2014/12/16更新
なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
原発下請労働者は、歴史的に日本の労働運動からほとんど顧みられずにきた。3・11原発事故以降、かつてない過酷な被曝環境下の事故現場で緊急作業が行われ、また、広範に撒き散らされた放射性物質のために多くの労働現場で放射線被曝が懸念される状況になっても、それは変わらなかった。
この問題に取り組むべく、2011年10月に有志による準備会として発足した「被ばく労働を考えるネットワーク」(以下、被ばく労働ネット)は、約1年にわたり学習会や討論集会を重ね、2012年11月に正式に設立された。
そして、その年から始まった国直轄の除染事業における労働問題を皮切りに展開された取り組みは、この11月で2年が経過した。ここでは、11月28日に開催された結成2周年報告集会の準備過程で議論されたこの2年間の成果と課題について、簡単に報告したい。
被ばく労働ネットは、被ばく労働問題に関心を持ち取り組む個人によるネットワーク組織で、現在参加・賛同人は318人、財政は賛同金とカンパでまかなわれている。この2年間で、収束・廃炉作業労働者や除染労働者の労働相談と労働争議、Jビレッジなどでの労働者向け情宣、労働・医療・生活相談会、春闘・統一要求行動、国・東電・元請業者への行動、書籍の発行や集会などを通した社会運動化、一般向け現地ツアーなど、多様な取り組みを行ってきた。
労働争議は、主に福島現地の2労組(全国一般いわき自由労組、全国一般福島連帯ユニオン)やフリーター全般労働組合などとの協力で行われてきた。
皮切りとなった楢葉町先行除染・Aizu construction争議では、それまでほとんど知られていなかった国からの「危険手当」が存在し、それが業者に中抜きされていることを暴いた。元請・清水建設および下請業者への争議を展開し、不払い労働債権全額を獲得するとともに、危険手当中抜き問題を全国に周知した。
続く田村市本格除染・電興警備保障争議では、危険手当不払いのみならず、偽装請負・違法派遣、劣悪な宿舎・食事環境、労災もみ消し、放射線管理手帳の不発行など、除染労働者が非人間的な使い捨て労働力として扱われている問題を社会化した。
現在も続く楢葉町本格除染・藤建争議では、労働者に対する暴力支配や恫喝、一方的解雇の実態を告発した。同・大成工業争議では、国のガイドラインにある適切なマスクも支給されず、現場の安全管理の杜撰さを告発する労働者を解雇するなど、事実上国と業者が一体となって問題を隠蔽している実態について、国と元請・前田建設工業を追及した。
田村市本格除染・松榮ワークス争議では、法で規定された一般・電離健康診断を労働者に受けさせず、健康診断書を偽造・でっち上げて労働者を使っている事例を具体的に示し、国と元請・鹿島建設を追及し、調査を開始させた。
福島第一原発収束・廃炉作業での労働争議でも、同様の重層下請構造による労働問題が蔓延していることを明らかにした。高橋建設争議(元請・東電環境)は、ヤクザがらみの手配ルートで失業者が各地から集められて原発内外のがれき撤去に投入され、いいように扱われている事例だった。サンシード争議(元請・アトックス)では、国・東電・元請の経費節減圧力で作業員の装備が軽装化され、賃金が削られるとともに、一方的な解雇・使い捨てが蔓延していることを問題にした。シンギ商事争議(元請・安藤ハザマ)では、汚染水タンクの溶接製造の現場で、放射線環境下にもかかわらず1日14時間にも及ぶ違法長時間労働が強制され、トイレにも行けずに失禁しながら作業をしていた事例を明らかにした。
これらの労働争議では、ほとんどが当該労働者の要求する不払い労働債権を獲得してきた。しかしその一方で、これらは個別争議での「解決」に過ぎず、重層下請構造による労働者の搾取・使い捨てという根本的問題を転換させる運動にはまだまだ遠い。
各問題に対する国・東電・元請業者の対応は素早く、現構造を維持しながら表面的改良で誤魔化されている。例えば、除染の危険手当不払い問題では「最低賃金+危険手当マイナス宿舎費等控除」で1万2千円前後の賃金と一般化され、事実上危険手当分はピンハネされている。収束・廃炉作業の長時間労働では、元請に対する労基署の一般的な指導が出されたに過ぎない。
このほかにも、被ばく労働ネットの取り組むべき課題は山積している。除染作業での安全対策や福島第一原発での危険手当のピンハネなど、ほとんどの労働者が不満に感じていることはわかっているが、それを具体的な闘争に組むまでの取り組みができていない。これは、問題の掘り起こしや受け皿としての力量の不足が反映している。
電話・090-6477-9358(中村) 【賛同金送り先】 郵便振替用紙に以下の記載をお願いします |
廃炉プロセスや現場の作業工程、緊急作業時の条件など、計画立案・法整備は、政策・経済が優先され、労働者の安全は二の次にされている。これらの構造的問題にメスを入れるには、問題の社会化・大衆運動化が欠かせない。現地拠点の設置も急がれるし、今後は健康被害の訴えも多数出てくるだろう。
これらの課題を一つずつ手がけ、典型的な使い捨て下層労働力となっている下請被曝労働者の安全と権利を獲得するために、被ばく労働ネットはさらに力量をつけていく必要がある。多くの皆さんの参加と財政的支援を要請したい。
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