2014/11/18更新
6月21日「Znetコメンタリー」
ブランドン・ジョンソン(シカゴ教員組合オルガナイザー、「ブラック・コーカス」委員長)
破壊的教育民営化嵐の矢面に立っているのがシカゴの黒人。黒人生徒と黒人教員はこの20年近く学校閉鎖の嵐に吹き曝されてきた。我々黒人地区の多くでは、昔からあった学校が姿を消し、文字通り砂漠化した。2001年以降、42000人のシカゴ黒人生徒が、学校閉鎖と教育「改革」(※注)の犠牲となり、教職員も解雇された。学校閉鎖の影響を受けた生徒の88%が黒人。昨年は、たった一年間で市長は50校を閉鎖、2001年以降10年間以上の犠牲者数と同じ数の犠牲者を作り出した。
閉鎖校の4校のうち3校までが貧困地区の隔離・差別された学校で、90%が黒人生徒、少なくとも75%が給食費無償または減免の対象者。しかも公営住宅解体対象地区でもある。住民たちは、住宅危機、失業、貧困、差別等々で苦しみ、追い打ちをかけられたように学校閉鎖。
閉鎖になると子どもたちは数マイル遠方の学校へ移される。対立グループの「ナワバリ」を通るので、よくもめ事が起きる。また、地域のつながりが希薄になり、新学校の教員や級友との繋がり形成には時間がかかる。それに、学校閉鎖・統合で、生徒の学業成績が向上することはないのは、学術機関の調査で明らかになっている。統合先の学校も元の学校と同じように教育資源が不完全な学校であることが多いからだ。
シカゴ大学研究班が2001〜2006年の小学校閉鎖に関連して生徒の追跡調査を行った。学校閉鎖の噂が飛び交った時点ですでに生徒の学業成績がガタ落ち、統合後2年ほどで何とか成績は元の水準へ戻ったが、向上することはまったくなかった。
黒人人口が圧倒的なブロンズヴィル地区とノース・ローンデール地区を見れば、学校閉鎖・統合の破壊的性格がよく分かる。今や両地区では歩いて通える公立学校はほんの僅かしか残っていない。地区教育委員会は、学校閉鎖は子どもたちを「低学力学校」から解放することだと宣伝したが、実際には、地域の学校から追い出された子どもたちの半数が行き着いた学校はレベル3に位置づけられる「底辺校」校で、レベル1学校への転校が許可されたのは5人に一人。辛うじて地区内で残ったた僅かの学校も無事というわけでなく、そのうちの4分の3は今年1年の執行猶予にすぎない。
公立学校閉鎖の嵐に並行してチャーター・スクールの数が増えたが、それがブロンズヴィルとノース・ローンデールの教育を改善したわけではなかった。チャーター・スクールのドロップアウト率は3・6%で、閉鎖前の公立学校の1・8%の2倍。
米国教育省の3月報告は、白人の比べると黒人の方が停学処分を受けやすく、未経験教員に担当させられることが多いと明らかにしている。特にチャーター・スクールでその傾向が強い。
シカゴには生徒が圧倒的に黒人なのに、黒人教員が非常に少ないかゼロの学校がある。黒人教員は一般に黒人生徒が多い貧困地区内公立学校、つまり閉鎖または「ターンアラウンド」され、教職員が解雇される学校で勤務させられてきたからである。1995年にはシカゴの教員数のほぼ半分が黒人だったが、2011年には26%になった。この26%は、その年閉鎖された学校の教員の65%、解雇された正規教員の40%を占めるようになる。当時、当局との雇用契約では、正規教員が生徒と同じ転校先の新学校へ赴任する権利が入っておらず、そのため被差別者黒人教員は特に解雇になる恐れが大きかった。黒人がその権利を勝ち取ったのは2012年のストライキ闘争の結果であった。それでも黒人教員の数は減り続けた。これは、収入ストップで黒人地区の経済を圧迫したばかりでなく、黒人少年・少女たちへの良い手本を失うことにもなった。このため、シカゴ教員組合には、かつての公民権運動のときと同じように、「黒人コーカス」が再編成された。コーカスは現役教員や退職教員を組織し、教員以外の職種の黒人労働者と連携して、学校ばかりでなく、郵便事業などの民営化と闘っている。
去年、市長がシカゴ史上最大数の公立学校閉鎖を行ったとき、公的財を守る市民とそれを民営化する市民の間に深い溝を刻んで、市民を分裂させた。教員組合は、「学校や公的財を守ろう」と訴えて3日間の市内デモを行った。さらに、学区教育委員会の選挙に親、教員、地域指導者などが立候補し、権力や金儲け屋の好きにさせない教育行政を実現しようとしている。例えば、ライアーソン小学校がある学区では、我々の立てた候補者が、テスト教育反対、教育予算の充実、公立学校をチャーター・スクール化から守れというスローガンを掲げて、勝利した。
これが示すように、民営化政策を変更させるためには政治的闘争をしなければならない。知識伝達や管理をめぐる闘い自体も一種の政治闘争である。学校民営化に反対する闘いは、結局すべての不正に対する闘いと同じである。
※注…オバマ政権は、学校改善(インプールヴメント)を学校改革(ターンアラウンド)と呼び、「レース・トゥ・ザ・トップ」(成績順位競争)という競争原理を採用、底辺校を潰し、浮いた教育費で一部の生徒を私学やチャータースクールへ回す民営化政策をとってきた。
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