2014/8/9更新
訪韓2日目の7月11日。「東アジア青年交流プロジェクト」韓国訪問団の一行は、ソウル市麻浦区にある「ソンミサン・マウル」(※注)を訪れた。麻浦区は、ソウル市中西部、漢江のすぐ北岸に位置する、緑豊かな地域である。
まずはバスを降りて、歩いての「ソンミサン・マウル」ツアー。人口約1000人、住民の大半は30〜40歳代の子育て世代だという街は、閑静な住宅街で、穏やかな雰囲気だ。
ソンミサン・マウルの歴史は、1994年にさかのぼる。当時、ソンミサンは外から引っ越してきた若い家庭が増えていた。共働きで子どもが1〜2人、という家庭がほとんど。画一的な幼稚園の姿に疑問を感じた25組の共稼ぎ世帯が、「お金を出し合って、自分たちの求める保育園を、自分たちでつくろう」と考え、共同育児施設「私たちの子どもの家」を設立した。
その後、子どもたちの成長や、生活の中でのニーズに応じて、学童保育やフリースクールに活動が発展していき、2000年には「麻浦ドゥレ(助け合い)生協」(組合員・8500世帯)が設立される。これは、地域との関係を子どもを持つ親だけに閉じるのではなく、「安全な食」をキーワードに、子育てなどのさまざまな問題を地域全体で広く取り組む受け皿となった。
2001年、ソウル市はソンミ山に配水施設を建設する計画を発表する。ソンミ山には、住宅街のすぐ隣に雑木林があり、子どもたちの遊び場、大人の憩い・運動の場となっていた。子育て世代の新住民と、以前から暮らしていた旧住民は、連帯して山の自然を守る運動を展開、計画を中止に追い込んだ。この出来事は、コミュニティのつながりを深め、急拡大するきっかけとなった。
今では、ソンミサン・マウルの活動は、14の協同組合・70カ所の店舗・施設を運営している。育児・教育(学童保育、12年制フリースクールなどもある)にとどまらず、さまざまな分野にわたっている。
食と生活(生協、総菜屋、コミュニティカフェなど)、住宅(コーポラティブ・ハウス)、エコ・ライフ(リサイクル・ショップ、天然素材石けんなど)、自然保護(開発反対運動、自然保護施策の検討会)、コミュニティ活性(地域通貨や共済事業、低所得者支援、コミュニティFMなど)、まちの施設(劇場、図書館など)、住民サークル(合唱団、伝統楽器、写真・映像、スポーツ、劇団など)、集会(まちの祭、運動会・文化祭、タウン・ミーティング、政治サロン、など)。
いずれも、ソンミサン・マウルの住民が、自分たちの必要に応じて議論し、設立・運営しているものだ。たとえば、コミュニティ・カフェは、アトピーの子どもの「アイスクリームが食べたい」との声に応えようとできたもの。惣菜屋は、共働き世帯などの忙しい人たちのニーズから作られた。小・中・高12年間の教育を行うフリースクール「ソンミサン学校」は、入試中心教育・エリート指向の教育でなく、「共に学ぶ」ことを大切にしたいという思いから設立されている。
いずれの事業も、政府・自治体からの継続的な援助を受けることなく、独立採算で運営されている。失敗した例もあるが、ソンミサン・マウルは、「やりたいことを口にしたら、実現してしまう街」と自称している。@わがまま歓迎、Aけんかワクワク、B優秀なリーダーは要らない、C仲間とのリスクは楽しい、D意見一致を頑張るより、やってみる─が、《ソンミサンする5カ条》だそうだ。
韓国内で、こうしたマウルは50以上あるそうだが、ソンミサン・マウルが最大規模だという。朴元淳ソウル市長は、ソンミサン・マウルのように、住民主導型のまちづくりを重要視している。次号では、その中身を紹介する。
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※ソンミサン・マウル…「ソンミサン」はソンミ山(標高66b)のこと。「マウル」とは、人々な自発的に共同して活動するコミュニティを指す。「ソンミサン・マウル」は「ソンミ山コミュニティ」といった意味の地域の名称で、行政区としての名前ではない。 (次号に続く)
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