2015/2/28更新
西谷 文和さん(フリージャーナリスト/NGO「イラクの子どもを救う会」代表)インタビュー
イラク・アフガンをはじめ、中東現地での取材を続けているフリージャーナリスト・西谷文和さんに話を聞いた。西谷さんは、イラク戦争での大規模戦闘が終結した2005年にバグダッド空港でイラクに入国できなかった経験を持つ。当時の外務省が、イラクに入る日本人の入国を強力に規制し、イラク政府に圧力をかけていたからだ。西谷さんは、「イスラム国」とはブッシュによるイラク戦争と占領によって生み出されたものであり、メディアを通じて、彼らが「残虐非道なテロリスト」と宣伝、刷り込みをされ、「テロとの戦い」の継続やむなしとする世論が作られていることは、軍産複合体にとって都合がいい、と指摘する。(編集部・一ノ瀬)
──イスラム国の支配地域を取材したことは?
西谷…2013年12月にシリア内戦を取材しました。トルコのリハニーヤを拠点にシリアに入り、シリア難民キャンプを回ったのです。自由シリア軍の勢力下でしたが、イスラム国との激しい戦闘が繰り返されていました。人々は「イスラム国」を「ダイシュ」と呼んでいます。ダイシュはもともと湾岸諸国やトルコなどがアサド軍を打ち倒すために資金と武器を援助してきたイスラム過激主義者による武装勢力です。
ダイシュの若い兵士は「死ねば天国に行ける」と洗脳されたり、あまりにもアサド軍や米軍の空爆がひどいので、その反発から自爆テロに走ることも度々です。恐怖政治による支配もあり、ダイシュは現地の人たちからは大変嫌われていました。
──イスラム国はどういう経緯で誕生したのですか?
西谷…イスラム国を生んだのは、イラク戦争とその後の米軍占領です。ブッシュは「大量破壊兵器」の存在をねつ造し、03年、イラク戦争を強行しました。イラクを占領した米軍はそれまでのイラクの軍・国家機構を解体して無政府状態を作り出しました。米国の石油メジャーや建設資本が入り込み、イラクを軍需、石油、鉄鋼、治安ビジネスの一大市場と変えてしまったのです。
その際、イラク軍の解体で約40万人の兵士が武器を持ったまま故郷に帰って行きます。彼らの多くはスンニ派。また官僚組織の解体でバース党官僚も失業しました。彼らが帰郷すると、米軍が暴虐の限りを尽くして多くの市民の虐殺を目の当たりにします。それが彼らのアルカイダへの転身、後のダイシュへの転身を後押しすることになりました。
イスラム国は元イラク軍の幹部2人の下で、国会にあたる評議会を設け、その下に県知事を配置しています。こうした組織的な支配ができるのも、フセイン時代の官僚がいるからです。イスラム国は単なるテロ組織ではなく、国家との中間組織といえるものです。
──「イスラム国を許すな」と、有志連合の動きが活発ですが…。
西谷…問題は、「イスラム国がなぜ生まれてきたのか?」という点です。そこを根本的に正さないといけない。ブッシュによるイラク戦争と占領・支配がなければ、イスラム国は生まれませんでした。
アフガンを見てください。この13年間、米国はタリバンを殺害してきましたが、市民も巻き添えにするので、その怒りからニュータリバンが生まれ、今やアフガン政府よりも強力になりました。「テロとの戦い」は破綻したのです。
私たちは冷静に歴史を振り返る必要があります。「テロに屈するな」と煽る安倍首相にだまされてはいけません。「残忍なように見えるイスラム国を作って、テロとの戦いをずっと続けたい」というのが、アメリカの本音なのです。空爆は軍需産業に利益をもたらし、空爆でもたらされた無政府状態によって、石油メジャーはイラクの原油の75%を強奪しています。
安倍首相が「テロとの戦いに万全を」というのは、集団的自衛権、武器輸出3原則の緩和などに結びつけられていきます。こうした「安倍政権の正体」をこそ私たちはしっかりと見ていかなければなりません。
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西谷さんが取材を分かりやすくまとめたDVD『シリア内戦イスラム国の正体を暴く』(47分、2015年1月、制作・イラクの子どもを救う会)ができました。問い合わせはメール・nishinishi★r3.dion.ne.jp(★を@に変えてください)まで。
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