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2014/8/3更新

ガザ紛争をめぐる誤解

紛争の発端は? イスラエルの攻撃対象はどこか? 
休戦の行方は? ハマースは民間人を盾にしているのか?

ガザ侵攻を契機として、投石による抵抗運動=「第3次インティファーダ」が始まった。ガザ・西岸地区に加えて、アラブ系イスラエル人も加わった抵抗運動だ。

大手メディアはこれを「イスラエル軍とハマースの暴力の応酬」であるかのように描くが、事実は違う。大手メディアが流布するイメージから離れて、事実を追っていけば全く違った真実が見えてくる。

回答者

ダイアナ・ブット(D・B):人権弁護士、ラーマッラーを拠点に活動するアナリスト。PLOアッバース議長の顧問も務めた。アル=シャバカ:パレスチナ政治ネットワークの政治アドヴァイザー。

ジョージ・ビシャーラート(G・B):カリフォルニア大学サンフランシスコ校ヘイスティングス法律カレッジ教授。パレスチナ研究所上級フェロー、パレスチナ法評議会の元法律コンサルタント。

ナディア・ヒジャーブ(N・H):アル=シャバカ:パレスチナ政治ネットワーク代表、パレスチナ研究所上級フェロー。

京都大学大学院教授・岡真理さんが、ML「パレスチナ・フォーラム」で紹介した記事を要約して転載する。

何が原因なのか?攻撃の実態とは?停戦提案の経緯と中身は?など、基本的な問いに3人の識者が答えている。(編集部)

※ ※ ※

ガザ紛争に関してさまざまな「誤解」が流布しています。たとえば、イスラエル人少年3人の殺害が今回の攻撃の発端となったとか、これはイスラエルの自衛戦争であるとか…。これらガザ紛争にまつわる「誤解」について、3人の識者が事実や法的根拠を提示しながら、それが誤解であることを詳しく説明しています。

──何が、今回の暴力の爆発を引き起こしたのでしょうか?

ダイアナ・ブット(D・B)…4月に、[ファタハとハマースによる]パレスチナ民族統一政府の発足が発表されるや、イスラエルはそれを破壊することに照準を定めました。まず、政府を孤立化させようと圧力をかけ、それがうまくいかないとなると、3人のイスラエル人の少年たちの死を利用して、ガザのハマースを悪魔化しました。

少年たちが行方不明だった18日のあいだに、イスラエルは西岸の、何百人ものパレスチナ人を逮捕しました。その中には、11名の議員と、3年前、捕虜交換で釈放された59名のもと囚人たちが含まれます。これらの人々は、3人のイスラエル人少年の死に何等かのかかわりがあるという証拠などまったくなしに逮捕されたのです。

さらに、イスラエルは、西岸の10人のパレスチナ人を殺害しました。うち3人が子どもです。そして3軒の家を破壊しました。イスラエルはガザ地区に空襲をおこない、国連が報告しているように、10歳の子どもを含む2人を殺害しました。これらはすべて、ハマースのロケット弾がガザから一発も撃ち込まれていない段階で起きています。

ジョージ・ビシャーラート(G・B)…若者たちは誘拐された直後に殺された、という証拠があがっていたにもかかわらず、イスラエル政府はそれを隠匿して、イスラエルの世論を狂乱状態に煽り、それが、ムマンマド・アブー・フデイルを焼き殺すというむごたらしい事態に直結しました。これらのシニカルな行動が、ガザの境界線に沿って暴力のエスカレーションを招きました。

ナディア・ヒジャーブ(N・H)…事実を言えば、イスラエルによるガザに対する総力を挙げての攻撃は、遅かれ早かれ起きていたはずです。イスラエルは、ガザに対する自分たちのアプローチを「芝を刈る」と呼んでいます。つまり、2年か3年に一度は必ず、ハマースを攻撃し、弱体化しなければならない、ということです。ハマースが停戦に積極的であり、停戦を尊重しているということが証明されているのに、です。

これが、イスラエルが、西岸と東エルサレムの占領と植民地化、そして、ガザの占領と封鎖を「経営する」やり方の一つです。

──イスラエルは自衛のために行動しているのですか?

D・B…ガザ地区(および西岸)に対して過酷な軍事占領を続けているという事実ゆえに、イスラエルは自衛を主張することはできません。それどころか、イスラエルは、その軍事支配下で生きるパレスチナ人を庇護するという国際法上の義務があるのです。

さらに、イスラエルは、何十年にもわたって軍事占領し、植民地化している土地の住民たち、しかも封鎖下においている住民に対して「自衛」を主張することはできません。停戦だけがパレスチナ人とイスラエル人を同じように守り、そして、占領と封鎖の終結こそが、恒常的平和への道を整えます。

定期的に「芝を刈る」

──イスラエルは、ハマースを標的にして攻撃しているのですか?

D・B…いいえ。イスラエルは、民間人の住宅や民間のインフラを攻撃していると思われます。今日までに、国連の算定によれば、殺された者たちの80%が民間人で、150人が子どもです。イスラエルは、病院や学校、モスクも爆撃しています。これらはすべて、国際法で標的にするのが違法とされているものです。

2000軒以上の家とその近隣の地区が、イスラエルの攻撃で破壊されました。このようなことは、国際法とは矛盾します。住宅など民間の構造物が標的として合法の標的とされるのは、軍事目的に使用された場合だけです。

戦争に関する規定に関するジュネーブ条約追加議定書のTは、「信仰の場や、家その他の住居、学校といった、通常民間の目的のために使用される対象が、軍事行動のために効果的に使用されているかどうかが疑わしい場合には、軍事目的には使用されていないと推定しなければならない」となっています。

イスラエルは、パレスチナ人の家々が司令センターとなっていると主張していますが、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、こうした主張を退けています。

民間人と戦闘員を区別しない攻撃は、違法です。イスラエルの論理を使えば、過去あるいは現在、イスラエルの兵士や警察官がいるいかなる家も合法的標的と言うことになります。軍が存在するところ、たとえば、テル・アヴィヴの防衛省も、合法的標的です。明らかに、このような論理は受け入れがたいものです。

これはビデオゲームではありません。イスラエル軍は、ハマースに関係している者なら誰であろうと攻撃しています。戦闘員であるかどうかなどおかまいなしに、民間の基盤施設であろうと一顧だにせずに。

D・B…たとえばガザの警察庁長官のタイシール・アル=バトシュは、彼が従兄の家を訪ねているときをわざわざ狙ってイスラエルは攻撃し、タイシールは負傷、彼の親族18人が殺されました。国際法上、警察は民間人です。これは、明らかな戦争犯罪です。

イスラエルは、病院や浄水施設、下水道、その他、ハマースとは何の関係もない民間の基盤インフラも攻撃しています。実際のところ、イスラエルは、軍事目標と民間人を区別するという国際的な法的要請を尊重していると主張していますが、イスラエル自身の行動が、ハマースを政治的に弱体化させるために、故意に民間人を殺すという政策をとっているということを物語っています。

N・H…いいえ、民間人の死傷者の数が、イスラエルの主張を切り崩しています。国連の数字によれば、7月22日までに殺された640人を超えるパレスチナ人の死者の中で、民間人は433人。一方、イスラエル側で殺された民間人は2人です。この数字を比べてみてください。

「緩慢」か「一瞬」か─どう殺されるかの選択

──ハマースはなぜ、停戦受け入れを拒否したのですか?

D・B…ハマースにしてもその他の党派にしても、エジプトが提案した停戦案について相談されませんでした。エジプトは、パレスチナやパレスチナ人を代表などしません。パレスチナ人を代表するのは、パレスチナ人だけです。

提案された合意の場に主要な当事者がいないのに、事態が前進するなど、考える方が愚かです。さらに、イスラエルは最近、必要物資をガザ地区に入れ、同時に、パレスチナ人が亡くなった者たちの遺体を埋葬できるようにするための人道的停戦を拒否しました。

G・B…ハマースは停戦の申し出を受け入れるのを拒否しましたが、この申し出について事前に相談されておらず、公平さという点で基本的な要件を満たせていませんでした。しかし、それから24時間以内に、ハマースその他のパレスチナのグループは、イスラエルに対して10年間の休戦協定を申し出ました。しかし、イスラエルはこの申し出に応えませんでした。「長期的安定」よりも、イスラエルにとっては、定期的に「芝を刈る」ことの方が都合が良いようです。

N・H…ハマースは停戦を受け入れたいと思っていますが、それはイスラエルが尊重し遵守する停戦であり、ガザに対する封鎖を解除する停戦です。

ガザのパレスチナ人は、封鎖下で緩慢に殺されるか、攻撃で一瞬で殺されるか、という二者択一を迫られています。厳格な封鎖の結果、飲料水もなく、栄養も不十分で、医療も十分ではないせいで、病気や疾病で死ぬのか、イスラエルが、そろそろ「芝を刈る」頃だと決めたとき、あっという間に死ぬかのどちらかだ、ということです。

国境の検問所が開放されて、人々や物資が自由に移動できるようにならないかぎり、ガザのパレスチナ人は、もっとも基本的な権利のないまま、これからも生きることを強いられることになります。

──ハマースはパレスチナ人を人間の楯に使っているのですか?

D・B…「ハマースが民間人を人間の盾に使っている」とイスラエルはずっと主張していますが、長期にわたる国際的な調査によっても、これらの主張を裏付ける証拠は何もありません。皮肉なことに、その逆こそ、確証されています。イスラエルは、軍事作戦を行うとき、パレスチナ人の民間人を人間の楯として使っています。

G・B…この主張は、「犠牲者を非難する」ためのものです。パレスチナ人にとっては、パレスチナ人の血を流しているのはイスラエルだといういことは、疑う余地もなく明らかです。

N・H…イスラエルは、ニューヨークの半分以下しかないガザ地区の44%を軍事的な「バッファ・ゾーン[進入禁止区域]」にしています。誰が誰を人間の盾に使っているのでしょう?

家をノックする

──イスラエル軍は、民間人の死傷を避けるために、可能なあらゆる注意を払っていますか。

D・B…いいえ。「屋根をノックする」方式で、つまり、家を爆破するに先立ってまずミサイルを家の上に落とすということですが、死をもたらしています。アムネスティ・インターナショナルのフィリップ・ルーサーによれば、「民間人の家に向けてミサイルを発射することは、効果的な『警告』を構成するなどということはありえない」。

加えて、イスラエルは[攻撃を警告し、退避を勧告する]リーフレットを撒いていると主張しますが、これらのリーフレットには、人々がどこに行けば安全かということは書かれていません。

G・B…民間人に対して、効果的な避難場所などどこにもない状況下で、「家を離れろ」と警告することは無意味です。シュハイバル家の3人の少年を含む多数のパレスチナ人が、イスラエルの「屋根をノックする」というやり方で―つまり、より破壊力のある兵器を使う前に、警告用とされているミサイルを発射することで殺されています。

N・H…ガザは、地球上でもっとも人口過密なところの一つです。空から、陸から、海から攻撃しておいて、何百人もの民間人を殺さないでいることなど、不可能です。

ガザの民間人の殺傷を防ぐ唯一の道は、停戦しかありません。ハマースは過去の停戦を遵守してきました。そして、平和を実現する唯一の道は、西岸と東エルサレムの占領と植民地化、およびガザの封鎖を終結し、長期にわたり否定されてきたパレスチナ人のその他の権利を尊重するという合意を結ぶことです。

ハマースが10年間の休戦協定提案
国際法上違法な「封鎖」を解除せよ! 

翻訳・解説:岡 真理

10の条件とは、一言で言えば「封鎖の解除」です。「封鎖」自体が国際法上違法な暴力であり、私たちの人権概念に照らして、許されるものではありません。封鎖とは「生きながらの死」であり、封鎖の解除は、ガザの人々すべての願いです。

ハマースの休戦協定案を報道せず、犠牲者の拡大は、あたかもエジプトの停戦案を受け入れようとしないハマースに責任があるかのような報道ぶりは、まったく偏っているとしか言いようがありません。

これ以上の死者を出さないためにエジプト提案の停戦(封鎖解除については停戦後協議)を受け入れろと迫るのは、一見、犠牲になる命を大切にしているように見えて、実は、すさまじく殺しておいて、これ以上殺されたくなければ、封鎖の解除など四の五の言わずに、さっさと降参しろ、というヤクザの恫喝のように聞こえます(2012年の攻撃のときの停戦は、封鎖緩和が条件でした。しかし、イスラエルはそれを履行しませんでした。停戦の条件ですら履行しない者が、いったん停戦した後に協議して実効性ある答えが得られるわけがないと、ハマースが考えるのは、無理からぬことです)。

PLOがハマース提案に対する支持を表明しましたので、封鎖の解除を条件とする停戦が前進するかもしれません。

しかし、この停戦案をイスラエルが受け入れることは政治的敗北です。地上戦にまで踏み込み、イスラエル兵側にも大きな犠牲を出した挙句、封鎖解除という政治的勝利まで勝ち取られたとあっては、ネタニヤフ首相の大失策になります。そのため、力でますますねじ伏せようとして、攻撃が激化するのではないかと心配です。

イスラエルに対し、「一刻も早く攻撃をやめろ」だけではなく、封鎖の解除、そして、ハマース提案の休戦協定案を受け入れろ、ということを、国際社会が―私たちのことです―声を大にして訴え、もし、イスラエルがガザの違法な封鎖の継続を望み、ガザの人々を「生きながらの死」「緩慢な死」の状態にとどめおくことを望んで、この休戦案を蹴るならば、そのようなイスラエルこそを弾劾し、制裁する必要があるのだと思います。

× × × 
▼参考:http://mondoweiss.net/2014/07/deafening-silence-proposal.html

ハマースが提示した休戦10条件

@ガザとの境界からイスラエルの戦車が撤退すること

境界線の内側300メートルから1.5キロに及ぶ区域(ガザ全土の35%、全可耕地の85%)を、イスラエルはパレスチナ人のアクセス禁止区域としており、立ち入った者は発砲されます。戦車の撤退は、ガザのパレスチナ人が自分たちの領土内で、命の危険を伴わずに安全に農業を行うために必要なことです。

A3人の少年殺害後に逮捕された囚人すべてを釈放すること

イスラエル人少年3人が誘拐された後、イスラエル政府は、少年らが誘拐直後に殺害され、その容疑者も特定できていたにもかかわらず、軍事作戦を展開し、数百名を逮捕、その過程で9名を殺害しています。これは、西岸のハマース・メンバーを再逮捕することが目的でした。

B封鎖を解除し、境界の検問所を商業および人間に開放すること

物資の自由な搬入・搬出、人間の自由な移動が禁じられているために、ガザの人々は「生きながらの死」をこの8年間、生きています。

C国連の監督のもと、国際用の港と国際空港を創り機能させること

日本のODAで建設されたガザ空港は破壊され、ローマの遺跡のような廃墟となっています。

D出漁範囲を10キロまで認めること

オスロ合意で認められたガザの領海は20海里でありながら、出漁は3〜6海里に制限され、それを超える出漁は発砲や拿捕、漁船の没収に遭います。ガザの漁師の多くが漁をすることができません。

Eラファ検問所を国際化し、国連およびアラブ諸国の監督下におくこと

現在、エジプト側の時の権力のご都合しだいで、ラファハは閉鎖されています。

F境界に国際軍をおくこと

Gアル=アクサー寺院での礼拝許可の条件緩和

Hファタハとハマースの和解合意にイスラエルが介入することを禁止する

I工業地区の再建およびガザ地区における経済開発の改善

ガザは占領が始まった直後から一貫して、その経済開発を妨げる「反開発(Dedevelopment)」政策がイスラエルによってとられてきました。

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