2014/12/16更新
福島取材報告として、汚染ゴミ焼却場建設問題を掲載する。福島県下で仮設焼却施設は、合計19カ所(稼働中=8、建設中=6、計画中=5)。規模も、日量570d(相馬市)を筆頭に、500d(富岡町)、400d(田村市都路)、300d(浪江町)と、巨大都市なみの大規模施設だ。復興資金が大手焼却炉メーカーの利権になっている。(編集部・山田)
都路・川内の会」が集めている焼却炉建設反対署名(PDF)
署名の送り先は編集部までお問い合わせ下さい。
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環境省が進める汚染ゴミ減容化のための焼却炉建設に、福島県下で疑問の声が上がっている。なかでも、田村市都路町と川内村の境にある「東電南いわき開閉所(変電所)」の敷地に建設予定の400d/日という大型焼却炉計画には、数々の不審点がある。
まず、規模への疑問だ。環境省は、処理総量のうち農林系ゴミと下水汚泥を合わせて21万7千dを想定しているのだが、朝日新聞が各市町村に問い合わせてゴミの量を合計したところ、6万4千dという調査結果を報道している。さらに「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」が、独自に各市町村に対し焼却対象ゴミ量のアンケート調査をしたところ、合計約3万dという結果が出た。環境省は、実量の7倍を想定していたことになる。
環境省の見積もりが過大になっているのはなぜか?「3・11後に県市町村に確認したバーク(放射能に汚染された木材樹皮)の量から汚染ゴミの総量を推計した」と環境省は回答するのだが、バークと焼却対象物である稲藁や下水汚泥は全く無関係。説得力はない。
「除染がれきの保管場所に困った市町村が、燃やしたり、産廃業者に処理を委託して減少したのではないか」と語るのは、「放射能ゴミ焼却を考える都路・川内の会の馬上忠護さんだ。時間の経過とともに現実対応を迫られた市町村が、秘密裏に処理して減量することはあり得るだろう。しかしそれにしても、朝日による調査の3倍、住民組織の調査との比較で7倍となると、説明できない。
「もともと焼却炉建設は、過大な設備を作るためにゴミの量を過大に見積もる悪慣行が長年行われてきた」と指摘するのは、「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」代表の和田央子さんだ。和田さんは、環境省の推計について「どんぶり勘定による推計は、できるだけ過大な焼却炉を建てるための工作」と見る。2013年に行われた震災瓦礫広域処理の際も、2重見積もりなどで実際量の約6倍の見積もりが行われ、予算が組まれた。結局、実際処理量は住民らの追究もあって実態が明らかになるとともに減少し、4000億円ほどの予算が未消化に終わった。
利益の大きい大規模焼却炉を1基でも多く建てたいメーカー側の利害が優先され、必要以上の見積もりがなされるのは、3・11以前から行われてきた、焼却場利権の基本構図である。
今年11月末に焼却処理が終わった相馬市では、焼却炉稼働日数と稼働率(別表)を見ると、半分も稼働していない月が約半分を占める。「100歩譲って焼却が必要だったとしても、3基のうち1基あれば事足りたのは間違いない」と和田さんは語る。がれき見込み量=17万4千dに対し、実際燃やされた量は9万2千dと約半分強だった。(04年3月時点)
また、発注された焼却炉メーカーはタクマだったが、なぜか3基のうち1基はIHI製が混入されていた。環境省はこれについて「タクマが下請けとして発注したのではないか。IHIも復興に貢献したかったのだろう。(環境省は)民民契約の部分なので関知していない」などと驚くべき回答をした。
環境省が焼却炉の選定に関わっていないことなどあり得ないし、焼却炉メーカーが競争他社製品を発注することも考えられない。和田さんは、このようなあまりに非常識な言い逃れを3・11以降いやというほど聞かされているという。
「結局、焼却炉メーカーと結びついて、メーカーの利益に沿って計画が進んでいる」と指摘するのは、前述の馬上さんだ。
日量400dの焼却施設を作るという都路・川内村での住民説明会で、「ゴミの総量に根拠がない」と指摘する馬上さんたちに対し、環境省は「焼却炉の規模は決まったわけではない」と苦しい言い訳に終始した。
そこで「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」が田村市長に対し事業計画書の公開を求めたところ、数百億円規模の事業であるにもかかわらず、「仕様書も事業計画書もない」(田村市、2014年1月)と回答している。これも不思議だ。「まだ調査の段階で受け入れを決定したわけではないというのだが、地元説明会では、日量400d規模の焼却施設との説明がいったんはなされているし、そもそも、環境省から事業計画も示されていない事業の受け入れを承認する田村市議会の議論は、先に結論ありきでしかない。建設予定地の都路は田村市役所から約25qあり、焼却炉の影響は少ない。こうした理由で市当局も焼却炉建設には無関心になりがちで、「ゴミの減容化―除染促進―復興」のために必要悪という論理が通りやすいのである。
住民が密集する中心部から見えない遠い過疎地に焼却炉を建設して、市街地住民には知らせないで計画を進めるという手法は、原発建設と相似形だ。9月の田村市議会には、計画の白紙撤回を求める請願・陳情が提出されたが、いずれも反対多数で不採択となっている。
事業計画書の存在すらうやむやにされたまま、現地では7月末から環境省による事前調査が行われており、環境省は、「事前調査の結果を見て環境影響や建設可能かを判断する」としている。
ゴミ焼却場建設には秘密主義が横行している。鮫川村で行われている指定廃棄物焼却実証実験焼却炉は、8000Bq/kg超の農林系廃棄物の焼却処理による放射性物質の挙動、および安全性の確認を目的として、7億3千万円(3年間、解体費用含まず)で日立造船が受注した。
ところが、「住所すら非公開で、環境影響調査も行われなかった」(和田さん)という。さらに「公道から見えないように」建設された焼却施設は、稼働直後に爆発事故を起こした。
この事故報告書も、真っ黒で「公開」された。厚労省は「国家公務員法〈守秘義務〉です」と答えており、まるで秘密保護法の先取りだ。
さらに、地権者18名のうち2名は土地賃貸借契約を拒否したが、うち1名のHさんは同意書が偽造され、被疑者不詳のまま有印私文書偽造罪で刑事告訴している。
この後Hさんは、焼却炉の隣に村が敷設した仮設置き場と進入路についても地権者との契約が交わされていなかったことを突き止め、村長を不動産侵奪罪で刑事告訴。さらに国に対し操業差止を求める仮処分を申請したが、仮処分審理における環境省の主張は次のようなものだった―@どうせ使っていない土地だし、使おうとしても放射能で汚染されて使えない。A焼却事業を停止したら、6億7千万円の損害が生じる。BHさんには何ら経済的損害はない。まさに盗人の開き直りがまかり通ろうとしている。また、この過程で、契約したはずの4名の地権者は既に死亡していたことも明らかになっている。
地元住民が最も危惧するのが、放射能の拡散だ。環境省は、「バグフィルターで排ガス中の放射能は99%除去できる」としているが、あくまで実験室での理論値でしかない。実際の運転ではフィルターの目詰まりによって除去率は変わるし、鮫川村の実験焼却炉では、爆発事故を起こしている。焼却による放射能拡散は避けられないだろう。
焼却後に残る高濃度汚染焼却灰の管理も問題だ。焼却灰については、10万Bq/s超については、中間貯蔵施設での管理が義務づけられているが、10万Bq/s以下のものは、既存の「管理型」と言われる産業廃棄物の最終処分場に埋められることになっている。
南いわきの計画では、高濃度汚染ゴミだけでなく、県内各地から集約された稲わらなども燃やされる。これについて和田さんらは、「焼却灰の汚染濃度を薄めるためだ」との疑念をもっている。
処分される中でもっとも濃度の高いものは、焼却灰。汚染濃度を10万Bq/s以下にするためには、濃度の高いゴミと低いゴミを混ぜて燃やす必要があり、このため、燃やす必要のない極めて低濃度のゴミもかき集められている。環境省は、既に富岡町の民間処分場=エコテッククリーンセンターを処分地として決めている。これを利用するには、濃度を薄める必要があるからだ。
濃度規制も必要だが「総量規制が必要」との声もある。日量400dの汚染ゴミを24時間体制で燃やし続ければ、一体どれほどの放射能拡散になるのか?環境省には、監視体制も規制基準もない。「薄めて基準値以下にして放出すれば問題なし」でいいのか?との批判は、汚染水問題にも共通する。
福島での減容化政策は、復興の名の下に欲しいままに利権をむさぼり、建設のため環境を破壊し、排ガスとともに大量の放射性物質をばらまく悪しき公共事業の典型である。この上、@焼却灰の長期保管による地下水の汚染、A冷却用の大量の地下水くみ上げによる農業用水・生活用水の枯渇の危険、Bゴミの搬出入用ダンプによる渋滞・騒音・交通事故の危険性、などが指摘されている。
被災者支援への税金投入を惜しむ人はいない。しかし、福島復興を隠れ蓑にした利権あさりには、厳しい監視の目が必要だ。焼却場建設は、「地元住民の被ばく」という犠牲の上に築かれる大手焼却炉メーカーの利権が優先されて進められているようだ。
地球温暖化・放射能汚染の拡大を考えると、「焼却」というゴミの処分法そのものを見直すべき時代なのかもしれない。
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