2015/3/19更新
坂本篤重さんはアルコール依存者や知的障がいを持つ人を対象にした社会福祉法人「釜ヶ崎ストロームの家」の利用者だった。
しかし、2年前に釜ヶ崎ストロームの家から一方的に就職先を取り消され、入居していたグループホームから追い出されるという人権侵害を受けた。その後、坂本さんは大阪市に対して虐待通報を行い、大阪地裁に提訴した。
編集部では今回、大阪市との「話し合いの場」および大阪地裁での裁判に同行しつつ、人権侵害を受けた当事者である坂本さんにこれまでの経過を伺った。 (編集部ラボルテ)
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「許せないのは、4年も5年もかけてようやく決まった仕事を奪い取ったこと。人生を台無しにされた」と語る坂本篤重さん。当時、釜ヶ崎を拠点に日雇い労働を続けていた坂本さんは、不況によって失業し、救護施設に入って生活保護を受けた。
「働いて暮らしたい」という坂本さんの希望によって、救護施設の職員からストロームの家を紹介され、5年前に同法人が運営するグループホームに入居、就職支援を受けた。2年前には、椎茸栽培を行う障がい者施設への就職が決まっていた。
一方でストロームの家では、@坂本さんに対して「言葉が汚い」「うちが支援していなければ今頃は刑務所」などと暴言を吐く、A坂本さんの金銭を管理するグループホーム職員が、布団の購入といった生活必需品の支出すら出し渋り、金銭を渡さない、B施設長が他の利用者に対して暴行を加える、といった問題が常時繰り返し起きていた。
釜ヶ崎ストロームの家の元職員・清水裕さんは、施設側の対応について「利用者の落ち度を見つけて、その落ち度を徹底的に責め続け、都合の良いように支配していく。利用者へのエンパワーメントではなく、利用者をディスエンパワーメントしている環境だった」と語る。また、金銭管理についても、「坂本さんとの間に金銭管理についての契約書はなく、明細も見せない。職員側の都合で一方的に金銭の受け渡し場所を変え、利用者側からすると″自分のお金なのに職員からお金を頂く″という形になっていた」と語った。
また、他の利用者のケースでは、帳簿上では「お小遣い」として本人に渡されているはずのお金が実際には渡されておらず、施設が管理する通帳に毎月「貯金」が発生していた。横領も組織的に行うことができる環境だったという。
こうしたことから、2013年2月初めから3月にかけて、坂本さんと清水さんは、大阪市に障がい者虐待防止法に基づく虐待通報を5回行った。
しかし大阪市は何の対応もせず、2013年2月末に清水さんは、@利用者に他の施設の話をした、A休日に他の施設の見学に行った、などという理由で不当解雇を受けた。利用者の視点から常に仕事をしていた清水さんへの不当解雇に、憤りを覚えた坂本さんは食事を拒否するといった行動を取って、「清水さんを解雇するのはおかしい」と施設側に抗議した。
抗議を受けたストロームの家は、「そんなことをしたら、グループホームを出て行かなければいけない」「あなたが清水さんと連絡を取れば、清水さんは精神保健福祉士の資格を失い、刑務所に入れられる。携帯の番号を消しなさい」などと脅迫されたという。
さらに坂本さんは、家賃を支払い続けているにもかかわらず、3月末に職員が管理していた通帳・金銭と引き換えの形で部屋の鍵を返却させられ、家具も着替えも持たせてもらえずに路上に放り出される強制退去を受けた。また、施設側は決まっていた就職先まで勝手に取り消した。
その後、坂本さんは釜ヶ崎医療連絡会議に相談し、現在はアパートで無事に暮らすことができているものの、暴言を受け続け、住まいと仕事を奪われたことによる心の傷は深い。「働きたくても働けない状況になっていることが本当に悔しい」と坂本さんは語る。
強制退去と就職取り消しの被害を受けた後、坂本さんを支援する人々は「釜ヶ崎ストロームの家による人権侵害を許さない会」を結成。大阪市に対しては2人が通報をした際に適切な、対応をしなかったことの責任と、市の通報システムの問題点の改善を求めて話し合いを行っている。また、「釜ヶ崎ストロームの家」を相手取り、大阪地裁に@住居であるグループホームを追い出されたことの損害賠償請求、A内定していた仕事を勝手に取り消したことについての損害賠償請求、B日常的な職員からの虐待行為についての損害賠償、を求めて提訴している。次回の口頭弁論は4月10日大阪地裁808号法廷で予定されている。
なお、釜ヶ崎ストロームの家に本件について見解を尋ねたところ、回答は差し控えるとのことだった。釜ヶ崎ストロームの家は、利用者に対して「ディスエンパワーメント」を行い、坂本さんの住まいと仕事を奪った。今後の裁判の動きについて注視したい。
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