2014/12/6更新
飯舘村で有機農業の草分け的存在である高橋さんは、全村避難指示により福島市松川町に避難先を自力で確保。夫婦と母親・長男の4人で避難生活を続けている。初めてインタビューした2011年10月は、避難生活にも慣れ始めた頃だったが、一貫して「帰村して農業を続ける」と言い続けてきた人だ。避難2年目には、近くで畑を借り、花の栽培も始めた。それも、「帰村の準備のために技術と気力を保つためだ」という。
今回、3回目のインタビューとなったが、初めて帰還への不安の声を聞くことになった。飯舘村で大規模な除染作業が始まり、高橋さんの家は1カ月前に除染を終え、畑も除染の最中だ。「家の周りの木も切ってすっきりしたので、もう一度ここでやり直そうという気分が、また湧いてきた」と語るが、裏腹に「浦島太郎のように、村に帰って玉手箱を開けたら、とんでもないことになるんじゃないか、地獄を見ることになるんだろう」との不安を語る。
「畑仕事が終わってオカリナを吹きながら夕日を眺めていると、本当に幸せを感じる」と語る高橋さんは、「心から農業が好きなんだなぁ」と感じさせる。その高橋さんが語る不安感は、政府による除染―帰還方針の内実を語ってもいる。それは、東電と政府の責任を不問にして、被害者に自己責任を押しつけるという棄民政策に他ならない。(文責・編集部)
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──帰還の準備は進んでいますか?
高橋…家の除染が終わりました。線量は、玄関などはだいぶん下がっていますが、雨樋の下や山からの水が流れるところなど、ホットスポットはあります。でも、これを気にし始めると帰れなくなるので、考えないようにしています。
今は、帰還に向けたトレーニング期間のようなものです。気力や技術を失なわないように動いている状態です。ただ、疲れは蓄積しています。避難の疲れと、作っても思うように売れない悩みです。
飯舘から避難してきた松川町で畑を借り、農業を始められた時は、「ここで準備し、やがて村に帰って農業を再開するんだ」という強い気持ちがありました。村に帰って農業ができれば何とかなるだろう、と単純に考えていたのです。ところが今は、「村に帰っても上手く経済活動が回るのだろうか」と考えるようになりました。花を作って、販売も含めて準備しているうちに、「そんなに甘いもんじゃないなぁ」と思うようになってきました。それでもやるしかないんですよね。
現時点では、切花だけでも作って、作る喜びを感じながら暮らしていければいいなぁ、と思います。私たちの世代は もうこれしかないと思いますし、これが精一杯の生き方なんだと思います。
飯舘村に帰って作物が作れるということだけで、気持ちがやわらぎます。でも次の段階として、売れなければ気持ちが萎えていくだろうとも思います。
飯舘村が高齢者の町になることは、覚悟しています。元気で働いてる間は自分の力で働いていきたいのですが、作るものが売れるかどうかは、心配です。
今は賠償金も入るので生活できていますし、何年かは賠償で食いつなぐことができるのでしょうが、所詮賠償金は一時的ですし、10年もすれば 何の支援もなくなっているはずですから、やがて地獄を見ることになるんじゃないか。今は良いけど、浦島太郎のように、村に帰って玉手箱を開けたら、とんでもないことに なってしまうんじゃないか、たぶんそういう苦しい暮らしが待ってるんでしょうねぇ。
──そういう悩みを相談する相手はいるんですか?
高橋…「飯舘村に帰って農業をやる」と言っている人は、私の知る範囲では、私以外に1人います。仲間のほとんどは、借り上げ住宅に住んで、近くに畑を借りて農業をやっている人もいますが、帰る人はいません。事故直後は、「俺は帰らない」という人の方が言い難そうに言っていたのですが、今は、「俺は帰る」と言うと、変な目で見られます。除染をしても線量が下がらないからです。
でも、女房が強い気持ちをもっているので、 俺もやっていけてると思います。今一番信頼できるのは女房です。
1カ月ほど前に、飯舘の家と畑の除染が終わりました。家の周りの木も切ってすっきりしたので、「もう一度ここでやり直そう」という気分が、また湧いてきたんです。「大変だろうな」という不安と共に、薪の残り火のようなものが、まだ心に残っています。
実際に帰還できる頃には、避難してから6〜7年も経っているでしょう。すると、体力もガタッと落ちていますし、70才近くになってどれぐらい頑張れるんだろう?気力が持つか?と考えてしまいます。
──再稼働への動きは強まっていますが…。
高橋…政治家の人で「私が悪かった」という人がいないですよね。これってとっても変だと思っています。原発を作ってしまった責任をはっきりして欲しいと思いますね。
被害や賠償についても、まるで他人事ですよね。次に待っているのは再稼働ですからね。原発事故で避難せざるを得なくなった私たちとしては、憤りを感じます。
再稼働についても、政治家が関わり首相が決定しようとしているわけですから、責任がありますよね。避難した人でないとこの苦しみはわからないんです。
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