2014/8/9更新
7月21日「Zコミュニケーション」 ペペ・エスコバール
(ブラジル人。香港のアジア・タイムズの移動特派員、PTとTomDispatchのアナリストで、米国から東アジアで活動)
政治的にねじ曲げられた戦犯判決が、洪水のように世界を駆け回っている。マレーシア航空機悲劇―4カ月で2度目―ロシアの武器援助を受けた親ロ反乱派のテロで、主犯はプーチン。それがすべてだ。
理由は?CIAがそう言うからだ。ヒラリー・クリントンがそう言うからだ。CNNからFOXにいたるアングロ・アメリカン企業メディアがそう放送するからだ。米合衆国大統領が公式にそう言ったからだ。
口火を切ったのは、航空機墜落直後に出されたネオ・ナチのキエフ政権の声明であった。続いて、米国の「諜報専門家」たちが、口に泡を吹いてロシア=親ロ派犯行説を繰り返す。実に見事な合唱だ。
プーチンはMH17便悲劇の客観的調査を強調。「客観的」というのは、米政府が作り上げるフィクション的国際社会―米国の子分や太鼓持ち社会―による調査ではないという意味である。
少し客観的に観察するだけでも、いろいろなことが明らかになる。MH17便は通常の飛行ルートを200qも北へ外れ、まさに戦闘地帯の上空へ突入した。なぜか?マレーシア機の機長は、あの地域を担当するキエフの管制塔からどういう指示を受けたのか? キエフの政権はそれについて、口を閉ざしたままだ。管制塔とMH17便の間の交信記録を公表すれば、理由が分かる。実際、前の悲劇、3月のMH370便の行方不明事件では、マレーシア管制塔が交信記録を公表した。
しかし多分、公表はないだろう。ウクライナ保安庁がそれを押収したからだ。なぜ通常ルートを外れたか、爆発前に機長が何を見、何を聞き、何を言ったかについて、不正な細工のない真実を知ることは、多分無理だろう。
一方、ロシア国防省は、キエフ政権の地対空ミサイル発射台が墜落現場付近で行動中だったことを確認している。ウクライナ政府軍は、少なくとも27発射装置を備えたブーク防空システム(中・低高度防空ミサイル・システム)を展開していた。これらのミサイルは、100q上空の飛行体を撃墜する能力がある。
ロシア軍は、ウクライナ軍がブーク防空システムと組み合わせて使う監視レーダーをスティラ(ドネツクの30q南にある村)に配備し作動させていたのを、レーダー波を探知して、発見した。このレーダーは、MH17便の軌跡情報を同機飛航路の射程内に配置されていたミサイル発射台に伝えることができたはずだ。
ブークシステムのレーダーの照準範囲は、最大50マイル(80q)。MH17便の飛行速度は毎時500マイル。だから、かりに親ロ反乱派がどこかからブークやレーダーを手に入れてMH17便をキエフ軍の輸送機と間違って攻撃したと仮定(西側の主張)すると、5分以内に上空全体を全ての高度にわたって探知し、すぐに探知した飛行物体をロックオンしなければならない。野戦部隊にそんな精巧な技術があるだろうか?もし探知できたとしたら、軍輸送機がそんな高度を飛ぶはずがない、とわかるはずだ。
それに、キエフの管制塔に勤務していたスペイン人カルロス管制官の、実に奇妙な事件がある。彼はMH17便をリアル・タイムで追っていた。彼は気が狂ったようにツィッターでつぶやいていたが、突然彼のアカウントが閉じられ、彼自身が行方不明となった。
カルロス管制官の判断をまとめると、ミサイルは、ウクライナ軍ではなくてウクライナ内務省の命令で発射された。内務省の治安関係はアンドレイ・パルビーの掌握下にあり、彼は米国のネオ・コンと、ウクライナのネオ・ナチ集団バンデーラ主義派(極右民族主義者ステパーン・バンデーラを師と仰ぐ集団で、「バンデーラの国」樹立を目的としている)と密接な関係にある人物である。
もちろん、マレーシア機撃墜が誰の利益になるかという問題が残る。民間旅客機撃墜が、ロシア政府やウクライナ東部の連邦主義者の利益になると思うのは、末期症状的脳死患者だけであろう。一方、キエフ政権には、手段も、動機も、うまくやり遂げるチャンスもあった。
もう一つ、タイミングの問題がある。MH17便の悲劇は、BRICSが米ドルを迂回するIMFと世界銀行に対する対抗手段を発表した2日後に起きた。また、イスラエルがガザに対する民族浄化作戦を進めようとしているときでもあった。しかも、マレーシアは、ブッシュら米国ネオコンとイスラエルを人道に対する罪で有罪と決定したクアラルンプール戦争犯罪委員会が開かれた場所でもあった。
したがって、攻撃によって利益を得るのは米国である。なぜなら、@この事件で「カオスの帝国」(何年か前にサミール・アミンが作った言葉で、当時は米国、日本、ドイツ、プラス弱体化したソ連と第三世界の買弁を指した)は休戦を得る(その間にガタガタになったキエフのネオ・ナチ民兵組織を立て直すことができる)、A東ウクライナ人に「テロリスト」というレッテルを貼ることができる、Bロシア、特にプーチンに永久の汚名を着せることができる。たった数分の作業で、NATOにとって、プレゼントをもらうようなものだ。
真実究明は、ロシアの情報に頼るしかない。7月24日にウクライナで起きたことを偵察・追跡しているはずだ。テレメトリー(距離測定器)やレーザーや人工衛星などに記録されている膨大なデータをじっくり調べれば、どこからどんなミサイルが発射されたか、またその発射台からの通信などを探知できるだろう。
もしもウクライナの親ロシアの反乱派の誤爆だったことをデータが示せば、ロシアは渋々でもそれを明らかにしなければならない。キエフ政権の犯行なら、ロシアは直ぐにでも公表するだろう。いずれにしても、西側の反応はもう分かっている。「ロシアは嘘つきだ」という大合唱になるだけだろう。
去る6月にプーチンは、「ポロシェンコが休戦延長の説得に応じていたら、こんな悲劇は起きなかっただろう」と言ったが、まさにそのとおりだ。少なくとも自国上空を通過する旅客機の安全を確保できなかった点だけでも、ウクライナ政府には責任がある。
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