるシャイ・ポーラックや、ベツァレル芸術大学講師であり画家でもあるダビッド・リイブも来ていた。最も目立つのは、アナーキストの若者たちで、ピンクや緑に髪を染め、パンクスタイルの若者たちだ。彼等は、デモの出発地点に催涙弾の抜けガラを使ってモニュメントを作って、写真を撮っていた。その横で物静かに立っている若者にインタビューした。

私…どこから誰と来ましたか。

若者…アシュドッド(ガザ地区に隣接する地中海沿いの小さな町、ビリン村まで車で片道2時間弱)です。友人たちと来ました。

私…何歳ですか?

若者…18歳です。

私…いつからここのデモに参加していますか?

若者…1年前からほぼ毎週参加しています。

私…あなたの両親も左派ですか?

若者…いいえ、家は右派です。僕は高校で友達に影響を受けて目覚めたんです。

私…兵役には行きますか?

若者…いいえ、拒否します。軍の裁判では「占領軍に加担したくないから」と、はっきり言うつもりです。僕は、兵士になるより刑務所を選びます。

兵役拒否者を支援する「イエシ・グブール」によると、10年前の兵役拒否は年間20名ほどだったが、ここ数年で急増しているという。きっかけさえあれば、ネットの普及で簡単にパレスチナへの暴力行為を知ることが可能になったからだが、政府が隠そうとしてきたナクバ(イスラエル建国の際、パレスチナの村が焼かれ、虐殺され、追放されたこと)を歴史の時間に教える高校がでてきたためもあるだろう。私の場合は、『分離壁はグリーンライン上に建つのではなく、パレスチナ内部を分断するように建設される』と言った友人の言葉と、オリーブの収穫時に15歳の少女が入植者に射殺されたニュースが、開眼のきっかけとなった。

兵役拒否を当然のことのように話したこの若者に写真撮影を求めると、笑顔で承諾してくれた。彼の隣には高校生風の若者たちが並んで地面に座り、デモ開始を待っていた。

お昼の礼拝が終わり、壁に向かって行進が始まった。私は後方にいたが、催涙弾の煙が西向きの強風で入植地へ流れたにもかかわらず、眼がナイフで刺されたように痛く、次第に涙で前が見えなくなった。前方にいたイスラエル人の女男が、分離壁を越えてきた軍に捕まり、パレスチナ人2人も捕まった。頭を撃たれて救急車で運ばれたり、背中にゴム弾を受けた参加者もいた。この日の怪我人は合計6人だった。

政治意識と総選挙結果

帰りは、エルサレムのデモ仲間・ミハの車に便乗させてもらった。彼はハイテク会社に勤める50代で、精神科医を勤める妻は、彼の左派活動に理解を示している。隣村を抜けて入植地を迂回して検問を通り、さらに2つの検問所を通過しエルサレムに着くまで、車中は議論が続いた。

右隣に座っていた20代の男性が、洗脳教育について切り出した。「デモに参加してイスラエルが何をしているのかわかるようになったけど、道のりは長かった。学校で洗脳されて育ったからだ」。すると、助手席の50代の女性が、「私は学校よりも家庭での教育が影響力を持つと思うわ」と反論した。左隣の十代の少年は、「いや、人によって違うのさ」と言った。家庭であろうと学校であろうと『アラブはユダヤを全滅させようとしている』と幼児期から叩き込まれれば、アラブに対する恐怖心は自然と『敵対心』となり、『生き延びるためには敵を殺さなければならない』と、胸に焼き付けられる。

ミハが「ミエコはどうして開眼したの」と聞いたので、「洗脳から目覚めるまで10年くらいかかった」と言うと、右横の青年が、「僕たちのように幼い時から洗脳されると、洗脳付着力が強いんだ。わかるだろう」と、私に同意を求めた。もちろんわかる。

次に話題は、昨日の国会テレビ中継に移り、4人とも、ビビやリーベルマンをけなし、アラブ蔑視で有名なミリ・レゲブの口真似をして体の芯から怒り、選挙の話になった。

私が「ハニン・ゾアビが好きだ」と言うと、助手席の女性は「ゾアビはアラブのツィピ・リブニ版よ。好きにはなれないわ。でもメレツには絶対に入れたくない。アナーキストたちは、イスラエル政府の存在そのものに反対しているから投票に行かないって言ってたわ。私はまだ考えてるの」と言う。

ハニンはアラブの人権を守る活動を行うアラブ人の国会議員で、2008年ピースボートに乗ってトルコからガザへ入り、出国の際に逮捕され留置所に入れられた。イスラエル市民権を持つ者は、ガザへ入ることは禁じられているからだ。この件の裁判では無罪になった。去夏、旧市街へ軍が侵攻した際にも抗議デモを行った筋金入りの活動家で、ユダヤ人右派から大変嫌われている。

一方、ツィピは、「和平交渉する用意がある」と言いながら、武器を持ってアラブを黙らせる方針を明確にしており、国内外で嫌われている。嫌われても堂々としているという面では、ハニンに似ているのかも知れない。右側の席の若者が「僕はアラブ同盟に入れるよ」と言うと、運転席のミハも左隣の若者も頷いた。

今回の選挙では、首相または政党を投票で選ぶこととなった。首相には、リクード党からビビ・ナタニヤフ、シオニスト同盟党からツィピ・リブニとイツハク・ヘルツォグが立候補。シオニスト同盟党が勝てば、2人が2年ずつ首相を勤めることになる。誰が首相になっても右であることには変わりないが、どの政党が票を集めるかで国会が変わりうる。今回イスラエル・アラブの4政党が合体し、アラブ・ユダヤ間の差別を失くすことを主張する「アラブ同盟党」として立候補しており、イスラエル人左派に人気がある。

3月17日に行われたイスラエルの総選挙では、ビビ・ナタニヤフが再選された。国会の議席も、ビビ率いるリクード党がトップ。「入植地建設は今後も進める、パレスチナ国家建設は認めない、67年の停戦ラインにイスラエル人が引き下がることもありえない」と演説したビビがである。

2位は、ツィピ・リブニとイツハク・ヘルツォグ率いるシオニスト・キャンプ(右派)…。しかし3位は、4つのアラブ人の党が合併した「アラブ同盟党」となった。国会でビビと激しく討論を繰り広げるだろう彼等の姿が目に浮かぶ。

ビリン村デモと同日同時刻、へブロンでは、1994年のユダヤ人によるアブラハム・モスクでの銃撃殺人事件以降、パレスチナ人通行禁止になっている〈シュワダ通り〉を解放せよ、とイスラエル軍・政府に呼びかけるデモが行われ、エルサレムやテルアビブからイスラエル人左派が連帯参加した。

イスラエルの左派数の割合は全人口の1、2パーセントに過ぎないが、政府の占領政策に反対する若者は、フェイスブックやツイッターを通して、確実に増えている。

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