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2015/1/31更新

福島より

甲状腺検査子ども107人にがん発症
福島県立医大の情報独占に抗し「患者会」の組織化へ

ふくしま共同診療所」運営委員
福島診療所建設委員会 呼びかけ人 佐藤 幸子 さん

ふくしま共同診療所ができて2年が経ちましたが、甲状腺エコー検査で、1_以下の嚢胞がたくさんある「蜂の巣嚢胞」と言われる病変を持つ子どもがたくさん見つかっています。県立医大は1_以下の嚢胞を無視していますが、診療所で経過を見ていくことにしています。

賠償と補償について

精神的補償として避難区域に指定された住民には、月額10万円が補償されています。しかし、その他の地域については、「賠償」方式で、被害者が被害額を申請して、加害者である東京電力が認めなければ出ないという仕組みになっているのです。

また、漁民には「漁業権」があるので、その補償が出ています。しかし、農民には「農業権」がありません。そのため、避難区域外の農民が無条件でもらえる補償金は、全くありません。農民が、「ここではもう農業ができない」と自分で判断して作付けしなければ、賠償は一切受けられないのです。まずは作って、それでも「売れない」あるいは「値段が安くて損害が出た」という場合のみ、賠償の対象となります。

風評被害は、こうして作らせて検査もろくにしないで市場に出したために、汚染作物が流通してしまい、拡大したともいえます。数年間、作付けを停止し、検査態勢を作ってから出荷すれば、風評被害はかなり防げたでしょう。広範な農地がこれだけ汚染されたのですから、農民に対しても、作付けする・しないにかかわらず、補償金として出すべきです。

小さな嚢胞が見つかった「A判定」の場合、再検査は2年後で良い、というのは医学的根拠がないので、3カ月または6カ月ごとに再検査をすることにしています。この診療所だけでも、既に千人ほどの子どもが再検査を受けています。また、被ばくの影響は子どもに限りませんので、家族で来てもらって全員検査を受けるようにしてもらっています。

甲状腺は小さな臓器なので、丁寧に診る必要があります。県民健康調査では 5分程度しかエコー検査をしないのですが、ここでは15分くらいかけています。

昨年8月24日に、子ども甲状腺検査の結果が発表されました。悪性がんの患者が、前回の89人から103人となりました。「100万人に3人程度」というのがこれまでの平均的発生率ですから、約30万人に対して100人というのは、桁違いの多さです。

ところが福島県民健康調査検討委員会は、「放射線被ばくの影響とは考えにくい」という、おかしな見解をとり続けています。原発事故との関連を否定し、がんの多発すら認めようとしません。

理由として挙げているのは 次のようなことです。@がんの多発の発見は、スクリーニング効果である(従来なら発見されない病症が、大規模調査によって発見された結果)、Aチェルノブイリ原発事故と比べて、事故当初の被ばく線量が低い、B子ども甲状腺がんの発生状況や進行速度も違う、C発生に地域差がない。

がんの多発がスクリーニング効果だと言うのなら、原発事故の影響が少ない西日本で大規模な子どもの甲状腺エコー検査をしてみればわかることなのに、実施しようとしません。

患者同士で悩みや情報の共有を

2巡目の検査が始まっていますが、県民の不信感が強く、受診率が極端に下がっています。各方面からの批判を受けて、@検査時間を長くする、A福島医大以外にも検査を委託して受診しやすくする、という方針を打ち出しています。

医大がエコー検査ができる病院を募集したので、ふくしま共同診療所も応募しました。ところが、データを医大に送るだけで、診断はしない、という委託条件を示したのです。データを集め、独占するという姿勢がここでも表れています。

また、甲状腺がんの手術をした患者に対して、「周囲に黙っているように」という指導をしています。将来の就職や結婚の際、不利になるから、と説明していますが、このため、手術を受けた患者間の情報交換の場が、全くできません。悩みや情報を共有し、励まし合うための患者会が組織できず、不安をかかえながら孤立せざるを得ない状況を生み出しています。当診療所の関係者が有志の立場で「はなしば」を立ち上げて、患者どうしが交流できる場を運営し始めたところです。

IAEAと情報操作/事故を小さく見せるためのデータ収集

IAEAが、南相馬市と田村市に研究施設を設置しています。そもそもIAEAは、原発を推進するための組織ですが、チェルノブイリ事故への対応を総括して、新たな原発事故が起こった際に住民は避難させない、という基本方針をもって福島で活動していることが、暴露されています。チェルノブイリ事故では、大規模に住民を移住させることで原発事故の影響の大きさが明らかになったからです。

福島では、事故の影響を小さく見せるためのデータを集めて、低線量被ばくの影響はなく、事故が起こっても住民は住み続けることができることを実証しようとしています。県民健康調査も、その一環だと見ることもできます。

帰還事業は棄民事業

避難生活が長引き、狭くて孤独な仮設住宅で無為に時間だけが過ぎてゆく、という非人間的生活に嫌気がさして、少々危険でも自宅に帰って余生を送りたいという気持ちは、ある意味自然です。被ばくの影響が出るのは20〜30年とも言われていますから、60才の人なら、仮設を出て住み慣れた自宅に帰るというのは、当然の選択と言えます。

しかし、被ばくの影響は既に出ています。私の周囲の人たちでも、体調を崩している人はけっこういます。被ばくとの因果関係を証明できないので、「加齢や季節の変化によるもの」と納得させられていますが、実際の因果関係は「わかっていない」だけなのです。高齢者は体力が落ちていきますから、放射能による健康被害が出やすいとも考えられます。

さらに除染は、基本的に宅地の周りだけです。田舎暮らしは、山野や農地に接してこそ価値があるのですから、被ばくは避けられません。

そもそも、事故後の生活を個人の選択にゆだねること自体が間違っています。避難生活の原因となった原発事故についての責任は、被災者には全くないからです。「ふるさとを離れる」という決断は、個人にとってあまりにも大きな決断ですから、政府が、事故の責任を明らかにしたうえで、帰還できない地域を宣言し、十分な補償をして移住をサポートすべきです。

そのうえで、生活困難地域をどう活用するのかを住民とともに考えることができれば、さまざまなアイデアが湧いてくると思います。無人で稼働する太陽光発電基地を作るのも一案でしょう。もともと土地は人間の専有物ではないのですから、「自然に返す」という考え方もあります。

福島の放射能被曝問題は、まだ始まったばかりです。福島の28年後は、現在のチェルノブイリにあります。汚染地域で生活を余儀なくされている人々の命を守るために、チェルノブイリに学び、50年後、100年後を見据えて、今何をなすべきかを決めなければならない、と考えます。

【付記】2014年12月25日発表で、甲状腺がんは4人増えて107人となっている。

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