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2014/8/23更新

韓国・ソウル現地レポートB

「住民主導村共同体政策」「青年雇用ハブセンター」

「人とプロセス」重視する地域共同体・青年政策
事業より「人の成長」「人間関係」重視の「住民主導村共同体政策」

行政が住民自治をサポートする場合、そこには、「お仕着せ」「トップダウン」の危うさが付きまとう。「行政が計画を立案」「市民は手を上げてそれに応募」「住民の主体性は問題にされず、あとは予定通りに実行」「成果だけが問題」というように。かつて1970年代に、当時の朴正熙大統領が政府主導でおこなった「セマウル運動」が典型だ。

ソウル市は、それを「住民主導型」の地域共同体づくりに革新することを目指している。「住民主導村共同体政策」と呼ばれるものだが、そのモデルは、ソンミサン・マウル(前号で紹介)だ。あくまで「人とプロセス」が重要という観点から、朴市長は「主体は住民であって、政府(地方も含む)ではない。公務員が出しゃばるな」という点をソウル市行政に撤退して浸透させる「行政革新」、市民に対しては「主体は住民であって、政府でも活動家でもない」という「市民社会革新」を繰り返し訴え続けている。

ソウル市は「住民主導村共同体政策」(※A)を推進するために、さまざまな改善をおこなった。その中身は、@事業よりも「人の成長」「人間関係」を重視する、A事業を「パッケージ化」するのではなく、住民がバイキング式で必要に応じて細かく選べるようにする、B予算の項目を細かく定めていない包括予算制の導入(あらかじめ予算の使い道を制約するのではなく、住民の裁量に任せるため)、C「成果」を1年単位で、可視的・計量的な部分だけで評価しないように、評価システムを改善する、D住民が3人集まれば申請できるように条例を変更、E2012年8月に中間組織として「マウル支援センター」をオープン(運営は民間活動家らが受託)…などだ。

こうして朴市長がスタートさせた「住民主導村共同体政策」は、成果を上げ始めている。朴市政がこの「共同体政策」をスタートさせた2012年から13年の間に、約5万5000人の住民が、相談や事業の提案・実行などの形で関わったそうだ。「共同体政策」に関わった住民はどういう顔ぶれかというと、女性が60%、世代別では青年(19〜39歳)49%、ベビーブーマー(48〜67歳)が25%となっている(2013年の村プロジェクト)。

事業については、「共同の問題意識」「自主的な運営の意向」があれば、規模の大小は関係ない。内容も、住民同士が集い合う町カフェ、町の懸案について健全な議論をおこなう、みんなで雇用を創出する町企業、町の祭りなど、提案される内容は多岐にわたる。この2年間で、200億ウォン(=約20億円)の支援がおこなわれている。また、その中で住民同士の関係が広がりを見せている。

1997年のアジア通貨危機によって、当時の金泳三政権は「グローバリゼーション」を掲げ、市場原理主義・競争強化・規制緩和を推進した。それ以降、韓国は現在に至るまで新自由主義の流れの中にある。それによって、貧富の差・地域間格差が拡大した。

もともと朝鮮半島には、助け合い・分かち合いと共同体の文化がある。しかし、訪韓団顧問の金光男さん(在日韓国研究所代表)によれば、特に新自由主義がまん延するようになって、韓国では助け合いの意識が衰退し、家族・地域などのコミュニティ崩壊が問題になっているのだという。

朴市長が取り組む「ソウル市住民主導村共同体政策」は、ソウル市による地域共同体(コミュニティ)づくりの中間支援事業である。その狙いは、@共同体によって人々のつながりを取り戻すこと、と同時に、A貧困・犯罪・青少年問題などの都市問題を解決すること、にある。

若者たちの仕事・生活・活動の基盤「青年雇用ハブセンター」

7月10日、「東アジア青年交流プロジェクト」韓国訪問団は、ソウル市役所を後にして、恩平区にある「ソウル市青年雇用ハブセンター」(※注B)を訪れた。

大学か病院?と見間違えた立派な建物は、もともと国の保健施設部の建物だったそうだ。1階のフロアは、壁に天井までの高さの木製の本棚があり、ゆったりとしたスペースにテーブルが並んでいる。ノートパソコンで黙々と作業していたり、本や新聞を読んだり、数人の仲間で寄り合って話をしたり、とまるでどこかの図書館か、開放的なカフェのような雰囲気だ。

1日の利用者は約100人ぐらいで、20歳代後半・大学生の利用が多いそうだ。

非正規雇用、ワーキングプア、失業、貧困、ひきこもり、ニートなど、若者を取り巻く問題は、日本と同様に韓国でも大きな社会問題になっている。韓国では2003年頃から青年政策への取り組みが始まっているが、青年の雇用状況は、いまだ厳しい状況にある。「青年の危機は、社会の危機」という思いが、このハブセンター設立の根底にある。

ハブセンターの主な目的は、@青年の活動と集まりへの支援、A若者の総合学習の支援、B地域において仕事と生活がどのように関わることができるかを追求し、実際にやってみる場を設定する、というもので、直接的な就労支援ではない。青年コミュニティの活性化や、自らの生活の主体となる若者をいかに育てるか、若者自身がいかに主体となってアプローチしていけるのか、に力を入れている。先に紹介した「村共同体政策」の青年版と言ったらいいだろうか。

センター長のジョン・ヒョグァンさんが、ハブセンターを「仕事、生活、活動のプラットフォームとして考えています」と語るように、現実に失望せず何かをやってみたいと考える若者が集まり、出会い、語り合い、仲間とつながる空間というイメージだ。

具体的には、3人以上の仲間がやりたいことを申請すれば、サポート(会議と活動に必要なコミュニティ運営費の支援)の対象になる。また、定例会を通じて他のコミュニティと交流する中で、人を集めたり、コミュニティの持続や活動停滞を打破するノウハウを学んだりできる。

またハブセンターでは、さまざまな分野で活動する若者の声を拾い、若者が直接ソウル市の青年政策を作っていく「青年政策ネットワーク」を発足させた。仕事─労働、住まい、生活セーフティーネット、文化、女性など、具体的な議題別に小グループに分かれて議論して発表し、政策を実現させるというもの。

問題解決に取り組む若者たちが頼りにできる場所、より良い暮らしと社会のための仕事に関心がある若者たちの「支え木」、それがソウル市青年雇用ハブセンターだ。 (次号、最終回)

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