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2014/10/3更新

大阪西成特区構想

釜ヶ崎の潜在的資産価値に目をつけた資本
「大阪都構想」見すえた釜ヶ崎の解体と巨大再開発

「西成を変えることが、大阪を変える第一歩」「西成区については、お金と人を使って、とことん政治の力を注入しないと、街なんて簡単には変わらない」─2011年12月の大阪市長就任以来、橋下市長は、『西成特区構想』を着々と進めている。

「西成を変える」とは、釜ヶ崎の再開発に他ならない。橋下は、釜ヶ崎をどう変えようとしているのか。釜ヶ崎のボランティア団体で活動しているAさん(仮名)に話を聞いた。(編集部一ノ瀬)

──釜ヶ崎の現状は?

A…相変わらず求人は少ないです。日当9000円の仕事が多いですが、部屋代・食費3500円を天引きされるので、日曜や雨の日はマイナス収支になります。仕事を終えて飯場を出る時は、「たったこれだけしか残らへんのか」と嘆く労働者は多いです。

ただし、福島関連の除染や震災復旧などの仕事は、目立つようになってきている気がします。

今では、手配師が携帯電話で、直接労働者に求人の連絡を入れることが多い。早朝からあいりんセンターに手配師の車がひしめく光景姿を見ることは、なくなりました。一方で、センターの外で求人している車が目立つ。こういう業者は悪条件であることが多いようです。

「働きたくても仕事がない」状況が続いているので、生活保護受給者は、増え続けています。一方、目立たなくなってきていますが、野宿生活者も依然として多い。かつてのように露骨でないにせよ、施設や行旅病院への収用とその他の排除によって、野宿者は市街の中に散り散りとなり、不可視化されているという気がします。

ドヤ街も、生活保護受給者向けに福祉アパートに看板をかけ替えたり、外国人バックパッカーを新たな客層にしています。高齢化によって、「労働者の街」から「福祉の街」へと変わっているのが現状です。

「いずれお亡くなりになる人たち」

──橋下が西成にこだわる理由は?

A…橋下の「西成特区構想」とは、釜ヶ崎にある公共資産を民間に売り払うための準備です。彼は「西成区に転入してくる子育て世代を対象に、市民税や固定資産税を一定期間免除する」「小中一貫校を設置する」などと、威勢のいい話を次々とぶち上げるけれど、住民のための先々のビジョンは、実のところ何もありません。

釜ヶ崎は交通の便に恵まれた場所です。阪神高速や国道26号線・43号線がすぐそばを通り、JR・南海・市営地下鉄の駅がある。隣町は「大阪の南の玄関口」=天王寺、阿倍野。日本で最も高い超高層ビルとして3月に全面開業した「あべのハルカス」は、この地域の再開発の核となった事業です。

そうした条件を考えると、釜ヶ崎の潜在的な資産価値は巨大です。民間の移転の前に、ゴミの不法投棄や覚醒剤の売買など、「治安」の問題を「解決」する必要があります。釜ヶ崎の「浄化」を進めたいのが、橋下の本音でしょう。これこそ、「西成特区構想」の本質です。そこに日雇い労働者・野宿生活者・生活保護受給者への視点は全くありません。あったとしても、アリバイ的です。

たとえば、これまでの西成特区構想有識者座談会で、野宿生活者・高齢の労働者・生活保護受給者について、「いずれお亡くなりになる人たち」との発言が何度も出ています。発言したのは座談会の座長である鈴木亘・学習院大学経済学部教授で、大阪市特別顧問でもあります。新自由主義の経済学者で、橋下市長のブレーンです。そんな立場の人間が、釜ヶ崎の人々に対してそういう認識を持っていることを知るべきです。鈴木氏は、大阪都構想・地下鉄民営化を進めたい上山信一氏(同じく大阪市特別特別顧問・慶応大学教授)が招請したのでしょう。

近鉄・南海資本による大規模開発

──売却地の話は?

A…釜ヶ崎で売却される際の目玉は、「あいりん総合センター」の土地です。1970年に開設されましたが、老朽化・耐震性が問題になっています。大阪市は、改築・耐震補強・移転・廃止の案を検討してきましたが、8月18日の西成区政会議の場で橋下市長は、「センターの規模は縮小し、地区内に移転する」という方針を出しました。移転が実現すれば、跡地が空くわけです。

センターは、JR・南海のすぐ南側です。加えて、JR新今宮駅のすぐ北側には、大阪市浪速区が管理する約1万3910平方bの空き地があります。ここと一体化して売却すれば、大規模な再開発が可能になり、資本にとってもおいしい話です。

駅北側の敷地は浪速区になりますが、「維新の会」がまとめた大阪都構想の区再編案で、西成区は浪速区・西区・中央区・天王寺区とともに新「中央区」として再編される予定なので、その再開発事業として位置づけられているのでしょう。

売却はまだ具体化していませんが、買い手として考えられるのは、「あべの再開発」を手がける近鉄資本、あるいは「なんば再開発」に関わる南海資本です。橋下が進める大阪市営地下鉄の民営化とセットで考えれば、釜ヶ崎再開発はさらに魅力的なものになるでしょう。

釜ヶ崎「浄化作戦」とまちづくり検討会議

──「西成特区構想」にモデルはあるのですか?

A…西成特区構想とは、大阪都構想と一体のものですが、モデルは1970年代のアメリカ・ニューヨークの「ジェントリフィケーション(都心部の再生のための高級化)政策」です。

当時のマンハッタン区ダウンタウンのあるソーホー(地名)は、1950年代には倉庫や零細工場が並んでいましたが、治安の悪化が問題になっていました。もともと歴史的建築が多いこの地区は、家賃が安いこともあって、お金のない芸術家やデザイナーたちが集まるようになり、カウンターカルチャーの中心地となりました。それが若い富裕層を呼び集めるようになった結果、ソーホーには高級アパートや高級レストランが増えて家賃が上がり、80年代以降、高級住宅街と変貌した歴史があります。富裕層の流入によって、それまで暮らしていた貧困層が町を追われる結果になったのです。

釜ヶ崎でも、アートで地域を活性化しよう、という動きも出ているようです。この動きが橋下に絡め取られて、ジェントリフィケーションの尖兵として利用されることがなければいいのですが…。

──釜ヶ崎への影響は。

A…今年4月、大阪市・府と大阪府警は、「あいりん地区」の環境改善に取り組む5カ年計画を発表しました。市・府は、この計画に2014年度で5億円の予算を計上。覚醒剤など薬物対策、通学路の安全対策、ゴミの不当投棄対策として、監視カメラを66台増設する予定です。予算額は1億2700万円にもなります。

「安全対策」とは野宿者排除でもあり、LED照明に照らされた路上には、野宿者の姿は見られません。

大阪府警は「違法露店ゼロ」を掲げて、パトロールを強化してきましたが、現在、その目標はほぼ達成されました。今年の夏には、西成署の警官が釜ヶ崎の四つ角に立って見張りをしていましたが、その姿は、とても異様でした。

いま大阪市は、行政だけではなく自治会や社会福祉協議会、支援団体や労働組合に声をかけ、「あいりん地域のまちづくり検討会議」を組織するなど、地域住民を巻き込んだ議論をおこなっています。「オール釜ヶ崎」で問題に取り組む、という形を取っていますが、西成労働福祉センター・大阪社会医療センター附属病院の労働組合は排除されています。そもそも、当事者である釜ヶ崎の労働者や野宿生活者に、告知も説明もされていないのは、大きな問題です。住民の意見は十分に聞きました、議論しました─というアリバイづくりに過ぎません。

巧みな分断/ソフトな排除

これまで大阪市は、釜ヶ崎労働者・野宿生活者に対して、収用と排除で対応してきました。しかし橋下市長は、「『みんなここから出てってください』というやり方はしません」と言っています。その代わりに、「釜ヶ崎のクリーン化」についても、民間活力を導入しよう、というのが狙いです。

釜ヶ崎ではすでに地域でゴミの不当投棄を監視する会社を作って、労働者の雇用を生み出そうという動きが出ています。いわば警察・行政の下請けをさせられるのです。「仕事になる」と言われれば正面から反対しにくくなるし、住民・労働者の分断・相互監視につながる可能性が大きいのです。

沖縄・辺野古でも、基地反対運動の警備に民間会社が動員され、反対する県民と対峙させられていますが、それと同じ構図です。権力は直接手を汚さないが、行われていることは巧みな分断、ソフトな排除であることは変わりありません。

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